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元天才子役の男子高校生、女装をして、女優科高校に入学する。  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第1章 初公演編 悲恋の令嬢と春の桜

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第58話 女装男、グッズを売り出される。

 花ノ宮女学院女優科一年による、『ロミオとジュリエット』―――開演一時間前。


 市民センターの前にはある出店が開かれており、その店の前には、多くの人々が集まっていた。


「はいはーい、一列に整列してねー! 楓ちゃんのグッズはまだまだいっぱいありますからねーっ!」


 そう口にして、モデル科一年の金髪ギャル、春日 陽菜は、テーブルの上に並べられた楓の写真がプリントされたTシャツやウチワ、ハンドタオルなどを、次々に来る客たちへと手際よく販売していく。


 そして、一通り客を捌き終えると、陽菜はふぅと大きくため息を吐いた。


「やー、やっぱ、盛況だねー。まぁ、客の殆どは、うちの学校の生徒なんだけどさ」


 陽菜の隣に立っていたオカッパ頭の少女‥‥声優科一年の佐藤 花子は、そう呟いた陽菜の横顔をジッと見つめた後、ぶすっとした不機嫌そうな表情を浮かべる。


「‥‥ビッチ。これはいったい‥‥何の真似なのですか?」


「何の真似って‥‥花子が作った如月 楓グッズを、『ロミジュリ』公演の日に売ろうって言ったのは、あんたが前から言ってたことじゃん? 何言ってんの?」


「そのことではなく‥‥何故、私がこのような恰好をして接客しなければならないのかと、問うているのですよっ!!!!」


「あぁ、それ? 似合ってんじゃん?」


「似合ってなどいませんっ!!!!」


 現在、花子の頭には猫耳が付いており、衣服も、それに合わせたように獣を模した布面積の薄いコスプレ衣装を着用していた。


 その姿に、陽菜は目を細めて、ニヤリと笑みを浮かべる。


「今のとこ、如月 楓ファンクラブって、ほとんどがウチの学校の生徒なワケなのよ。男性の顧客が一人もいないんだよー」


「それは、そうでしょう。彼女はまだ、どこのプロダクションにも所属していない、無名の女優。必然的にその知名度は、私たちの学校の生徒だけに限られます」


「そそ。だからさ、今回、少しでも男性の会員を増やせたら良いなー、って、そう思ったの。そしたら、学校の外でも楓っちの人気は鰻登りになること間違いなしっしょ? 何だこの可愛い子はー、って、絶対になるはずだよ!! ファンクラブの会員も増えること間違いなし!! ぶいっ!!」


「それとこれと、いったいどういった関係が? 私がコスプレする意味はあるのですか?」


「男の子ウケすんじゃん? アタシも同じようなコスプレしてんんだから、我慢してよねー」


 その言葉に、眉間に手を当てて、はぁと大きく息を吐く花子。


 そして彼女は首を横に振ると、再度、陽菜に向けて口を開いた。


「そんなに上手くいきますかね。この市民センターで行われる演劇は、学校のホームページでしか宣伝されていない、無名の公演です。そんな知名度の低い舞台を見に来る人間など、周辺地域に住んで居る近所の人たちか、うちの学校の生徒たちだけでしょう。そんな公演に、果たして集客効果があるのか‥‥フランチェスカさんは、甚だ疑問です」


「ぬっふっふっふっ! アタシを舐めないでよね、花子っ! アタシ、こう見えてもけっこー顔が広いんだよ! 他校の友達に‥‥このチラシ渡して、一週間程、学校の掲示板に張ってもらったんだ! すごいっしょ!」


 そう言って、陽菜は花子に一枚の紙を手渡した。


 その紙には、一面に大きく載った楓の写真と共に、舞台の告知が詳細に書かれていた。


 花子はその紙を見つめながら、フッと、小さな笑みを浮かべる。


「なるほど‥‥。ビッチのくせに、考えたものですね。確かに、この楓さんの顔が載った広告を見れば、年中発情期の男子高校生どもは反応せざるを得ないでしょう。楓さんの美少女力は、本物ですからね」


「でしょー? だから、今回の劇は、絶対たくさん観客が来ると思――――」


「あの! この『如月楓コンプリートグッズセット』、ひとつください!」


「まいど!! 七千円になりますっ!!」


「へいへい、七千円っすね、ちょっと待ってくださいねー‥‥」


「‥‥おい、彰吾、せっかく稼いだバイト代をそんなものに出すつもりか?」


「そ、そうですよ、桐谷くん! グッズなんて別に買わなくても良いじゃないですかっ! 劇を見に来たのでしょう!?」


「うるせぇ、透、委員長っ! 俺はな、あの駅のホームで出逢った天使ちゃんの正体に、ようやっとたどり着けたたんだ! 愛しの彼女の写真がプリントされたグッズを、買わないわけにいくかよっ!!」


「あぁ、もう! こんな時に柳沢くんがいないだなんて! いつも、桐谷くんが暴走した時のストッパーは、柳沢くんがやっていたのに‥‥。帰って来て、柳沢くん~‥‥!!」


「突然休学して俺たちの前から消えた男のことだなんて、知るか! 俺が今求めて止まないものは、如月 楓ちゃんただ一人だ!! あぁ‥‥本当に可愛いぜ‥‥楓ちゃん~~」


 代金を支払い、陽菜から品物を受け取ると、楓馬が以前通っていた学校の級友―――桐谷 彰吾は、Tシャツにプリントされている楓の写真をうっとりと眺め出す。


 そんな彼の姿に、陽菜はニコリと微笑み、声を掛けた。


「お兄さん、良かったら、如月楓ファンクラブに入りませんかー? 毎月会費が500円程かかりますけど、入ると、会員限定のグッズとかもらえますよー?」


「ファンクラブ、だと!? 入ります! キリッ!」


「だ、駄目ですよ、桐谷くん! どうみても怪しいですよっ!!」


「お姉さん、怪しいだなんて酷いなー。こちとら健全な商売をしているんですよー?」


「わ、私は、柳沢くんの代わりに、桐谷くんを監督する責務があるんです! これでもクラス委員ですので!」


「ふーん? ってか、その制服、瀬川高校?」


「そ、そうですが、何か?」


「確か、前に楓っちが、瀬川高校にお兄さんが通っているとか何とか言っていたっけ‥‥。ねねっ、そっちの学校にさ、金髪のイケメン男子いない? ハーフっぽい感じの! この写真の子のお兄さんなんだけどさっ!」


「金髪のイケメン男子‥‥? もしかして、柳沢くんのことですか?」


「柳沢、くん‥‥? 如月って苗字じゃなくて‥‥?」


「そう、ですが‥‥?」


「んん‥‥?」


 首を傾げる、陽菜と、楓馬の元クラスメイトである牧草深雪。


 そんな二人をジッと見つめた後、花子は顎に手を当て、首を傾げた。


「‥‥‥‥何か複雑な事情があって、苗字が異なっている、という感じですかね? ふむ‥‥それにしても‥‥何か、引っ掛かる感じが‥‥」


「どしたの? 花子」


「いえ、何でもありません。それと、私はフランチェスカさんです。間違えないでください」


「ほら、グッズも買ったのだし、早く行きますよ、桐谷くん!」


「やだ! 俺は、絶対にファンクラブに入る! それで、ギャルのお姉さん! ファンクラブにはどうやって入れば良いんですか!?」


「それはですねー、こちらの書類にサインを―――――」


「有坂くん、彼を連行してください!」


「仕方ない‥‥。ほら、行くぞ、彰吾」


「ちょ、放せ、この眼鏡男! 俺はまだファンクラブに加盟できてねーぞ!!」


 腕を引っ張られ、楓馬の友人である彰吾と透と深雪は、その場から慌ただしく立ち去って行った。


 その後ろ姿に、陽菜はむーっと、眉を八の字にする。


「ちょっとー! せっかくファンクラブに入ってくれそうなカモ‥‥じゃなかった、顧客見つけたのにー!! 勝手に連れてかないでよー!!」


「‥‥‥‥」


「? どったの、花子? 何だか、ムズカシー顔してるけど?」


「いえ‥‥何でもありません」


「そう? それにしては、何だか、浮かない顔を―――――」


「あの、ちょっと良いかな。楓さんのグッズ、僕も買って良いだろうか?」


「あ、はいはいー! ‥‥って、どぅえっ!? 銀城先輩!? 三年女優科の大物が、何故こんなところに‥‥!!」


「レズ女‥‥お前も劇を見に来たのですか?」


 花子のその言葉に、銀城遥希はニコリと微笑み、小さく頷いた。


「あぁ。今日は学校が休みの日だからね。僕も、楓さんを応援しに来たというわけさ」

 

「まだお前は青き瞳の者を狙っているのですか‥‥懲りない奴ですね‥‥」


「はは! 無論、諦めるわけないさ! 僕は楓さんを、絶対に落としてみせるよ! この前一緒に共闘してみて、改めてそう実感した! 彼女こそが、僕の生涯の伴侶に相応しい存在だってね!」


「え、えぇぇっ!? ぎ、銀城先輩、楓っちのこと好きなんですか!? は、はぇ~~。如月楓ファンクラブの商売敵の最たる人物が、楓っちにメロメロとか‥‥三年生の銀城遥希ファンクラブの子たち、荒れそう~~~‥‥」


「ファンの子たちには申し訳ないけれど、僕の心はもう、楓さんだけのものさ」


 ファサッと前髪を靡かせ、銀城遥希は白い歯を見せてイケメンスマイルを披露する。


 そんな彼女の様子を何処か苛立った様子でチッと舌打ちを放った後、花子は短く息を吐き、チラリと、市民センターの入り口へと視線を向けた。


「‥‥」


 そこには、先程、店にやってきた彰吾、透、深雪の三人がいた。


 楓馬の友人である三人の姿を、何故か、花子は‥‥‥‥訝しげに、ジッと、静かに見つめていたのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「―――――ついに、この日がきたな」


 市民センターの中にある、控室。


 そこで、オレたち女優科一年は全員整列して、我妻先生と柳沢恭一郎の前に立っていた。


 恭一郎は全体を見渡して、生徒たちの顔を確認し、ニヤリと、不敵な笑みを浮かべ開口する。


「いいか、てめぇら。今回の劇は、あまり大々的には告知されていない、密やかに行われる予定の公演だ。恐らく、観客席には今、地域のジジババやウチの生徒ばかりが集まっていることだろう。もしかしたら、客席が4,5人だけの、ガラガラだという事態もあり得る。だが―――けっして、落胆はするな。どんな状況だろうと、全力を以って事に望め」


「「「はい!!!!」」」


「どんな役者も、最初は無名から始まる。お前らの中には、既にプロダクションに所属しているプロの役者もいるだろうが‥‥その殆どが、オレから見ればまだまだひよっこの、三流役者だ。アマチュアとそう変わりはない」


 そう言って一呼吸挟むと、恭一郎は腕を組み、再び、口を開いた。


「だから‥‥今日この日は、てめぇらの役者人生のスタート地点と思って、演技をしろ。この始まりを大いに楽しめ。誰もが、皆、最初の演技は楽しかったはずだ。『楽しい』という気持ちがあったからこそ、お前らは今、ここに立っている。だから観客に見せてやれ。お前たちの楽しいと思える演技を! お前たちが、どれだけ役者として成功したいのかをな!」


 そう言って恭一郎は一瞬オレに視線を向けると、目を伏せ、フッと微笑を浮かべた。


 そして、もう伝えることは何もないと言わんばかりに、彼は控室から出て行った。


 ‥‥‥‥楽しいと思える、演技を、か。


 オレは前々から、『如月 楓』を、『柳沢 楓馬』とは違う役者として演じて行こうと思っていた。


 柳沢 楓馬の演技は、精密な機械のような‥‥台本の中の人物を正確に演じ切る技術力が、主な武器だった。


 だが、如月 楓は違う。


 如月 楓は、見る者を演劇の世界に誘うために産まれた、花ノ宮女学院の華となるべくして誕生した偽りの女優だ。


 やるべきことは、正確な演技ではなく、他者をこの世界に引きずり込む、その一点のみ。


(芸術の世界というのは、本当は地獄でしかないのだが‥‥それを騙しきって華やかな世界に見せるのが、オレの仕事、か)


 ――――――役者として最も必要なもの。


 それは、他者に成り代わり、別の人格を自身に降ろす技術だ。


 台本の中にある人物の心を完璧にトレースし、別の存在へと自分を昇華させ、観客を騙す、舞台の上で踊り狂う詐欺師。


 それが、古代ギリシアの時代から続く、役者という仕事の本質である。


 だったら、オレは‥‥如月楓は、本当の詐欺師になろうと思う。


 答えの見えない暗闇を歩く、才能のある者しか勝利を掴むことしかできない、地獄のような芸能界という世界に、見る者を引きずり込む―――――悪魔となろう。


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