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元天才子役の男子高校生、女装をして、女優科高校に入学する。  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第2章 花ノ宮家の悪鬼たち

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第67話 女装男、朝からナンパされる。


「あっ、おはようございます、お姉さま!」


「お姉さま、おはようございます! 今日もお美しいお顔を拝見できて何よりです!」


 穂乃果、花子、陽菜と共に和気藹々と校門へと続く坂道を登っていると、道行く花ノ宮女学院の生徒たちにそう挨拶をされる。


 困惑しながらも彼女たちに頭を下げて挨拶をすると、キャーッと黄色い声を上げて、女子生徒たちはまるでアイドルのおっかけのように騒ぎ始めたのであった。


 その光景に、オレは思わず、苦笑いを浮かべてしまう。


「‥‥何だか、以前よりも、私のことを慕ってくれている方が増えたみたいですね‥‥」


 オレのその言葉に隣に立っていた花子は小さく頷くと、こちらに視線を向け、口を開いた。


「どうやら、三日前のロミジュリの効果でファンクラブの会員が増えたみたいですよ。そうですよね? ビッチ女」


「ビッチゆーなし! そうそう、演劇を見に来てくれた子たちが新たに会員になってくれたんだよねー。それに、あの劇のおかげで、男の子のファンもけっこう増えたみたいだしっ! 楓ちゃんを紹介してくれって、ほら、他校の男子生徒からこんなに連絡が来てるんだよー? ウケるっしょ!」


 そう言って陽菜はオレにスマホを見せて、ニカッと、歯を見せて快活な笑みを浮かべた。


 その画面に映るのは‥‥オレへのナンパ目的と思しき、レインメッセージの数々。


 その光景に思わずげんなりとしていると、花子が不気味な笑い声を溢し、オレに声を掛けてきた。


「よかったじゃないですか、青き瞳の者。こんなにおモテになられるとは、羨ましい限りです。どうですか? お一人ぐらい、お誘いに乗ってあげても良いのではないのですか? くくくく‥‥」


「花子さん? そろそろやめてくださいませんか、そのイジり。私にも堪忍袋の緒、というものがあるんですよ?」


「そ、そうですよぉう、花子ちゃん! お姉さまが、見ず知らずの男の子なんかとデートするわけないじゃないですかぁっ!! 絶対に私が許しませんっ!! そ、それに‥‥お、男の子なんて、怖い人ばっかりじゃないですか‥‥」


 そう言って穂乃果はオレの腕を抱きながら、怯えるように目を伏せた。


 そんな彼女の姿をジッと見つめた後、花子は無表情で、オレの顔を見上げてくる。


 オレは困ったように微笑み、首を振った。


(‥‥‥‥分かってるよ、花子。オレが、穂乃果を騙している、最低最悪のクソ野郎だってことはな)


 男性恐怖症である穂乃果が慕ってくれている如月楓は、中身が男のただの詐欺師だ。


 彼女を騙しているこの現状に、罪悪感が無いと言えばウソになる。


 だから、早々に穂乃果から距離を置き、このグループからフェードアウトするのが正解なのだろう。


 だが‥‥彼女の『お姉さま』としては、穂乃果を無碍に突き放すことは、どうしてもできなかった。


 オレが穂乃果の傍にいればいるほど、彼女を傷付けてしまうことになるのは分かっているのに。


 だけど、それでも‥‥オレは、彼女を拒絶することができないでいた。


 正解が分かっているのに、非情になりきれないでいた。


「‥‥なんて、だらしのない人間なのでしょうね、私は。このままでは、穂乃果さんを傷付けてしまうことになってしまうのは、分かりきっているというのに‥‥」


「? お姉さま? どうかしましたですか?」


 こちらを見上げて、キョトンとした表情を浮かべる穂乃果。


 オレはそんな彼女にニコリと微笑むと、前へと視線を向けた。


「いいえ、何でもありませんよ、穂乃果さん。さっ、学校に行きましょうか」


「はいですっ!」


 花子が何か意味ありげにオレを見つめていたが、オレはそんな彼女の視線には反応を示さずに。


 ただ、如月楓として、友人である穂乃果と、陽菜と共に、坂道を登って行った。






 校門の前に辿り着くと、そこには、人だかりができていた。


 何だろうと首を傾げていると、その集団をかき分けて、一人の男性が前へと出てくる。


 黒いスーツを着たウルフカットのその青年は、オレの前へと歩いて来ると――にこりと、不敵な笑みを浮かべた。


「―――――てめぇが、如月楓か?」


「そう、ですが‥‥貴方は?」


「あ? 俺のことを知らない? 驚いたな。大抵の女は、みんな、俺様のことを知っているものかと思ったが‥‥」


 そう言ってボリボリと後頭部を掻くと、彼はオレを見下ろして、フッと、鼻を鳴らした。


「俺の名前は、黒獅木アキラだ。昨年度、日本アカデミー賞で主演男優賞を取った若手俳優だよ」


「黒獅木アキラ‥‥え、黒獅木アキラ、ですって!?」


 改めて、彼の顔をマジマジと見つめてしまう。


 小顔で、整った太い眉にキリッとした目つき、そして、中性的かつワイルドさを併せ持つイケメン顔。


 間違いない。この男は、現在の日本の若手男優の中ではトップレベルの実力を持つ、二世俳優。


 大御所中の大御所、歌舞伎役者『村雲 藤之助』の息子、その人だ。


「な、何故、黒獅木アキラが、こんなところに‥‥?」


 そう口にし、瞠目して驚いていると‥‥黒獅木アキラは顎に手を当て、ふむふむと、こちらを凝視してきた。


「この女が、あの不可思議な演技をしたジュリエット役の女優、か。直に見てみるとまったく覇気を感じないが‥‥演技をしだすと雰囲気が変わるタイプも稀にいるからな。お前も、もしかするとそういう手合いなのかもしれないな」


「あ、あの‥‥?」


「まっ、いいや。なぁ、お前、ちょっと学校サボッて俺と遊びに行こうぜ」


 そう言って、黒獅木アキラはオレの右腕を掴んできた。


 その突然の行動にギョッと目を見開いて硬直していると、怯えた顔をした穂乃果と、怒った顔をした陽菜が、黒獅木の腕からオレを引き離して、庇うようにして前へと出た。


「お、お姉さまを離してください!」


「そうだよ! いきなり女の子の手掴むとか、あんた何なの!? ちょーキモイんだけど!!」


「チッ、うるせぇな‥‥。能無しのブスどもが、やかましく吠えてんじゃねぇよ」


「は‥‥はぁぁぁぁ~~!?!?!? ブス、ですってぇ~~!!!!!」


 激昂した陽菜が、黒獅木アキラに詰め寄って行く。


 そんな彼女に対して、黒獅木アキラは‥‥ギロリと、鋭く睨みつけた。


 その射殺すような視線に、陽菜は思わず足を止めてしまう。


 これは‥‥歌舞伎役者が、見得を切る時に見せる、鋭い眼光と似たようなものだ。


 その眼光は、生半可な役者が産み出せるレベルのものではない。


 明らかに、歴戦の役者と同等の力を秘めている‥‥その視線には、観客を圧倒して黙らせるかのような、そんな高等な技術が見え隠れしていた。


(‥‥‥‥歌舞伎出身の人間は、皆、目が違う。こいつも、あの怪物たち(歌舞伎役者)と同じ嫌な眼光をしていやがるな)


 穂乃果と陽菜、そして花子は、その鋭い眼光の前で動揺した様子を見せる。


 そんな光景に黒獅木は小さく笑みを浮かべた後、オレへと視線を向けてきた。


「‥‥へぇ? お前は、ビビらないのか。やっぱり面白いな、如月楓」


 そう口にしてククッと笑い声を溢すと、黒獅木はオレの手を再び掴み、目を細める。


「さっ、どこか二人だけになれる場所に行こうぜ、楓。お望みなら、別にホテルでも構わないぜ。お前という女を抱くことで、あの不可思議な演技の秘密が分かるかもしれないからな。俺は、お前という人間が知れれば、何でも良い」


「‥‥‥‥私という人間を知りたい、とは‥‥? 貴方は、私をナンパしにきているというわけではないのですね?」


「この俺様が、女に飢えているとでも思うのか? 俺が求めているのは、まだ見たことのない、役者としての技術力だけだ。俺は、百年に一度の天才だ。相手の演技を、吸収し、己の糧へと変えることができる。目新しい演技をする女優なら何人も喰ってきたが、そこまでだ。俺にとって女優など、自身を成長させる経験値でしかない」


 そう言って、黒獅木は、深海のような深い漆黒の眼を見せてくる。


 ‥‥こういう目をしている奴は、子役だった頃、芸能界で何人か見た記憶がある。


 役者という呪いに罹り、深淵へと足を踏み込んだ者‥‥そういう人間がする目が、これだ。


 己の技術を昇華するならば、どんなことでもする。言うなれば、心を捨てた、化け物だ。


「さっ、行くぞ。てめぇがどういう女優なのかを、俺に教えろ、楓」


「ちょ、痛っ、やめ―――――」


 流石に強引にホテルに連れ込まれるのは不味い。


 アーッ♂展開など、誰も望んではいないからな。


 仕方ない、ここは、実力行使で、この男には少々痛い目を見て貰うとするか――――。


「君、その子を離してくれないかな。彼女は、僕のものなんだ」


 その声が聴こえた、次の瞬間。


 オレの眼前をスッと‥‥綺麗な足が、通り抜けて行った。


 黒獅木はオレの手を即座に離し、その蹴りを身体を逸らすことで回避すると、不機嫌そうな表情を浮かべてオレの前に立つ人物に視線を向けた。


「‥‥いきなり何しやがる。お前」


「それはこっちの台詞だよ。花ノ宮女学院の前で、いったい君は何をしているのかな」


 俺の前にいつの間にか立っていた人物。それは、銀城遥希だった。


 彼女はキッと黒獅木を強く睨みつけると、拳を構え、戦闘態勢を取る。


 そんな銀城先輩に、黒獅木は馬鹿にするように、笑い声を溢した。


「あ? 何だお前、男かと思ったら女かよ? 彼女は僕のものだって‥‥女が女をか? 寒、寒すぎんぜ、お前!」


「時代錯誤な話だね。君は女性にモテるのだろうが、僕は、君からは何も感じない。僕が惹かれるのは楓さんだけだ。僕は多分、女性でも男性でもイケる口だとは思うけれど‥‥屈指のイケメン俳優と呼ばれる君なんかよりも、女性である楓さんの方が何倍も魅力的だと思うよ。人の良し悪しなど、千差万別なものさ。性別など、些細な問題でしかない」


「ハハハッ、面白いこと言うじゃないか。お前、名前、何て言うんだ?」


「銀城 遥希」


「銀城‥‥もしかしてお前、柳沢恭一郎の義理の兄の‥‥ハリウッド俳優、銀城 孝介の娘か何かか?」


「よく知っているね。銀城 孝介の名前など、もう、多くの人はあまり覚えていないというのに」


「柳沢の血族‥‥ってことは、お前はあいつの‥‥柳沢 楓馬の従姉妹、ということかよ」


「? 柳沢楓馬‥‥? 誰だい、それは?」


「チッ、興が削がれたぜ。今日のところは帰ってやるよ。じゃあな」


 そう言って踵を返す、黒獅木。


 オレは思わず、そんな彼の背中に、声を掛けてしまった。


「あ、あの! や、柳沢楓馬さんのこと‥‥貴方は、御存じなのですか!?」


 その言葉に、チラリと一瞬こちらを振り返ると、黒獅木は小さく言葉を発した。


「あいつは子役の頃、俺が唯一勝てなかった、頭のネジがイカレた化け物だ。まっ、今は引退して、ただの一般人と化しているだろうがな」


 そう言い残して、黒獅木は‥‥静かに去って行った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここでも因縁の相手 あ、先輩はどっちでもイケるんだ、結末が見えてきた
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