第77話 女装男、体育の授業を受ける。
花子に腹パンを食らわせられつつも、何とか更衣室で体操着に着替え終わった後。
オレは、香恋と花子と共に、体育館に辿り着いていた。
あと数分ほどで授業が始まるためか、体育館の中には多くの生徒たちの姿が散見できる。
流石に三クラス合同ということもあってか、広い体育館の中といえども、人口密度は高くなっていた。
「あっ、お姉さま!」
入り口のところでボーッと突っ立って体育館の光景を見つめていると、穂乃果がオレの姿を見つけ、ぱたぱたと可愛らしく駆け寄って来る。
そして彼女はオレの前に立つと、祈るようにして手を組み、キラキラとした輝いた目を向けてきた。
「わわぁ! お姉さま、体操着御姿も素敵ですぅ! 髪もポニーテールに結んでらっしゃって…!! 凛としていて、とっても似合っておいでですよぉうっ!」
オレはそんな彼女に引き攣った笑みを浮かべつつ、言葉を返す。
「あ、ありがとうございま、す……」
う、うぅ…ポニーテール姿を似合っていると言われても、正直、どう反応して良いのか分からないな。
それにしても、まさかオレが、女性ものの体操着を着ることになろうとは思いもしなかった。
いや、見た目はただのジャージだし、男が着る分にはあまり違和感はないとは思うんだけどね?
でも、女子高の体操着を着ているとか考えると、今のオレって、相当な変態男なのではないのかな……?
女子高に女装して潜入した男が、女子の体操着を着て体育をする…字面だけみるとそうとうヤバイな、これは。
誰がどうみても、今のオレは、変態でしかない。
「……はぁ…」
そう、現状に頭を抱えて重いため息を吐いていると、背後からぐふふふと、邪悪な笑い声が聴こえてくる。
「…女子の体操着着ているからといって、興奮しないでくださいね、青き瞳の者よ。流石に貴方のバハムートがこの場で覚醒したら、いくらフランチェスカさんでも隠しようがありませんので」
背後からオレの耳元に向けてそう囁いてくる、妖怪、佐藤花子。
オレは背後を振り向き、そんな妖怪座敷童女にジト目を送る。
「あのですね、そんなこと一切考えていませんから。それと、そろそろバハムートネタ擦るのやめていただけませんか、花子さん」
「ふっ、私の目の前に、あのような恐ろしいものを晒し出したお前への復讐です。当然の意趣返しです」
「私が自分で晒したわけじゃありませんから!! 貴方が勝手に見たんですからね!! そこのところ、履き違えないでください!!」
花子の両肩を掴み、ガクガクと彼女の身体を揺する。
すると花子はニヘラと笑みを浮かべた。
「あー、犯されるーー、ぶっといおちんぎんで、あかちゃんのおへやこんこんされちゃう、ああー」
「なんつーことを公衆の面前で言ってるんですか!! てか、すんごい棒読みですね!? それでも貴方、声優なのですか!?」
「ほう、安い挑発ですね。お望みとあれば、ここで、フランチェスカさんの得意なフ〇ラ音を聴かせてやりましょうか? 口に人差し指突っ込んでグッチョグッポと言ってやりますが?」
「絶対にやめてください! 怒りますよ!!」
「? フ〇ラってなんですか、花子ちゃん?」
「ほほう、穂乃果、知りたいのですか? 良いでしょう、フ〇ラとは――――」
「やめてくださいこの淫乱オカッパ妖怪! 穂乃果さんに変なことを教えないでください!!」
穂乃果を抱きしめ、花子から遠ざける。
すると、穂乃果は両手を口元に当てはわわと、顔を真っ赤にし始めた。
「お、お姉さまに、だ、抱きしめられちゃってますぅ……はわわわわわわっ」
「あっ…す、すいません、穂乃果さん、つい……」
どうにも穂乃果のことは、ルリカと同じように保護する対象というか、そういう、妹目線で見てしまう節があってか…時折、今のように距離感を間違えてしまう時がある。
何というか、彼女に対してはオレは無意識に、お兄ちゃん属性を発揮してしまうのだ。
「…………何を鼻の下を伸ばしているのですか、貴方は」
「いたたたた……ちょ、頬を摘ままないでくだひゃい、ひゃなこさんっ!」
今度は逆に穂乃果からオレを引き離そうと、花子がオレの頬を引っ張って来た。
花子さん、最近、オレの扱いがぞんざいになってきてはいませんかね? 男だってバレる前は、こんな、暴力的なことしてきませんでしたよね? そこのとこどうなんですか、花子パイセン?
頬を引っ張られながら花子に抗議の目を向けていると、後方から笑い声が聴こえてくる。
「フフフ」
チラリと肩ごしに後方へと視線を向けると、そこには、オレたち三人を遠巻きに見つめる香恋の姿があった。
香恋はオレと目が合うと、目を伏せフッと笑みを浮かべる。
「私のお人形も、いつの間にか随分とこの学校に馴染むことができたようね。何よりだわ」
そう言葉を残すと、彼女はオレたちの横を通り過ぎ、スタスタと、体育館の奥へと去って行った。
………オレを人形扱いかよ。あいつも相変わらずだな…。
「そういえば……」
そういえば、香恋が普段、学校でどのように過ごしているのかを、オレはまったく知らないな。
あの女……クラスに友達とかいんのか? いっつも、メイドの玲奈とかいう女子と一緒にいる姿しか見たことないんだが…?
他の生徒よりも関わる時間は多い香恋だが、オレはあいつのことを殆ど知らないことに、今、気が付いた。
「どうかしましたですか? お姉さま?」
去って行った香恋の背中をじっと眺めていたら、不思議そうに首を傾げて、穂乃果が隣からそう声を掛けてくる。
オレはそんな彼女に微笑みを向けて、静かに首を横に振った。
「……いえ。何でもありませんよ、穂乃果さん。さっ、もうすぐ授業が始まりますし、整列しましょうか」
「はいですっ!」
花子と別れ、女優科の列に混じり、穂乃果と共に最後列付近で並ぶ。
体育の授業、か。中学の時はやる気が無かったから、真面目に受けた記憶は一回もないんだよな。
とはいっても、花ノ宮女学院でも本気で体育を望むわけにはいかない。
今のオレは女装していても中身は男子なわけだし、全力で事に挑んでは周囲に男バレする可能性もあるからな。
まぁ……もう既に一度、恭一郎の課した稽古で、グラウンドで全力の走りを見せてしまっているから……今更であるのかもしれないが。
―――――とにかく。男バレしないためにも、この時間は、目立った行動は控えるようにしよう。
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「女優科のみなさん、初めまして! 私は、一年生の体育教科を担当する、鈴鳴 日向と申しますっ! 青春とは気合いだー! みんな、よろしくねー! おぉーっ!!」
そのショートカットの女教師は瞳の中で炎を燃やしながら、腕を天高く突き上げ…にこりと、満面の笑みを浮かべる。
だが……誰も、彼女の号令に合わせて、腕を上げる者はおらず。
辺りには、シーンと、静寂だけが広がっていた。
「ノリが悪いぞ、君たち! 先生がオーと言ってたら、みんなで腕を上げるんだ! オー!」
「……お、おー…」
「声が小さいっ!! もっと気合いを入れるんだ!! オー!!」
「おー…」
……何だ、この女教師。めちゃくちゃ暑苦しいぞ…。女版松〇修造みたいなやつだな…。
そう、キャラの濃い体育教師に困惑の表情を浮かべていると、鈴鳴先生は目の前に並ぶ三クラスの集団に目を向けて、興奮したようにフンスフンスと鼻を鳴らした。
「今日は、普通科、声優科、女優科の三クラスで合同の体育を行います! 先生は、決めました! 今から君たちは命を燃やし、決死の戦いをし、友情を深め合う……そんな青春を送ってもらおうと!!」
「せ、せい、しゅん……?」
オレがそう動揺の声を溢すと、鈴鳴先生はビシッとオレに指を突き刺し、声を大きく張り上げる。
「そうです! 青春です! そこの子、お名前は何て言うんですか!? というか、日本語分かりますか!? ハローハロー!!」
「き、如月楓です……。こんな見た目ですが、殆ど日本人の血しか入っていないクォーターなので、普通に日本語は分かります…」
「そうですか! 楓ちゃん! よろしくお願いしますね!」
そう言ってニコリとオレに微笑みを向けた後、鈴鳴先生はコホンと咳払いをし、生徒全体を見渡して開口した。
「今からみなさんには、クラス間でバレーボールの対戦をしてもらいます!! そして、三クラスの内、一番成績が低かったクラスは、授業の後片付けを先生と一緒にしてもらいます!! お昼休みを賭けた負けられない戦いですよー!! 燃えますねー!!」
この先生……まだ登場してから数分しか見ていないが、もう理解した。なかなかに、ヤベー奴だ。
「チームの編成は、自由です! 運動神経が良い子を入れるも良し! バレー部に在籍している子を入れるも良し、です!!」
「ちょ、ちょっと待ってください、先生!」
「はい! 何ですか!」
先頭で茜と一緒に並んで座っていた宮内が挙手をして、立ち上がる。
そして、引き攣った笑みを浮かべながら、彼女は口を開いた。
「部活動は、基本的に普通科の生徒が行っているものです。ですから、私たち女優科と、声優科に、バレー部の生徒はいません。圧倒的に、普通科が有利だと、そう思うのですが……」
「うん、確かに、その通りだ! でも、壁はでかければでかいほど燃えるもの、でしょう?」
「は……?」
「気合いがあれば何でもできるんだよ、宮内さん!! 女優科だから何だ! 声優科だから何だ! 君たちは、もっと大きな高み…芸能界という大きな大海原を踏破する若き戦士たちだろう!? 多少のハンデくらい、乗り越えてみようじゃないか!!」
………ダメだ、この女教師。
もう何から何まで、根性論に脳を支配されてるやべー奴だ…。
ちょっと、香恋さん? 理事長? お宅の学校、こんな変な人間を教師に雇っているのですか?
ちゃんと面接してるんですか? どうなってるの、お宅の雇用体制は!!!!
第77話を読んでくださってありがとうございました。
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