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第81話 女装男、担任教師のことを知る


 体育での騒動や、花子の見てはいけない部分を垣間見てしまう、など、六月の前半は色々な事があった。


 だが、その後は……特に目立ったことはなく。瞬く間に、日々は過ぎて行った。


 10日後の、6月14日。いつものように穂乃果たちと共に学校に登校していると、校門の前に、見慣れた男の姿が立っているのに、オレは気が付いた。


「……今日も、ですか……」


「よぉ! 楓! 来たぜ!」


 毎朝のように校門の前に現れる黒獅木アキラの姿にも、いつの間にか随分と慣れてきたものだ。


 オレは呆れたため息を吐きながら、彼に対して口を開く。


「………黒獅木さん、貴方、売れっ子の俳優なのに、何故、こんな東北くんだりまでやってきて、女子高に張り付いているのですか……? もっと、他にやるべきことがあるでしょう……?」


「はっ! 俺様が今、やるべきことは、お前のその不可思議な演技の秘密を見破ることだけだ! 如月楓!」


「………呆れて言葉も出ません。では、私はこれで。失礼いたします」


「待ちな! この鍵を見ろ!」


「鍵?」


 黒獅木はこれみよがしに、車のキーのようなものを、オレに掲げて見せてきた。


 そして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、彼は再び開口する。


「今日は、お前を堕とすために、俺様の愛車……マクラーレンをここに持って来ている! 二千万はするスポーツカーだ! この車を前に、堕ちなかった女は今までいな――――」


「失礼いたします」


「ちょ、はぁ!?」


 オレは黒獅木を無視して素通りし、そのまま校門の中へと入って行った。


 オレに続いて、穂乃果と花子も追いかけてきて、最後尾にいる陽菜が、黒獅木にべーっと舌を出している姿が肩越しに見えた。


 オレはそのまま前へと顔を向けると、学校へと歩みを進めて行った。


 そんなこちらの様子に、 背後から、黒獅木の掠れた声が聴こえてくる。


「………ク、ククッ、面白い女だ……絶対に、堕としてみせるぜ……!」


 えぇ……。なんか、あの変人男におもしれー女判定されちまったぞ、オレ……。


 オレはれっきとした男です、そして頭に芋けんぴが付いてるようなオモシレー女ではないです……。


 アーッ♂は望んでいないので、少女漫画みたいな展開は、本当、切にやめてほしいところだ……。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「―――――如月さん、ちょっと今、大丈夫ですか~?」


「? はい。万梨阿先生、なんでしょうか?」


 昼休み。教室で穂乃果と昼食を囲みながら喋っていると、担任教師である蘆谷万梨阿が、オレに声を掛けてくる。


 シスター服を着ている穏やかそうなこの先生は、この学校では一応、オレの正体を認知している人間の一人ではある。


 とはいっても、この学校に入学してから二か月間、彼女とは一度もまともに会話したことは無いのだが。


「今から貴方に、大事なお話があるんです~。生徒相談室の方に来てもらえますか? 香恋さんもいらっしゃってますので~」


 そう言って彼女はチラリと、前の席に座る穂乃果に視線を向けた。


 なるほど……香恋がいる(・・・・・)、つまりは、オレの正体絡みで大事な話がある、と、そういうことか。


 オレは弁当箱のフタを閉めて、穂乃果へと顔を向けて、微笑みを浮かべた。


「穂乃果さん、少し、行ってきますね。先にお弁当、食べちゃっててください」


「はいです! いってらっしゃいませ~~!!」


 穂乃果に断りを入れて、万梨阿先生の隣に並んで、一緒に廊下を歩いて行く。


 万梨阿先生はチラリとこちらに視線を向けると、ニコリと、柔和な笑みを見せてきた。


「最初は、どうなるものかと思いましたが……今では随分と馴染んでいられますね、如月さん。先生、香恋さんからこの話を聞いた時は、とってもびっくりしましたよ。そんなことが本当に可能なのか、って。驚きすぎて椅子から転げ落ちたくらいです~」


「あ、あははは……。ご迷惑をお掛けしています、万梨阿先生」


「フフフッ。本来であればこんなこと、教育者としては認めてはいけない行為なのでしょうけれど……私は、如月さんがこの学校に来てくれて良かったなぁって、今ではそう思っているんですよ」


「え…?」


「だって、貴方が来てから、この学校はとっても明るくなったんですもの。ほら」


「あっ! お姉さま! こんにちわ!」


「こんにちわー! お姉さま、万梨阿先生ー!」


 廊下ですれ違った他クラスの生徒たちの挨拶に、万梨阿先生は小さく手を振り、笑みを浮かべて挨拶を返す。


 そして再びオレに視線を向けると、彼女はにこやかに開口した。


「香恋さんが、貴方を、色彩を産み出す魔術師のような役者、と、以前言っていたのですが……その言葉の意味が、最近になって分かってきました。貴方は、関わる人みんなを笑顔に変えていく、太陽のような存在です」


「そんなことは……私は、以前の学校では、教室の隅で一人で本を読んでいるような生徒でしたよ。陽の者ではなく、間違いなく陰の者でした」


「そうなのですか? 全然、想像が付きませんが……でしたら、この学校に来て、貴方が変わった、ということなのかもしれませんね」


「私が、変わった? そう、ですかね……?」


「はい。貴方のお母さん……花ノ宮由紀も、最初は無表情で暗い子でしたが…お友達と関わるようになって徐々に明るい性格に変わっていきましたから。貴方たち親子は姿形だけではなく、内面も似ていると、私はそう思います」


「え……?」


 花ノ宮……由紀……? 何故、母さんの名前を、万梨阿先生が……?


 足を止め、困惑していると、万梨阿先生がこちらを振り返り、クスリと笑みを溢してくる。


「今まで、お話したことは無かったかもしれませんが、私は、貴方のご両親とは同じ大学の同級生だったのですよ」


「同級生……?」


 突然のその話の流れについていけず、オレは思わず目を二三度パチクリと瞬かせてしまう。


 そんなオレに彼女は微笑を浮かべながら近付き、再び口を開いた。


「花ノ宮家が運営する大学……そこで、私と貴方の両親、そして、穂乃果さんのお母さんは、同じサークルに入っていたんです。とっても仲が良かったんですよ~」


「大学の、同級生……そう、だったんですか……」


 正直に言うと、オレは父と母の過去を、よくは知っていない。


 大学で出会って、そこから二人で駆け落ちして、イギリスに渡ったことくらいしか……情報がない。


 母は幼いオレに花ノ宮家のことをあまり話したくはない様子だったし、父は、そもそも10歳の時に別れて以来、まともに会話もしていないからな。


 だから、あの二人の過去を知っている第三者がいることは、すごく新鮮に感じられた。


「もしかして、お父さんとお母さんから、昔のお話はあまり聞かされていない感じですか?」


「えっと…そう、ですね。あんまり、聞いたことはありません」


 歩みを再開させて、先生と共に並んで廊下を進んで行く。


 すると、万梨阿先生は隣で、何処か懐かしそうな目をして、口を開いた。


「貴方のお父さんは……柳沢恭一郎は、本当に、由紀のことを愛していましたよ。ですから、そんな由紀の子供である貴方たちを捨てたという話を、香恋さんから聞いた時は……正直言って、本気で信じられませんでした」


「………万梨阿先生が見た過去の恭一郎がどのような人間なのかは分かりませんが、あの男は、私にとっては非情で合理的な人間にしか見えませんでしたよ。愛情など、欠片も感じたことはありません」


「そう、なのですか……」


 そう言って小さくため息を吐いた後、万梨阿先生はぼそりと、静かに口を開いた。


「でも……恭一郎くんは、とても不器用な人ですから。大切なものほど、遠くに置きたがるんですよ、あの人は」


「え……?」


「行きましょう、如月さん」


 そうして、万梨阿先生とオレは、そのまま一言も喋らずに、廊下を歩いて行く。


 窓の外を見ると、どんよりとした分厚い雲からザーザーと降る、梅雨の雨の姿が、見て取れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「来たわね、柳沢くん」


 生徒相談室の中に入ると、香恋はソファーの上に座り、優雅にティーカップを手に持っていた。


 彼女の背後にいるのは、以前一度だけ会話したことのある、香恋のメイド、玲奈。


 相変わらず不機嫌そうな顔でこちらを睨んでおり、あまりオレに対して良い感情を抱いていないことは明白だった。


「………それで……話って何だよ、香恋。わざわざ万梨阿先生を使ってオレを呼びだしたんだ、何か用事があってのことなのだろう?」


「勿論よ。まずは、これ、見てくれるかしら」


 そう言って香恋は、スクール鞄を逆さにすると、テーブルの上に大量の小さな紙切れをバラ撒きはじめた。


 いったい何をしているんだと困惑しながらも、その紙の一枚を手に取り、目を通して見る。


「……朝陽プロダクション、新島翔……何だこれ、名刺か?」


「ええ。全部、芸能プロダクションの名刺よ」


「何でそんなもんが、こんな大量に……?」


「貴方をスカウトしにきたのよ。それで、学校の運営者として、私が全て応対したってわけ」


「オレを……スカウト……? え? どういうこと?」


「この前のロミジュリで、貴方の記事がゲイノウビジョンに載ったせいかしらね。そのミステリアスさに惹かれた芸能事務所が、こぞって貴方の演技を見たいと連絡してきたのよ。中には、演技も見ずに話題性だけで専属契約を結びたがる事務所もあったわ」


「………マジ、か……」


 ゲイノウビジョン、恐るべき、だな。まさか、こんなにオレと契約を結びたがる事務所が出てくることになろうとは……思いもしなかった。


「良い機会だわ。柳沢くん、この中からひとつ、好きな事務所を選びなさい」


「え? は?」


「女優として、本格的に芸能界入りしなさい、柳沢くん、いえ―――如月楓」


 そう言って彼女はニヤリと、不敵な笑みを浮かべたのだった。


第81話を読んで下さって、ありがとうございました!

最近は、この作品は読者様のみなさまに飽きられないか、つまらなくないか、と、

日々病んでいる三日月猫です笑

みなさまがいいね等反応してくださるだけで、いつも安堵の息を吐いています笑


今現在、剣聖メイドの書籍の方を執筆しておりますので、もしかしたら投稿が遅れ……いえ、毎日投稿頑張ります!!

明日も投稿する予定ですので! また読んでくださると嬉しいです!

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[一言] 剣聖メイド楽しみに待ってます、けど無理しなくてもいいですよ
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