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第2章 第65話 女装男、雑誌に名前が載る。

 自宅マンション、リビング。


 香恋に昨日あった出来事を端的に説明すると‥‥彼女は紅茶のカップを手に、意味が分からないといった表情でオレの顔を見つめてきた。


「‥‥‥‥‥‥は? 声優科の佐藤花子に、男であることがバレた‥‥ですって‥‥?」


「はい‥‥」


 そうコクリと頷くと、香恋はカップをソーサーの上に置き、眉間に手を当て、大きくため息を吐く。


 オレはそんな彼女から目を逸らし、気まずそうに、人差し指と人差し指をくっ付けた。


「いや、あの、その‥‥ね? 予期しないアクシデントが起こった、というか‥‥ね?」


「貴方、バッッッカじゃないの? あれほど、正体がバレないように気を付けなさいと言っておいたのに、本当、信じられない。つい先日、愛莉叔母様に助けられたばかりだというのに、は? 嘘でしょ? 本気で言ってる?」


「‥‥‥‥返す言葉も‥‥ございません‥‥」


「‥‥まったく、どうかしているんじゃないの。それで? 佐藤花子は貴方をどうするって言っていたの? 警察に突き出す、という話ならば、私が裏から手を回して逃がしてあげても構わないけれど? まぁ、当然、そうなった場合は学校は辞めてもらうことにはなるとは思うけれど」


「警察も裏から動かせるだなんて、やっぱり、花ノ宮家の権力ってすげぇんだな‥‥。やはり、持つべきものは権力者の友人なのかもしれんな‥‥」


「この地域に限った話よ。流石に仙台市外の警察を動かせるほどの力は、ウチにはないわ」


 そう言って再び大きくため息を吐くと、香恋は腕を組み、向かいのソファーからこちらをジロリと睨んでくる。


「そんなことはどうでも良いから。早く、佐藤花子に正体がバレた後の話をしてもらっても良いかしら? 柳沢くん?」


「は、はい‥‥すんません‥‥」


 香恋に軽く頭を下げた後、オレは、昨日起こった出来事を詳細に説明していった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「―――――――ぶぇっくしょん!! うぅ、何だか上半身と下半身がスースーするな‥‥何だこれ‥‥」


 目を擦りながら、上体を起こす。


 そこは、紫色の天蓋が付いた、ゴスロリチックなデザインをしたベッドの上だった。


 その不可思議な状況への理解が追い付かず、オレは思わず、キョロキョロと辺りを見回してしまう。


「ここ、どこだ? 確かオレ、花子の部屋でコーヒーを飲んでいて‥‥って、どうぅわぁぁあぁッッ!?!?!? 何でオレ、チ〇コ丸出しなってんだよ!?!?」


 急いでパンツを上にあげ、同時にスカートも履いていく。


 冷静になって自身の身体を見てみれば、上半身のワイシャツの胸元が開けていた。


 周囲に、オレの付けていたものと思われるブラジャーとパッドが散乱しているのが見て取れる。


 オレは、その光景を見て、全身から血の気が引いて行くのが感じられた。


「え‥‥? な、んだ、これ‥‥? も、もしかして、オレ、花子に、脱がされ――――」


「うぅぅ‥‥しくしくしく‥‥」


「!? は、花子さん!?」


 声が聴こえてきた方向に視線を向けると、ベッドの淵に背中を預け、体育座りをしているオカッパ頭の姿が見て取れた。


 オレはとりあえずワイシャツのボタンだけ締め直して、ベッドから降り、花子の正面に立った。


「は、花子さん、そ、その、あの‥‥!!」


「うぅ‥‥バハムート怖い‥‥二次元なら何本もモザイク付きのチ〇コ見てきたというのに‥‥リアルバハムートチ〇コ、怖すぎる‥‥」


「バハムートチ〇コって何ですか!? ちょ、その、花子さん、私の正体、バレて‥‥」


 そう、現状に混乱してあたふたしていると、花子が顔を上げ、目の端に涙を貯めながらこちらにジト目を向けてきた。


「‥‥‥‥いったいお前は何者なのですか? 如月かえ‥‥いえ、変態女装男。何故、女子高である花ノ宮女学園に、男が入学しているのですか? お前はいったい何のためにこんなことをしているのですか?」


「それは‥‥その‥‥」


 この状況から察するに、恐らくオレは、寝ている間に花子に服を脱がされたと見て良いだろうな。


 身体の隅々まで見られたことからして、言い逃れなどできるわけもない、か。


 何とか無事にロミジュリを終えることができたというのに、まさか、こんなところで正体がバレることになろうとは。


 ここで、オレの女装生活も終了というわけか。


 仕方がない。最後は男らしく、全てを花子に打ち明け、如月楓という役者を終わらせるとしよう。


 オレは、眉間に皺を寄せて、大きくため息を吐いた後。


 彼女の正面に正座して、花子の目を見つめて、真摯に口を開いた。


「―――――私の本当の名前は、柳沢 楓馬、と申します。性別はご存じの通り、男性です」


「‥‥柳沢、楓馬‥‥? その名前、どこかで聞いた記憶が‥‥」


「花子さん?」


「何でもありません。続けてください」


「は、はい。私が花ノ宮女学院に入学した経緯は、従姉妹である花ノ宮香恋に『経営が落ち目である花ノ宮女学院を救うために、宣伝塔となる花形の女優になれ』と、命じられたことが事の発端となります。自分で言うのもなんですが、私は、元天才子役として一時期名を馳せたことのある身なんです。ですから、その経緯を利用しようと、従姉妹である香恋は、私を女装させて女優科に進学させたのです」


「‥‥‥‥滅茶苦茶な話すぎて、理解が追い付きません。そもそも、何故、従姉妹に命じられたからといって、貴方が女装して女優科へ進学する必要があったのですか? 普通に犯罪ですし、断れば良いじゃないですか」


「花ノ宮家というのは、日本でも有数の大富豪の家系なんです。その家の血を私も一応は引いてはいる‥‥のですが、複雑な環境下にありまして。花ノ宮家の人間から、私は、あまり良い存在には捉えられていないのですよ。例えるならば、私は、産まれてきてはいけなかった忌子‥‥彼らの汚点、という存在でしょうか」


「‥‥‥‥忌子‥‥」


「花ノ宮家に反抗すれば、私自身の身にも、そして、実の妹の身にも危険が及びます。私に、花ノ宮家の命令を断ることなどできないのですよ」


 まぁ、今となっては、香恋がそこまで悪い奴ではないとは分かったんだがな‥‥って、いや、ついつい忘れそうになるけど、あいつ、最初に出逢った時にオレとルリカのラブラブ写真をネットにばらまくとか脅し掛けてたんだったわ‥‥。


 十分、悪い奴だわ、あの紅茶ガブガブモンスター。危うく騙されるところだったぜ。


「‥‥‥‥なるほど。柳沢さんが、花ノ宮女学院に女装して入学した理由、大体は、理解しました」


 そう言って花子はいつもの眠たそうな目でオレを見つめてくると、首を傾げ、小さく微笑を浮かべた。


「それにしても‥‥興味深いですね。柳沢さんは、普段、如月楓という役を演じているのですか? それとも、その状態が素、なのですか?」


「どうでしょうね。一応、演じてはいるつもりですが、私自身の人格はそれほど変えているつもりはないんですよ。ただ、普段の佇まいは女らしさを意識して、敬語で喋っている‥‥演じているとしたら、それくらいのものでしょうか」


「ふむ‥‥。普段は敬語ではない、と。では、今から、柳沢楓馬として私に喋ってみてください。素の貴方の姿にとても興味があります」


「え、嫌です。花子さんに対して素で喋るのは‥‥何だか抵抗があります」


「何でですかっ! 私にもっとリアル男の娘感を見せてくださいよ! チ〇コ見せたのですから、素も見せてくれたって良いじゃないですかっ!」


「チ〇コは貴方が勝手に見ただけでしょう!? 私は、見せたくて見せたわけではありません!!」


 ゼェゼェと息を荒げて、互いの目を見つめ合うオレと花子。


 その後、花子は小さくため息を吐くと、再び開口した。


「それで‥‥柳沢さんは、今後、どうしていきたいのですか? 如月楓として、偽りの女優を演じていくつもりなのですか?」


「え? どうしていきたいもなにも、私の正体は、花子さんにバレてしまったわけですし‥‥潔く、学校を辞めるつもりでしたが‥‥?」


「? 学校を辞めたら、その、花ノ宮家とやらから柳沢さんは酷い目に遭うのではないのですか? 退学するのは悪手だと、フランチェスカさんはそう思うのですが」


「え‥‥? は、花子さん、私が男であることを、まさか‥‥黙っていてくれるのですか‥‥?」


 そう、目を見開いて彼女に驚きの声を掛けると、花子はニコリと、優し気に微笑みを浮かべた。


「見ず知らずの人ならば即警察に通報していたところですが、私はこの一か月、貴方という人間の傍にずっといました。ですから、少しは、柳沢さんがどういう人間なのかは理解したつもりですよ。貴方が悪意を持って女子高に潜入するなど、絶対にしないということは少なくとも分かります」


「花子さん‥‥」


 やっぱりこのオカッパ座敷童、変人だけど、良い子だな。


 あの優しさの塊である穂乃果の友人だけあって、彼女のその性根は優しさで満ちている。


「それと‥‥男の娘というのも、なかなか利用価値がありそうなものですからね」


「花子さんはやっぱりお優しい御方で―――――ん?」


「股間を映さないようにして、あとは、肌の色に合わせた特製のシリコン型の胸パッドを特注すれば、水着でグラビア写真を撮ることもできますかね。こんな美少女、実際にチ〇コを見なければ誰も男性だって分からないはずですし。ぬふふふふ、柳沢さんは、実に良い金ヅルになりそうです」


「‥‥花子さん? 何だか下品な笑い声が聞こえましてよ? あと、私は男なので、絶対にグラビア写真は撮りませんことよ?」


「何を言っているんですか、変態女装男。お前、自分の顔が如何にオス受けするものなのかを理解していないのですか? 女性ならば、男にオナネタにされることが少しは可哀想だとは思いますが‥‥男なら、罪悪感は何も感じない。お前がいくらシコられようとも、私には何の心の痛みがないのです」


「い、いやいやいや!! 男にオカズにされる私の気持ちになってみてくださいよ、花子さん!! 絶対に嫌ですよ、そんなの!! それに、オカズにする方も可哀想ですよ!? 男が男見てシコるとか、何なんですか、その地獄絵図は!!!!」


「シャラップ。男同士で自家発電する分ならば、誰も損はないじゃないですか。私の懐は潤うし、オスどもは如月楓という美少女(バハムート付き)の可愛いブロマイドが手に入るのですから、世界は平和そのものです。ダブルピース、なのです。イェーイ」


「いや、オレだけは至って平和じゃないんだが!? オレ一人の犠牲で世界が平和になっているのだが!?」


「ほう‥‥柳沢さんの素の一人称はオレ、なのですか。オレっ娘もまた悪くはないものですね」


「‥‥‥‥うぐぐっ~‥‥」


 勝ち誇ったようにフフンと目を細める花子に、オレは何も言うことができず。


 彼女の前で、ただただ、顔を俯かせることしかできなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「‥‥‥‥やるわね、佐藤花子。まさか、男バレした柳沢くんを逆に利用して、お金を稼ごうとするとは‥‥その豪胆さ、感服に値するわ」


「いや、感心するところそこかよ。お前、男のオレがグラビア写真撮られそうになってること、可哀想だとは思わねーのかよ」


「思わないわね。そもそも私、如月楓ファンクラブの設立に関しては全面的に賛成しているもの。貴方が花ノ宮女学院の広告塔となるには、まず、圧倒的に知名度が必要不可欠だわ。そのためならば、グラビア写真を販売するのは悪い手ではないと言える。‥‥あぁ、勿論、男であることは絶対に隠さなければならないけれどね。そこのところ、如月楓のマネージャーとして、佐藤花子と打ち合わせしておかなければならないわね」


「いつからお前はオレのマネージャーになったんだよ、香恋‥‥」


 そう言って、大きくため息を吐いた後。玄関口の扉が慌ただしく開かれる音が聴こえてきた。


 そして、ドタバタと大きな音を立てて、バンと、リビングの扉が開かれる。


「お、おにぃ!! た、大変だよぉ!! ―――って、香恋さん、来てたんだ! こんにちわ!」


「こんにちは、ルリカさん。どうしたの? そんなに慌てて?」


「そ、それが、とにかく二人とも、これ、見て!!」


 ルリカはコンビニのビニール袋から、一冊の雑誌を取り出した。


 その雑誌は、主にヒット間近の若手俳優の記事が載っている雑誌『ゲイノウビジョン』だった。


 表紙には、今人気の女優、桜岡理沙の顔が大きく載っているのが見て取れる。


 その雑誌をパラパラと捲っていくと、ルリカは、テーブルの上にその雑誌を勢いよくドンと置いた。


「このページ! 見て!」


「ええと‥‥稀代の天才、現る‥‥花ノ宮女学院女優科一年生 如月楓‥‥は? 如月、楓だと‥‥?」


 オレが見出しに書かれたその文字に面食らって驚いていると、香恋は続けて、記事の内容を声に出して読み上げていった。


「先日、仙台市市民センターで行われた、花ノ宮女学院女優科一年生の初公演舞台『ロミオとジュリエット』。その舞台で主演を務めたのは、連続朝ドラに出演した月代茜と、無名の女優、如月楓だ。如月楓は、無名とは思えない観客を圧倒する高い演技力を持っており、彼女が演技をする度に、ロミオとジュリエットの舞台であるイタリアの風景が、背後に産まれていくようであった。その何とも形容し難い、色彩を生むかのようなその演技は、今後、芸能界を震撼させること間違いなしの実力だろう――――――‥‥べた褒めね」


「す、すごくない、おにぃ!? ゲ、ゲイノウビジョンって言ったら、新人俳優の登竜門と呼ばれている芸能雑誌だよ!? 最近、日本映画主演男優賞を取った、若手屈指のイケメン俳優と呼ばれる『黒獅木アキラ』も、朝ドラの主演を務めた、国民的アイドルの『ましろちゃん』も、この雑誌に載ってからブレイクしたんだよ!! やばいよ、おにぃ!!」


「そうね。この雑誌に若手の名前が載ったら、数年以内に確実にブレイクすると言われているわね。‥‥フフッ、まさか、あのロミオとジュリエットの舞台に、ゲイノウビジョンの編集者がいるとは思いもしなかったわ。これは相当なお手柄よ、柳沢くん」


「‥‥‥‥いや、オレ、花ノ宮女学院の広告塔になれれば良いだけで、ブレイクしたいとは全然思ってはいないんだが‥‥そもそも、如月楓は、女装している身なんだし‥‥」


「フフフッ。さて、これからはどうやって貴方をプロデュースしていこうかしらね。胸が躍るわ」


「ですね、香恋さん! 楓ちゃんの存在をもっともっと、日本全国に知らしめてやりましょう!」


「あの‥‥二人とも、オレの話‥‥ちゃんと聞いてる? オレ、高校の中だけでトップ女優を目指しているのであって、別に、日本全国とか目指してないよ‥‥?」


「柳沢くん、佐藤花子の連絡先、教えてくれるかしら? ファンクラブの方も、布教活動に協力してもらうとするわ!!」


 キャッキャッウフフと、盛り上がる、ルリカと香恋。


 オレはそんな二人を、何処か呆れた様子で、見つめていた。

第65話を読んでくださって、ありがとうございました。

この作品は、ここまで読んでくださった、皆様のおかげで執筆ができております。

本当にどうしようもない、未熟な作品だとは思いますが、これからもどうかよろしくお願いします。


よろしければ、モチベーション維持のために、評価、ブクマ、お願いいたします。

続きは明日投稿する予定です。

暑い日が続きますが、みなさま日射病にお気を付けてくださいね。

三日月猫でした! では、また!

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