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第72話 女装男、告白される


「それじゃあ、アタシ、ラブソング歌っちゃいまーす!!」


「おー!!」


 タンバリンを振る彰吾と、マイク片手に歌い始める陽菜。


 ダンボールを被り、部屋の隅で体育座りをして震えている穂乃果。


 何故かラーメンを注文し、眼鏡を曇らせながら食べている透。


 オレの横で、陽菜にがるるると唸り声を上げている委員長。我関せずとコップに入ったオレンジジュースを飲む生徒会長。


 カラオケ部屋では、そんな、合コンとは名ばかりの…よく分からない状況が展開されていた。


「……今のところは、大丈夫そうだが…。ここに長くいるのは、得策ではないな……」


 いつ何時、ボロが出るかも分からない。期を見計らって、脱出した方が良さそうだ。


「ん?」


 スマホが震えたので、画面を点けてみる。


『……先ほどの一件は危なかったですね。貴方が私の意図を汲んでくれたので、何とか回避できました』


 さり気なく前方に視線を向けると、花子がこくりと頷いている姿が見て取れる。


 オレはそんな彼女に微笑みを浮かべつつ、メールの返信をして行った。


『本当に、花子さんがいて助かりましたよ。貴方に正体がバレていて良かったと、心の底から想いました』


『では、恩義に報いて、偽乳付けてグラビア撮影会に参加してくれますね? 青き瞳の者よ』


『それはお断りいたします。……というか、前に、ベッドの上で写真を撮らせてくれって言われて、しぶしぶ行ったので…カメラの件はそれでチャラになったはずですよね?』


『カメラの件は、です。今回の件とはまた別です』


『………この守銭奴座敷童め』


『何とでも言ってください。私には多くのお金が必要なのですよ。ですから――――』


「……ちょっと、楓馬くんと花子、何か、仲良さげじゃないー? さっきからアイコンタクトしまくってるの、見えてるんですケドー??」


 陽菜がマイク片手に、そう、オレたちに声を掛けてくる。


 オレたちは同時にスマホを仕舞い、コホンと、咳払いをした。


「どうかしましたか、ビッチ」


「どうかしましたか、じゃなくって。あんた、何でそんなに楓馬くんと仲良さげなのよ? もしかして、あんたも彼のこと狙ってる感じー?」


「まさか。フランチェスカさんはリアルの人間に恋情など抱きませんよ」


「ふーん? そのわりには、普段見せない楽しそうな笑顔で、チラチラと楓馬くんのことを見つめていたと思うけど?」


「…………そんなことは絶対にしていません。殺しますよ、ビッチ」


 ジト目を向ける花子と、不思議そうに首を傾げる陽菜。


 いつもだったらこの二人が喧嘩し始めたら、穂乃果が仲裁役を買って出るのだと思うのだが……生憎と、その穂乃果は部屋の隅でダンボールマンと化してしまっている。


 どうしたものかと、頭を悩ませていると、陽菜がこちらに視線を向けてきた。


「ねね、アタシ、楓馬くんの隣に座っても良いかな? 君ともっとお話ししてみたいなー、なんて」


「へ?」


「ねね? 良いでしょ?」


 オレの方へと身体を向け、開けた胸元の隙間から、谷間をこちらに見せつけてくるギャル子ちゃんこと陽菜ちゃん。


 こ、こいつ、如月楓の時は気の良い姉御肌の友人だと思っていたが……男として接すると、全然印象違うな…!! 何か、すげー、グイグイくる……肉食系か!?


 オレが目をグルグルとさせて混乱していると、前の座席から不機嫌そうに眉間に皺を寄せている花子の姿が見て取れる。目が合うと、チッと舌打ちまでしてきた。やだなにあれ怖い……。


「だ、駄目ですよ!! 柳沢くんの隣は渡せません!!」


「い、委員長!?」


 席を立ち、委員長は陽菜にビシッと指を突き付ける。


「私が何年、柳沢くんのことを好きだったのだと思っているのですか!! ポッと出の貴方が、彼の隣に座るなど、100億年早い話です!!」


「は? 委員長!?」


「おぉ、何かノリで告りだしたな」


「まぁ、牧草が楓馬を好きだったのは昔から知っていたからな。別に驚くことでもないが」


 オレがテンパっていると、奥の席に座る二人――彰吾と透が冷静な顔をしてそう呟く。


 いや、お前ら、明らかに暴走してしまっている委員長を止めてやれよ…長年の友達だろうが…。


「え、何? あんた、男のくせして、楓馬くんのこと好きなの? マジ?」


「お‥‥は、はい、そうです!! 人を好きになるという行為に、性別など関係ないのです!! 私は、柳沢楓馬を―――――」


 そう言って、委員長は陽菜からマイクを奪うと、大声で叫び始めた。


「私は、柳沢楓馬を、中学二年生の時に一目見た時から、大好きでしたぁぁぁぁ!!!!!!」


 キィィィンと、音が反響した後、室内が静寂に包まれる。


 委員長は顔を真っ赤にして、ぜぇぜぇと、荒く息を吐いていた。


「………人を好きになるという行為に、性別など関係ない……」


 その言葉を呟いたのは、部屋の隅にいた穂乃果だった。


 穂乃果は突如立ち上がると、委員長の傍に駆け寄り、その手をギュッと握りしめた。


「貴方の仰る通りです!! 牧草さん!!」


「え、あ、はい? え?」


「私、とても感銘を受けましたですぅ!! 人を好きになるという行為に、性別など関係ない、その通りだと思いますぅ!!!!」


 ダンボールに二つ開いた穴から、キラキラと目の光を見せる穂乃果。


 その光景に、陽菜は、驚きの声を上げた。


「ちょ、ちょっと待って、穂乃果!! あ、あんた、男の子の手を握ってるけど…怖くないの?」


「? 男の子? 誰がですか?」


「誰がって、その、牧草雪男さん……?」


「牧草さんは、男の子じゃありませんよ。女の子です」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」


 目を見開いて驚く陽菜だったが……花子も会長も、別段、驚いてはいなかった。


 というか、委員長の男装はどう見ても女にしか見えない様相をしていたから、陽菜以外の者はみんな気が付いていた様子だったが。


「―――――――と、とにかく! 春日陽菜! 柳沢くんを気安く誘惑しないでくださいっ!! 私は、柳沢くんが、荒んでいた時期も知っているんです!! 彼がお父さんに捨てられて、どんなに心が傷付いていたかも、知っているんです!! 彼が、人に興味のない振りをしていても、困っている他人を見捨てられない、とっても優しい心根を持っていることを、私は知っているんです!!」


「ちょ、い、委員長!? 何言ってるの!?」


「柳沢くん!!」


「はい!?」


 委員長は、オレに顔を向けると、マイクを手に――――顔をリンゴのように真っ赤にさせた。


「ずっと前から好きでした! 私と付き合ってください!」


 ―――――――牧草深雪。


 中学二年生の時、隣の席になり、何かと俺に気にかけてくれていた少女。


 当時、役者の道を閉ざされてしまったオレは、自暴自棄になり、全てがどうでも良くなってしまっていた。


 人と会話するのも億劫になっていたし、いじめられ、暴力を振るわれるのも、反撃しようなんて気力すら湧かなかった。


 そんな時に、彼女は毎朝、隣の席から声を掛けてくれた。


『柳沢くん、おはようございま…って、どうしたんですか、その怪我は!? 保健室に行きましょう!!』


『柳沢くん、知っていますか? 人という字は支え合うようにできているんです。ですから、私とお友達に―――って、また無視ですか!?』


『柳沢くん! 今日、家庭科の授業でチョコ作ってみました! 食べてみてください!』


 無視し続けるオレに、彼女は、根気よくその優しさを向けてくれた。


 過去の、どうしようもなかったオレを、立ち直らせてくれた存在。


 牧草深雪は、オレにとって、彰吾と透と変わらない、大切な友達だ。


「……委員長」


「は、はい!!」


「ごめん、その気持ちには、応えられない」


「………そ、そう、です、か……」


 どんよりとした表情で、顔を俯かせる委員長。


 そして、彼女は、席に座ると……大声で泣き喚き始めた。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 分かってはいたことだけど、こうもあっさりフラれると辛いよぉぉぉぉぉぉ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


「ふ、楓馬くん! じゃあアタシは!? アタシが彼女になるのは、駄目!?」


「……よくこの状況で告れますね、ビッチ…」


「うっさい花子! ね、どうかな、楓馬くん!!」


「……すいません、春日さん。オレは、貴方とも付き合う気はありません」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! アタシもフラれちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 カラオケルームでわんわんと泣き始める、女子二人。


 何だ、この状況……まるでオレが女の子二人泣かせたみたいになってるぞ、オイ……。


 その光景に呆然としていると、穂乃果が、ダンボールの穴かからこちらをジッと見つめていることに、オレは気が付いた。


「………声……」


「え?」


 ぼそりと言葉を返すが、穂乃果はオレから視線を外し、再び部屋の隅へと移動していった。


 声、と呟いていたような気がしたが……ま、まさか、バレたというわけでは……ない、よ、な……?


 そう、穂乃果を見つめて首を傾げていると、今度は、別の人物が大きく声を張り上げる。


「………うっさいですわねぇっ!! 男にフラれたくらいで、ピーピーと騒いでんじゃないですわよぉぉぉぉぉぉ!!!!! ヒック!!!!」


「は?」


 オレンジジュースの入ったコップをガンと勢いよく机に叩きつけて、顔を真っ赤にさせている、生徒会長、桜丘櫻子。


 彼女はフラフラと身体を揺らめかせると、再び口を開いた。


「貴方たちは自由に恋愛できて良いじゃありませんの!! わたくしなんて、どうせ、親が結婚相手を決めるに決まってるんですわよぉぉぉ!!!!! わたくしだって、好きな相手に好きだって告白してみたいですわ!! ヒック!!」


「……おい、ちょっと待て。何か、会長さん、酔ってないか? それ、ただのオレンジジュースだよな?」


「そもそもドリンクバーにお酒なんてラインナップ、入っていませんよ。会長殿は単に場酔いしたものかと、フランチェスカさんはそう愚考致します」


「場酔い…マジか…」


「わたくしだって、恋愛してみたいですわよ、こんちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 悪酔いを見せる桜丘会長と、号泣する陽菜と委員長。


 カラオケルームには、地獄と思われるような光景が、広がっていたのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その後、案の定、合コン(?)はお開きとなり……オレたちは、仙台駅前で解散する流れとなった。


「ぐすっ、ひっく、失恋、辛い……」


「分かるよ、委員長ちゃん。陽菜も、すっごく辛いぃ……」


「春日さん、途中まで一緒に帰りませんか? 仙石線、ですよね?」


「うん、一緒に帰ろう、委員長ちゃん……」


 委員長と陽菜は何故か仲良くなり、そのまま一緒に帰って行った。


 彰吾と透はそんな二人の背中を見送った後、オレへと顔を向けて、ニコリと微笑みを浮かべる。


「まったく、相変わらず女泣かせだな、楓馬は。もう委員長辺りで手を打っておけよ。どんだけ理想高いんだよ、お前」


「単に、好きでもない人と付き合っても、彼女を傷付けるだけだろ。オレは、恋という感情を未だに理解できていないからな」


「そういうもんかねぇ。可愛いとか、エロいとか、そういう感情で付き合うのが普通だと思うぞ? お前は少し硬すぎんだよ、楓馬」


「まぁ、そうだな。楓馬の恋愛観が固すぎるのは事実だ」


「うるせぇな。とっとと帰れ、不良ども。補導されても知らないぞ?」


「へいへい。そんじゃまたな、楓馬。さっさと学校戻って来いよ」


「じゃあな」


 二人と別れ、一息吐く。


 すると、花子がとてとてとこちらに近寄って来て、ぼそりと声を掛けてきた。


「お前はまさか、女に興味がないのですか? ホモ、なのですか?」


「花子パイセン? 変なこと言うのやめてくれますか? オレは至って健全な男子高校生ですよ?」


「陽菜も、あの委員長という人も、かなり顔面偏差値の高い女子だと思いますが。何が不満なのですか?」


「お前も彰吾みたいなことを言いやがって…。オレは、結婚したいと思う人としか付き合わない。一生で一人の人間しか愛さない主義だ」


「………重っ。普通に引きますね、その発言は……」


「何でだよ!?」


「ですが……。貴方に愛される人は幸せでしょうね。世の中、不倫する男女が多いものですから。貴方と一緒になる人は、安心でしょう」


 そう言ってニコリと微笑んだ後、花子はジッとオレの顔を見つめだす。


「……男である貴方を今回、初めて見ましたが…本当に綺麗な顔立ちをしていますね、貴方は。これでは、女子にモテるのも当たり前、というわけですか……。まったく、罪な人ですね」


「え?」


「何でもありません。では、私はこれで。………穂乃果、帰りますよ」


「は、はいですぅ……グルルルルル……」


 何故か、穂乃果はオレに唸る声を上げたまま…そのまま、花子に腕を引っ張られ、駅の中へと入って行った。


 ……とりあえず、これで何とか、難を逃れることはできた、か……。


 ヒヤリとすることが多かったが、とにかく、無事、正体が誰にもバレずに合コンを終わらせることができ―――――――。


「おぇぇぇ……」


 ふと背後に視線を向けると、そこには、地面に手を付いてえずく、桜丘会長の姿があった。


 そんな彼女に、ナンパ男たちが群がっている姿が見て取れる。


「何々、君、どうしたの? 酔ってるの?」


「てか、君、ちょー可愛いね! お兄さんたちが介抱してあげよっか? ね?」


「か、介抱……? わたくしを病院か何かに連れて行ってくださるんですの……?」


「そうそう、病院、病院。じゃ、行こっか?」


「は、はい。お、お願い致します、わ……?」


「おいおい……あの会長さんは、いったい何してんだよ……」


 ナンパ男たちにお持ち帰りされそうになっている桜丘会長に大きくため息を吐いた後。


 オレは、そのまま取り囲む男たちの間に割って入り――――会長の腕を掴み、起こしてやった。


「あ、貴方は……柳沢、さん……?」


「桜丘会長、肩を貸します。帰りましょう、送っていきます」


「ちょっと待ってよ、お兄さん、俺たちが先にこの子に話しかけていたんだけど? 横入りやめてくれる?」


「横入りも何も、彼女はオレの恋人なので。失礼します」


「こ、こここ、恋人、ですの!?」


 ナンパ男たちを諦めさせるために付いた嘘に、何故か、頬に手を当て顔を真っ赤にさせる会長。


 オレはそんな会長に首を傾げつつ、そのまま二人で駅の中へと向かって歩みを進めて行った。


「桜丘先輩は、どの路線ですか?」


「せ、仙山線、ですが……。わたくしの家は、北仙台にありますの」


「オレと一緒、か…。奇遇ですね。では、家の近くまで送りますよ」


「あ、は、はい…よ、よろしくお願い致します、わ……」


 そうして、オレは会長に肩を貸したまま……駅の中を、歩いて行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

申し訳ございません。この作品は、この第72話で打ち切りとして、一先ず完結させていただこうと思います。

理由としましては、ブクマもポイントもまったく増えない状況で投稿していくのに、心が折れた、と言いますか……。ここまで読んでくださった読者の皆様には、本当に、申し訳ないという気持ちでいっぱいです。


この後の構想としましては、第二章終了後、個別ルート形式で物語を進めて行こうと考えていました。

穂乃果ルート、櫻子ルート、銀城先輩ルート、最後に、香恋(花子)ルート、という順番です。


その他のルートでは、恋愛を主軸にして、香恋ルートでは、役者メインの話を描こうと思っていました。

香恋ルートのみが、柳沢楓馬として舞台に立つ唯一のシナリオとなっています。


何とか完結まで書こうと思っていましたが…申し訳ございません。

もしかしたら、隔週とかでいつの日か、更新することもあるかもしれませんが…とりあえずは、打ち切りという形で締めさせていただきます。

みなさま、本当に本当に今までありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[一言] 打ち切り…悲しいです… 他の連載含めて今後の更新を楽しみに読ませていただきます! いつか気が向いたら続きも是非!
[一言] うわぁぁぁぁぁん!! そう……ですか、もう一度この作品を見る日が有るよう祈ります。 今までありがとうございます、楽しかったです。お疲れ様でした。
[良い点] 毎日更新を楽しみにしていました。とても面白かったです。 [気になる点] vtuberタグから見つけたのでタグにあるvtuber要素が見られなかったのが残念です。もう少し配信要素を増やしたり…
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