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第71話 女装男、慌てふためく。   


 その後、オレは何も抵抗できずに、そのまま――カラオケへと連行されていった。


 大部屋に通され、中央にテーブルを挟んで男女四対四で向かい合わせに座ることになり、オレは、一番左端っこの目立たない場所を陣取ることとなる。


「……この状況、いったいどうすれば……」


 極力、花ノ宮女学院の四人からは顔を逸らしながら、これからどうしようかと頭を悩ませていると…ふいに、ポケットの中のスマホがブブッと震えたことにオレは気付く。


 こっそりとスマホを開いてみると、そこには、花子からのメッセージがあるのが確認できた。


『何をやっているのですか、貴方は』


 チラリと前方に視線を向けると、そこには、こちらにジト目を向けているオカッパ座敷童の姿が。


 オレはそんな彼女に引き攣った笑みを向けつつ、スマホの画面を見て、レインの返事をしていく。


『いや、オレも、予期していなかったことと言いますか……事故と言いますか……』


『陽菜はどうやら気付いてはいないようですが、こちらには穂乃果がいます。あの子は、誰よりも貴方をすぐ傍で見てきました。貴方と如月楓の繋がりに気付いても、おかしくはありませんよ』


『それはそうだろうが……。二つほど、疑問がある。まず一つ。何故、穂乃果がこの合コンに来ているんだ? 穂乃果は、極度の男性恐怖症のはずだろう?』


『陽菜が、男性への苦手意識のある穂乃果を何とかしようと思って、この場に連れて来たんですよ。まぁ…今回のこの合コンは、陽菜が、瀬川高校の男子を何としてでも如月楓ファンクラブに入れようと考え、画策したものらしいですけれどね』


『なるほどな。穂乃果がこの場にいる理由は分かった。それで…最後の疑問なのだが、生徒会長はいったい何なんだ? 何で、ここにいる?』


 扉側の方の端の席に座り、ウェーブがかった髪の毛に指を通してクルクルと弄んでいる、蜜柑色の髪の少女。


 仲良し三人組が一緒にいるのは分かるが、いったい何がどうなって、香恋とバチバチにやりあってたあの生徒会長がこの場にいるのか。まったくもって意味が分からない。


『生徒会長とは、合コンの集合場所に向かっている際に偶然出会したんです。それで、陽菜が思わず合コンのことをポロリと溢してしまって……ふしだらなことが無いように監督するとか言って、ついてきたのですよ。……丁度四対四になるから良いんじゃね? と、陽菜は同行を許可しました』


 なるほど、な…。そういった経緯があって、あの上級生は、この場にいるわけか。


 花ノ宮女学院の生徒たちがこの場にいる理由に納得して、小さく頷いていると…オレとは反対の、扉側の右奥に座っていた彰吾が席を立ち、大きく声を張り上げた。

 

「それじゃあ、今から自己紹介始めまーす! 最初は男性陣から! あっ、俺は瀬川高校一年、桐谷彰吾ッス! よろしく!」


 そう言って、彰吾は軽く手を上げると、隣に座る透へとマイクのように拳を握り、指し向ける。


「? 何だ、これは?」


「自己紹介すんだよ! ほら、お前の番!」


「ふむ…。俺は、秀英学院高校の有坂透。よろしく頼む」


 メガネのブリッジに指を当て、そう答える透。


 そんな彼に続いて、オレの隣に座っている学ランの少年……委員長は、どこか緊張した面持ちで席を立った。


「わ、私は…じゃなかった、僕は、瀬川高校一年の、牧草みゆ…雪男でござる!! 今日は、桐谷くんが女の子に変なことをしないか見張るためにこの場に馳せ参じ参ったで候! よろしく頼むでござりますりる!!」


 目をグルグルとさせてそう叫ぶと、委員長はその場にスッと着席した。


 委員長……緊張しすぎて、キャラがよく分からないことになっていますよ…ますりるって何スか…。


「瀬川高校なの? え、でも、君、制服違くない? 学ランじゃん?」


「お兄ちゃんのおさがりです!!!!」


「おさがり…? どゆこと?」


 陽菜のツッコミに、いい言い訳が思いつかなかったのか…何故か元気よくバカ正直に答える委員長さん。


 もう、見ていられないわ、私……。委員長のライフはゼロよ!!


「それじゃあ、次は…楓馬、自己紹介な」


「……わかった」


 オレは立ち上がり、なるべく花ノ宮女学院のメンツを見ないように、足元に視線を向けながら…口を開いた。


「瀬川高校一年の、柳沢楓馬です…。よろしくお願いします…」


 そう言って即座に席に座り、顔を俯かせる。


 すると、陽菜が、明るい声でキャッキャッと騒ぎ始めた。


「やっばい! 実物は写真の何倍も、ちょーかっこいいんですケド!! ねね、楓馬くん、彼女とかって今いるの!? 合コンに参加するくらいだから、いないよね!?」


「……いませんが」


「きゃーっ!!」


 可愛らしく足をバタバタとさせる陽菜。その隣でさらに強くジト目を向けてくる花子。そして、何故かオレの隣でハンカチを噛んでぐぬぬとしている委員長。


 ……何だ、この状況。いったい、オレは今、どんな状況にいるというんだ…。


「あ、じゃあ、次はウチら花ノ宮女学院の生徒の自己紹介だよね! アタシはモデル科一年、春日陽菜! これでも一応、読モとかやってまーす! イェイ! 次、花子!」


「……花子ではありません。コホン。私の真名は、フランチェスカ・フォン・ロクサーヌと申します。真祖の吸血姫をやっております。よろしくお願いします」


「フ、フラ……なんて?」


「フランチェスカさんです」


 困惑する彰吾に、花子は鋭い目つきと共にそう言い放つ。


 そんな彼女にやれやれと頭を振ると、陽菜は進行役を続けた。


「この子は、佐藤花子っての。まぁ、ちょっと変わってるけど、悪い子じゃないから。じゃ、次、かいちょー!」


 その声にスッと席を立つと、生徒会長はまるで汚物でも見るかのような目で、オレたち男性陣を見下ろした。


「わたくしの名前は、桜丘櫻子。わたくしは、このようなふしだらな合コンなるものに参加する気は一切、ありませんわ。わたくしは、花ノ宮女学院の生徒会長として、風紀が乱れないように、この場を監督しにきたにすぎません」


 そう言って静かに席に座ると、桜丘会長はフンと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。


 そんな彼女に困ったように笑みを浮かべた後、陽菜は、隣に座る穂乃果へと声を掛ける。


「……穂乃果、いける?」


「ぴぎゃう!?」


 皆の視線が、穂乃果に集まる。


 さっきから気になっていたのだが…穂乃果は何故か今現在、「りんご」と書かれたダンボール箱を頭に被っていたのだった。


 その異様な姿に、男性陣(一人男装女子)一同は、同時に首を傾げる。


「えっと、その子は…?」


「あーっと、この子はね……ちょっと、男の子が苦手っていうか。今日はそのリハビリも兼ねてここに呼んだんだけど…。やっぱりダメだったか……」


「楓お姉さま……、助けてくださいですぅ…!!」


 ブルブルと肩を震わせて、陽菜の背後に隠れようとするダンボール女。もとい穂乃果。


 穂乃果ちゃん…お姉さまは目の前にいますよ…なんて、言えるわけもないよな。


 穂乃果は、途中で帰った方が良いのではないか。そう、陽菜に言及しようとした、次の瞬間。


 陽菜がスマホを取り出し、衝撃的なことを呟き始めた。


「しゃあない、じゃあここは、穂乃果の精神を安定させるために、楓ちゃんに電話してみるとしますか」


「は?」


「お姉さま!? お姉さまのお声が聴けるのですか!?」


 突如活力を取り戻したかのように、穂乃果は祈るように手を組みだした。


 だが、それと同時に、オレと花子の顔は、青白く変化していったのだった。


「ビ、ビッチ、待ってください。楓さんは今日は忙しいからこの合コンには参加できないと、私は、予め言っておいたではないですか…!!」


 花子パイセン…!! そんな根回しをしてくれていたのか…!! 恩に着るぜ……!!


「んー、でも、穂乃果も楓ちゃんの声を少しでも聞けば元気出ると思うし? ね?」


「はいです! 穂乃果は、お姉さまさえお傍におられれば、何も怖くはありませんです!!」


「………わかりました。では、止めはしません。ですが、楓さんは今日、スマホの調子が悪いと仰られていました。ですから…電源が切れている(・・・・・・・・)、という可能性がありますよ」


 そう言って、花子はこちらにさり気なく視線を向けてくる。


 オレはその視線の意図を即座に理解して、ポケットの中にあるスマホの電源をすぐにオフにした。


「? あれ、出ない…。やっぱり電源切れてたのかな?」


 落胆の様子を見せる陽菜と穂乃果。


 ほっと息を吐く、オレと花子。


 正体がバレずに一息吐いたが……果たしてこの先、オレは誰にも如月楓であることがバレずに、この窮地を乗り越えることができるのだろうか……。 

 

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