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元天才子役の男子高校生、女装をして、女優科高校に入学する。  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第1章 初公演編 悲恋の令嬢と春の桜

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第57話 女装男、母親の気持ちになる。


 市民センターの前に辿り着くと、そこには花ノ宮女学院の生徒たちの姿がいくつも散見された


 その中には入り口前で雑談を交わす宮内とその取り巻きたちの姿もあり、彼女たちはオレの姿に気が付くと、こちらに駆け寄り―――元気よく声を掛けてきた。


「おはようございますっ! 楓お姉さまっ!」


「今日は頑張ってくださいね! 応援していますっ!」


 目をキラキラとさせて、オレを見つめてくる5人の生徒たち。


 オレはそんな彼女たちに対して、たじろぎながらも、口を開く。


「あ、ありがとうございます。‥‥あの、お姉さまって呼び方じゃなくて、普通に名前で呼んでくださると嬉しいです。私は先輩ではなく、みなさんのクラスメイトなわけですし」


「そ、そんな恐れ多いことできませんよ!! 楓お姉さまは我々花ノ宮女学院一年生の顔役、リーダーなんですからっ!」


「そうですそうですっ! お姉さまは私たちの女神様なのですからっ!」


 あの、いつの間にオレはリーダーになってたのかな? 本人は初耳なんだが?


 あと、手を組んで祈るポーズをしながら女神様呼びはやめてくれるかな? 


 なんだか、傍目から見ると、いかがわしい新興宗教の一団に見えなくも無いから。


「あら? あれは、もしかして…楓さん?」


「え!? 楓お姉さまが来ているの!? どこどこ!?」


 市民センターの中からゾロゾロと、一年女優科のクラスメイトたちが顔を出してくる。


 そして、女子生徒たちは目が合うと、一斉にオレに対して挨拶をしてきた。


「おはようございます!! お姉さま!!」


「今日は素晴らしい劇にしましょうね、お姉さまっ!!」


「は、はい! 今日はみなさま、よろしくお願いいたします!」


 というか……オレをお姉さま呼びしてくるのって最初は穂乃果と宮内たちだけだったのに、いつの間にかクラスメイトの殆どがそう呼んでくるようになってるな‥‥これはいったいどういうことなんだ‥‥。


 宮内たち五人にプラスして、目の前で祈るように手を組み潤んだ瞳を見せてくるクラスメイトたちの姿に、思わず引き攣った笑みを浮かべてしまう。


 そんな、眼前の光景に困惑している時。突如、背後から声を掛けられた。


「楓」


 振り向くと、そこには‥‥紅い髪の少女、茜の姿があった。


 だが一瞬、それが茜だと、オレは気付くことが出来なかった。


 何故なら、いつもの特徴的なツインテールがそこにはなく、彼女は髪を下ろしていたからだ。


「? 何よ、驚いた顔をして。どうしたの?」


「いえ‥‥。今日はツインテールじゃないんだな、と、そう思いまして」


「あぁ、これのことか。そうね。ちょっと気分を変えようかなと思って。別におかしくはないでしょ?」


「はい。変ではありません。とても似合っています」


 そう言って笑みを浮かべると、茜もニコリと微笑みを返してくる。


「先日のあの一件は、あんたに助けられたわ。本当にありがとう」


「私がしたくてしたことです。ですから、月代さんは気になさらないでください」

 

「茜で良いわ」


「え?」


「あたしもこれからあんたのことは、楓って、そう呼ばせてもらうから。別に良いでしょう?」


「はい。勿論です、茜さん」


 そう言って頷くと、茜はこちらに手を差し出し、真剣な表情を浮かべる。


「今日の劇、必ず成功させましょう。より良い成果を残すためには、あんたの力が必要不可欠だわ、楓」


「‥‥驚きました。茜さんのことですから、てっきり、私に対して宣戦布告してくるものかと思いましたよ」


 そう言った後、彼女の手を握る。すると、茜はどこか恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「ふん。勿論、あんたには負ける気は一切ないわよ。でも‥‥あたし一人の力なんてたかが知れている。それは、三日前、あんたに助けられたことで思い知った。あたしは、弱い。だから―――だから、この劇は、あんたと……いいえ、この場にいるクラスメイトたち全員と一緒に力を合わせて、ロミオとジュリエットを成功させてみせようと思うの。こんなあたしだけれど、協力してもらっても構わないかしら、みんな」


 茜のその問いかけに、背後にいるクラスメイトたちはコクリと静かに頷いた。


 その光景に、茜は、憑き物が落ちたかのような優しげな微笑みを浮かべる。


「ありがとう。絶対にこの劇、成功させましょう」


 そう言って目を伏せた後―――茜は再び目を見開くと、オレの手を強く握りしめ、挑発的な笑みを向けてきた。


「でも、さっきも言ったけれど、楓‥‥あんたに負ける気は一切ないから。今回の舞台、全力を以って、あんたを倒させてもらうわ。‥‥‥‥あたしの演技で、()を魅了するためにも!」


「望むところです。どうぞ存分に、舞台の上でお互いの全力をぶつけあいましょう」


 オレも同じように手を固く結び、茜に対して笑みを浮かべる。


 その瞬間、背後で、パチパチと拍手の音が鳴り響いた。


 何事かと思い背後に視線を向けると、そこには、目を潤ませ、感動に打ちひしがれているクラスメイトたちの姿があった。


「‥‥ぐすっ。楓お姉さまと月代さん、和解して、お互いに実力を認められて‥‥尊すぎますぅ」


「本当にね。つい三日前まではあんなに険悪な感じだったのに、人の関係って変わるものなのね」


 ハンカチを目に当て感動に震えるクラスメイトたちの姿にドン引きしていると、茜は顔を真っ赤にしてオレから手を離し、そのまま彼女たちの方へと歩みを進めて行った。


「う‥‥うざったらしいわねぇ、あんたらっ!! そ、そんなことしている暇があるのなら、台本の読み直しでもしなさいよ!! も、もう!!」


「月代さん、顔を紅くしている~可愛い~」


「うるさいうるさいうるさいっ!!」


「さっき言っていた、『あたしの演技で、()を魅了するためにも』‥‥って、その『彼』って、いったい誰のことですか? もしかして‥‥か、彼氏とか、いるんですかっ!?」


「えー、本当なの、茜さん!? 茜さんみたいな美人を落とすだなんて、どんなイケメンなの!? 写真見せてよ、写真!」


「見せないわよ、涼夏! あーもう、うざったらしいわねぇ!! ほら、早く控室に行くわよみんな! こんなところで油売ってたら、柳沢先生に叱られるんだから!!」


 クラスメイトたちに質問攻めを受けながら、茜はそのまま市民センターの中へと入って行く。


 ――――昨日、茜は、朝のホームルーム時間に教壇に立って、クラスメイトたち全員に向けて‥‥今までの自分の態度の悪さ、非礼を謝罪した。


 それと同時に、宮内たちも、茜に対して今までしてきた嫌がらせを、誠意を込めてみんなの前で深く謝罪した。


 そんな出来事があってからか、クラスメイトたちは徐々に茜を受け入れるようになっていき‥‥今では、『ツンデレキャラ』として、皆から可愛がられるようになっていた。


 そして、意外にも茜と宮内は馬が合ったのか‥‥いつの間にか、お互いに名前で呼び合うようになっていた。


 昨日、放課後に二人でどこかに遊びに行っている姿が見られたが、もしや、あれが功を奏したのだろうか。


 茜にもついに、友人と呼べる存在ができていたのであった。


「‥‥本当に、我が子が巣立ったような気分になりますね」


 柳沢 楓馬という過去の偶像から離れて、彼女は今、新たな関係を築こうとしている。


 寂しいような嬉しいような、何とも言えない気持ちだ。


「おはようございますぅ、お姉さまっ!」


「あっ、おはようございます、穂乃果さん」


「? どうかしたんですか、そんなところでボーッと立って?」


「いいえ、何でも。行きましょうか、穂乃果さん」


「はいですっ!」


 穂乃果と共に茜たちの後を追って、前へと一歩、歩みを踏み出す。


 さて、ここからは‥‥他人に気を配ってなどいられない。ここからは、オレ自身の戦いとなる。


 如月 楓という、女優としての第一歩。


 柳沢 楓馬という、過去を断ち切るための第一歩。


 ‥‥‥‥敗けてなるものか。


 オレは、今日この日を境に、再び役者としての翼を取り戻す。


 過去のトラウマを‥‥乗り越えて見せる。


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