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第80話 女装男、バハムートを蹴られる。


 熱血教師…鈴鳴日向先生考案のバレー大会は、女優科クラスの勝利として、無事、幕を閉じた。


 本来であれば、次は声優科と女優科が対戦する予定だったのだが…丁度さっきの試合で四限目が終わってしまったので、今回は負けたクラスが体育の後片付けをする件は無しとなった。


 その代わり、全員で後片付けをするという、何とも言えない結果となってしまったのが……辛いところではあるのだが。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 数分程でバレーボールとネットを片付け終え、そのまま、3クラスの生徒たちは各々仲の良い友人と雑談を交わしながら、体育館を出て行った。


 そんな彼女たちの姿をボーッと眺めていると、背後から声を掛けられる。


「……意外だったわ。まさか貴方が、バレーの授業で本気を出すだなんてね」


 後ろに視線を向けると、そこには、微笑を浮かべる香恋の姿があった。


 オレはそんな彼女に対して、大きくため息を吐いて、頭を横に振る。


「まぁ、な。自分でもらしくない行動だったとは思っているよ」


「貴方、随分と変わったようね。私が知る『柳沢楓馬』ならば、例え友人が傷付けられても、何もせずただ傍観していたと思うけれど。子役時代の貴方は、血の通わない冷徹な印象をしていたと記憶しているわ」


「……何でお前が過去のオレを知っているんだよ。お前とは、子役時代に直接会ったことは一度もないだろ」


「フフ……。そうね。私と貴方は、会ってはいないわね」


「? いったい何が言いたいんだ? 相変わらず変なことを言う女だな、お前は……」


「む……人を変人呼ばわりしないでくれるかしら。貴方の方がよっぽど変態…失礼、変人だと思うのだけれど?」


「あの、変態はやめてくれる!? お前がオレをこうしたのだからな!? そこのところちゃんと分かってる!?」


「そうね。変態じゃなくて、変質者が正解かしら?」


「もっと悪くなってるぞオイ!! あと、変人はお前もだろ! さっきのバレーの試合とか、本当、何だったんだよ! 経験者ですみたいな顔して威風堂々と現れたくせに、まるっきりド素人だったじゃねぇか! 謎にビビッてしまったぞ!」


「実は私、基本的に目で見たものはすぐに記憶することができるの。だから、貴方の動作をコピーして、やってみようと思ったのだけれど……上手くいかなかったわ。動きというのは記憶できても、すぐに実践に移すのは難しいようね」


「え…? もしかしてお前……瞬間記憶能力を持っているのか……?」


 瞬間記憶能力―――それは、一度見た風景や物質、映像を一瞬で記憶できる能力のことだ。


 小説家の谷崎潤一郎や三島由紀夫が持っていたとされており、歴史上の天才と呼ばれる人間に多く発現されていた能力。


 教科書を丸暗記するということも可能だが…この能力を持った人間は、見たものを忘れられないというデメリットも同時に併せ持っている。


 悪夢のような思い出もずっと忘れることが出来ず、苦痛に苛まれることもあるという。


 まぁ…全部本で得た知識なので、本当かどうかは定かではないのだがな。


「……なるほどな。桜丘会長がお前を天才だと言った理由が、何となく分かったような気がするぜ」


「? 桜丘会長…? それって、桜丘櫻子のこと?」


 オレからその名前が出るとは思っていなかったのか、キョトンとした表情を見せる香恋。


 そんな彼女に、先日あったカラオケの件を説明しようと口を開きかけたところ―――オレの元に、花子が近付いて来た。


「………青き瞳の者」


 何故か五メートル程の距離に立ち、顔を俯かせながらそう声を掛けてくる、花子。


 その様子に首を傾げつつ、オレは花子に向けて口を開く。


「あっ、花子さん。怪我の方は、その、大丈夫ですか?」


「問題は……ありません」


「そうですか? ですが…見たところ、痣がけっこう残ってしまっていますね。保健室に行きましょう。付き添います」


 そう言ってオレは花子の元へと一歩、歩みを進める。だが、花子は逆に一歩、後ろに後退した。


「……? 花子さん……?」


「近付かないでください。フランチェスカさんは今、おかしくなっています。貴方が至近距離に接近すれば、魔力が暴走して、この周囲一帯を破壊し尽くしてしまうかもしれません。とてつもない大惨事に発展してしまいますよ」


 いつも変なことを言う女だが、今日はいつにもましておかしなことを言っているな。


 オレは訝し気な視線を向けた後、そのまま花子の元へと歩みを進めて行った。


「ちょ、ま、待って……!!」


 逃げようとする花子の腕を掴む。すると驚いた花子は勢いよく、顔を上げた。


「あれ……?」


 花子の人形のように真っ白な肌が、何故かリンゴのように真っ赤に染まっているのが見て取れた。


 もしかして熱でもあるのだろうか? 


 掴んだ手首の脈が随分と早いように感じられる。


 花子は動揺した様子でオレを見つめた後、慌てふためくように口を開いた。


「は、離れ……わ、私、汗………い、か、ら……」


「え?」


「汗…臭い、から……っ」


「は? 汗臭い?」


「…………し……死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!! バハムートォォォ!!!!!」


「ぐほぉあぁっ!?!?」


 何故か花子は、オレの股間に……蹴りを食らわせてきやがった。


 オレは前のめりに倒れ伏し、股間を抑えて、悲痛気に呻き声を上げる。


 そんなオレを花子はゼェゼェと荒く息を吐きながら見下ろすと、そのまま、彼女は逃げるように体育館の外へと出て行ってしまった。


 何故だ…何故、オレがこんな目に……?


 何かした? オレ、花子パイセンに何かした?


 オレのバハムートのHPが、瀕死状態になってしまったんだが??


 どうしてくれるの? ねぇ、オカッパ座敷童さん??


 まだ一度も使ったことがないのよ、この破壊神龍ちゃんは!!!! 新品同然なのよ!!!!


「……まったく。貴方も罪な人ね」


 そう言って香恋はオレを呆れた目で見つめると、花子に続いてそのまま体育館を出て行ってしまった。


 体育館に残されたのは、股間を抑えて床に倒れ込む、女装男一人となる。


 とても……辛い。思わず、泣きそうになってしまった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――――午後七時半。


 自宅に帰宅したオレは、リビングのソファーの上で、何んとなしにスマホの画面を点けてみる。


 今日、花子の様子がどこかおかしかったのが、やはり、気にかかる。


 バレーボール部に痛めつけられたことが相当、メンタルにきていたのだろうか。


 彼女には先日の合コン件で色々と手助けしてもらったから、何か力になれると良いのだが……。


「……そういえば、あいつ、vtuberやってるとか言っていたっけ?」


 オレは動画投稿サイト、Yootube(ヨーチューブ)を開き、検索欄に『フランチェスカ』と入力する。


 すると、ゴスロリ衣装を着た金髪ツインテールの立ち絵の…vtuberのアカウントがすぐに出てきた。


 真祖の吸血姫、フランチェスカ・フォン・ロクサーヌ。


 うん、間違いなくこれは、花子が演じているキャラだろう。


 登録者数、32万人……すげぇな、あいつ、vtuber業界の中ではかなり有名な方なんじゃないのか?


 エロゲ声優の他にも、vtuberとしても成功を収めているのか……本当、すごいな、花子パイセン。


 オレの友人の中では、茜に継いで、芸事で成功している人間だろう。


「………お? 今、ライブ配信中ってなってるな。どれ、ちょっと見てみるか」


 『【雑談枠】フランチェスカちゃんは今日も疲れたよ』と書かれた、ライブ配信のサムネをタップする。


 すると、配信が再生され―――画面中央に、金髪ツインテールの女の子の立ち絵が現れた。


『やっほー、みんなー! フランチェスカちゃんだよー☆ おっすおっすー!』


「………は?」


『最近、雨ばっかりで嫌になるよね~。もう、ジメジメしていて嫌な感じ~。あっ、瑠璃色キノコさん、スパチャありがとう~~!! みんなの血液(スパチャ)のおかげで、フランチェスカちゃんは今日も頑張って生きることができてるよ~。本当にありがとう、眷属たちよ~』


「………いや、誰なの、君……」


 本当にこれ、花子なのか? 声が全然違うし、キャラも全然違うのだが……。


 でも、フランチェスカなんてvtuber、他にいないし……これ…どういうことだ?


 オレが困惑している間も、フランチェスカの配信は続いて行く。


『今日はね、魔界の学校ですっごく嫌なことがあったんだ~。妾、運動が苦手なんだけど、球技大会に出ることになっちゃって。それで、オークとかゴブリンたちにボコボコにボールを投げられて、いじめられちゃったの……ホント、すっごく疲れたよ~~』


 それって……今日あったあのバレーボールの試合のことか? 


 てか、普通科のバレー部の連中がオークとかゴブリン呼ばわりなの、何かウケるな。


『でもでも、学校で人気者の女騎士さんが、妾を助けてくれたんだ~。はぁ…すっごくかっこよかったなぁ、女騎士さん。まるで、お姫様を助けに来た、王子様みたいだったよ~。本当、今思い出してもニヤニヤしちゃう。妾のこと、優しい人だって。大切な友人だって。ぐふふふふ……』


「………」


『助けてくれたお礼に、女騎士さんをフランチェスカちゃんの眷属にしてあげるって言って手を掴んだら、汗臭いから近付かないでって言われてね。女騎士さん、そのまま逃げて行っちゃったんだ~~。すごい恥ずかしがり屋な人だよね~~!!』


 いや、それお前な? オレじゃないからな?


『でも、フランチェスカちゃん、諦めない! いつかあの女騎士さんを、絶対に妾のものに、眷属にしてみ――――』


 アプリを上にスライドしてタスクキルをし、スマホの画面を消す。


 ………うん、これは見てはいけなかったものだな。忘れた方が花子パイセンのためだな。


 そう言って、大きくため息を吐いた後、ルリカの部屋から大きな声が聴こえてきた。


「フランチェスカちゃーん! 今日も可愛いよぉーーっ!!」


 なん……だと……?


 大天使ルリカエルが、あの座敷童のファンだったというのか……っ!?


 そんな馬鹿な……っっ!!


 我が神が、あのような守銭奴淫乱オカッパを信仰しているなんて……!!


 あの女は、お兄ちゃんのバハムートを蹴った悪魔なんですよ、ルリカちゃん!! 


 あと、教育上あのエロゲ脳淫乱オカッパに近付いて欲しくないです、お兄ちゃんは!!


「はぁ………もう全部忘れて、寝よ」


 オレはソファーから立ち上がり、そのまま自室へと向かって歩みを進めて行った。


 フランチェスカなんてvtuber、オレは見ていない。うん。


みなさま、第80話を読んでくださってありがとうございました!

よろしければ、モチベーション維持のために、評価、フォロー、いいね等よろしくお願い致します


次回は明日投稿する予定です! また読んでくださると嬉しいです!

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