第52話 女装男、無双する。
「それじゃあ‥‥いくよ!! 如月さん!!」
「はい!!」
オレと銀城先輩は、地面を蹴り上げ、そのままガラの悪い男子たちの元へと突っ込んでいく。
そんなこちらの様子を見て、彼らはヘラヘラと、嘲笑の声を投げてきた。
「おいおい、笑わせんなよ。ただの女子高生二人が、俺たちに勝てるとでも思ってんのか?」
「ほらほら、可愛らしくパンチしてみろよー、ハンデあげるよー、金髪ちゃん! ぎゃはははっ!!
ツーブロックヘアーの男はオレの前に躍り出て、頬を突き出すと、下卑た笑みを浮かべ始める。
オレはその男の姿を無表情で見つめた後、腰を屈め‥‥右ストレートパンチを彼の顔面へとお見舞いしてやった。
女子の拳など直接受けたところで、どうとでもないと踏んでいたのだろう。
男は何の防御の構えも取らずに、ただ、オレの拳を受けてしまった。
―――――――それが、致命的な過ちだとは、気付かずに。
「がはぁっ!?!?」
全力で放った、渾身の一撃。
男の鼻はぺしゃんこになり、前歯は砕け折れ、彼はそのまま後方へと勢いよく吹き飛んでいき‥‥奥にある壁へと叩きつけられた。
その光景に、男たちは唖然とした表情を浮かべ、さっきまでのこちらをこバカにしていた態度とは一変、信じられないものを見ているかのような視線をオレに向けてくる。
「は‥‥? こ、拳一発で、男を吹き飛ばしやがった‥‥? た、ただの女子高生、が‥‥?」
「あ、あり得ねぇ‥‥。ゆ、夢でも見てるのか? 俺たちは‥‥!?」
「た‥‥単なるマグレだ!! こ、これは奇跡的な偶然だ!! ビビッてんじゃねぇぞ!! お前ら!!」
そう叫んだ男は懐から警棒を取り出すと、そのまま上段に構え‥‥その警棒を、オレの脳天へと向かって振り降ろしてくる。
オレは即座に対処できるよう、今度は空手の構えを取った。
だが―――――。
「もしかして‥‥僕のことを忘れているんじゃないのかな?」
銀城先輩は軸足で回転すると、跳躍し、警棒を持っている男の手首へと強烈なミドルキックを繰り出した。
男は警棒を落とし、手首を抑えながら、地面に膝を付く。
そんな彼の頭を掴むと、銀城先輩は容赦なく、その顔に膝蹴りをお見舞いしていった。
「ぐはっ!?」
鼻血を流しながら、地面に倒れ伏していく男。
そんな彼を冷たい目で一瞥した後、銀城先輩はチラリとこちらに顔を向けてくる。
「驚いたよ。まさか君が、そこまで強かっただなんてね。女優科の生徒で、僕以外にここまで格闘技のセンスのある子がいるとは思わなかった」
「私もびっくりです。ですが――――――」
その時―――不意を打って、死角から、一人の男がオレに向かって拳を振ってきた。
オレは即座に跳躍し、そんな彼の首元へと、回し蹴りを放って行く。
男はかはっと息を吐き出し、白目を剥くと、ドサリと、その場に静かに倒れ伏していった。
オレはふぅと息を吐き、隣でヒュゥと口笛を吹く銀城先輩に、笑みを浮かべる。
「私、多分、貴方より強いと思いますよ? 私が習っていたのは、ボクシングだけではありませんので」
「フフッ。言うじゃないか!」
「余裕かまして、くっちゃべってんじゃねぇぞ!! クソ女ども!!」
「来るよ、如月さん。僕は左をやる。君は右の奴をお願い」
「了解です!」
二人で、迫りくる男たちを次々に薙ぎ倒していく。
その光景に焦りを覚えたのか‥‥集団の中で一番体格の良い長身の男が、眉間に皺を寄せ、周囲に怒鳴り声を響かせた。
「な‥‥何やってんだ、てめぇら!! 相手はただの女子高生二人組だろう!! 囲んで袋叩きにしろや!!」
その言葉に男たちは同時に頷くと、オレと銀城先輩の周囲を円形状に囲み始める。
銀城先輩はオレの背中を守るように立つと、フッと、爽やかな微笑みを浮かべ、口を開いた。
「やれやれ。悪党というものはどうしてこうも諦めが悪いんだろうね。どんな物語の中でも、彼らは、確実な敗北を知るまで戦い続ける。非効率極まりない連中だよ」
「銀城先輩、申し訳ございませんが、背中を預けても構いませんか?」
「勿論だ。逆に、僕の背中は君に預けるよ。‥‥フフッ、不謹慎かもしれないけれど、君とこうして並んで戦うというのは、何故だか楽しくて仕方がないな。こんなに安心して背後を任せることができる人は、多分、世界でも君一人しかいないよ」
「‥‥私も、何故か、貴方とこうして戦うのはとても楽しいです。まるで、あのク―――」
まるであのクソ親父と演技を競い合っていた、子役時代のようだと言いかけて‥‥オレは言葉を止めた。
さっき、自分の方が強いと彼女には言ってしまったが‥‥何故かは知らないが銀城先輩を見ていたら、絶対に敗けたくはないと、そう、オレは思ってしまっていた。
これは、多分、銀城先輩の姿のどこかに、まだ仲が良かった頃の‥‥父の姿を無意識に重ねていたからなのかもしれない。
オレが絶対に敗けたくないとそう思うのは、この世でただ一人、あのクソ親父だけだからだ。
「? どうかしたのかい?」
「いえ、何でもありません。共に暴れてやりましょう、銀城先輩!」
「あぁ! 奴らに格の違いって奴を教えてやろう! 如月さん!」
「てめぇら! 女だからって舐めてかかるな! ボコボコにリンチしてやれ!」
オレと銀城先輩は、そのまま互いに背中を預け、四方八方から襲い来る男たちとの戦闘を始める。
元より負けるつもりなどはなかったが、彼女が一緒にいればさらに、誰にも負ける気はしなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《月代 茜 視点》
――――――その後、如月 楓と銀城 遥希は、周囲を取り囲む男たちをものともせず、華麗な格闘術を披露し、連中をバッタバッタと倒していった。
如月 楓は、銀城 遥希と肩を並べて、どこか楽しそうな様子に見えた。
全力の自分と対等に肩を並べられる存在を見つけて、喜んでいるかのような‥‥そんな、気配がした。
如月 楓なんか、あたしにとってはどうでも良い存在なのに。
なのに、何故かその光景を見ていて、あたしは‥‥胸が締め付けられるような気持ちになっていた。
(なんなの‥‥? よく分からないけれど‥‥何故だか、悔しくて仕方がない)
如月 楓は、あたしの演技を見ても、あんなふうに笑みを浮かべることはなかった。
いつもあいつは、自信なさげに、自分は未熟な素人役者だと口癖のように言うけれど‥‥出逢った時から、あの女の目は、あたしを道端の石ころのようにしか見ていなかった。
自分の方が圧倒的に格上の存在であると、あの碧色の目は、そう訴えていた。
だから、当初から、あの女は気に入らなかった。
フーマと同じ目であたしを見るあの女の目が、憎らしくて仕方がなかった。
何故なら、あの女が、フーマの隣に立つに相応しい大女優に化ける可能性があると、心の底でそう気付いていたからだ。
でも‥‥今、あたしは‥‥如月 楓に認められ、彼女に背中を預けられている銀城 遥希に、嫉妬をしてしまっていた。
何故だろう。あいつは、フーマじゃないのに。
フーマじゃない、の、に‥‥‥‥。
彼女の背中を支えているのが、自分ではないということに、ひどく、悔しくて仕方がなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
額の汗を拭い、ふぅ、と小さくため息を吐く。
目の前には、地面に横たわる、大勢の男子生徒たちの姿。
ざっと、15人程か。
銀城先輩と協力して、何とか、他校の男子生徒たちを全員叩きのめすことが叶った。
オレ一人じゃ、流石にこの量はさばききれなかったかもしれないな。
銀城先輩が格闘技の経験者だったのは、嬉しい誤算だったと言えるだろう。
「――――――う、そ、でしょ‥‥?」
声が聴こえてきた方向に視線を向けると、そこには、花ノ宮女学院二年生たちの姿があった。
その中には、先ほど腹を殴った、いじめの主犯格の生徒‥‥奥野坂の姿も見える。
彼女は仲間に肩を支えられ、信じられないといった唖然とした様相で、オレと銀城先輩を交互に見つめていた。
「な、なんなの、あ、あんたたち‥‥!! 女子高生が、2人だけで、15人もいる男子生徒全員を倒すだなんて‥‥ふ、普通じゃない!! 何なのよ、あんたたちは!! 化け物めっっ!!」
「化け物? それじゃあ、貴方たちは悪魔か何かですね。よってたかって、ひとりの後輩をいじめて、男子生徒に襲わせようとするなんて‥‥卑劣極まりない邪悪なやり方です。その行いは、到底、許されるものではない」
そう言って彼女たちの元へと歩みを進めていくと、二年生の先輩たちはビクリと肩を震わせ、オレから遠ざかるように、一歩、背後へと下がる。
だが、そこにあるのはコンクリートでできた壁だ。
逃げ道は、オレの背中にある扉しか、存在しない。
「ま‥‥待ってよ! 先に月代をいじめていたのは、そこにいる一年生の子たちだよ? 私たちはそいつらのいじめに乗っかっただけ! 一番悪いのは、その一年生たちだと思うんだけど!」
「確かに、宮内さん含めて、一年女優科の生徒たちも同罪です。ですが‥‥私個人の考えで言えば、あなた方の方が何倍も許せません。報いは必ず受けて貰います」
「ちょ‥‥わ、分かった! あ、謝るからっ! 私たちが悪かった! ごめんなさい!」
「そ、そうね。ちょっと、月代さんが気に入らなかったからとはいえ、少し、調子に乗りすぎてしまったわ。ごめんなさい、如月さん、銀城先輩」
揃って頭を深く下げ始める、二年生の女子生徒たち。
オレはそんな彼女たちの前で足を止め、無表情で奴らの頭を見つめる。
そんなこちらの様子を見て、許されたとでも思ったのか‥‥二年生の生徒たちは顔を上げ、ほっと安堵の吐息を吐いていた。
「こ、これからはいじめなんてしないわ。心を入れ替えて、役者業にだけ専念を―――――」
「舐めてんのか、てめぇら? んなことで、このオレが許すとでも思ったのか?」
「え‥‥? きゃぁあっ!?!?」
オレは手前にいた女子生徒の髪の毛を掴み、しゃがみ込むと―――至近距離で、その怯える顔を強く睨みつけた。
「お前らがこんな非道な行いができるのは、痛みを知らない、温室でぬくぬくと育ってきたからだ。自分がやろうとしていることがどれだけ邪悪なことなのかを理解すれば‥‥自ずと、自身の愚かさに気が付くだろう」
「な‥‥や、やめて‥‥! か、顔だけは、ぶ、ぶたないで‥‥! わ、私、これでも、新人舞台役者で‥‥」
「知るか」
「あぐっ!?」
オレは彼女の顔を地面に叩き付けた後、立ち上がり、ガクガクと肩を震わせる二年生たちへと、鋭い眼光を向ける。
そして目を細め、静かに口を開いた。
「お前らが邪悪極まりない悪童だというのなら、オレはその上を超える、さらなる悪役を演じるとしよう。結局のところ、この社会は、強者が弱者を食らうシステムになっているからな。弱肉強食がこの世の摂理だ。だから‥‥お前らも恐怖を知れば、自然と弱者の痛みを理解できることだろう。弱者の立場に立てば、二度といじめなんて馬鹿げた真似などできないと、心からそう思うことだろう」
この場に必要なのは、勧善懲悪の正義の味方ではない。
この場に必要なのは、更なる悪役だ。
オレは、見る者の心を底冷えさせるような、悪役を喰らう、大悪女を演じていく。
お前らのような小物など、ちり芥でしかない、と。
奴らに、本当の悪というものを教えてやるために―――悪役の仮面を被った。
よろしければモチベーション維持のために、ブクマ評価、お願いいたします。




