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第29話 女装男、泣き叫ぶ。

「ちょ、だ、駄目です、穂乃果さん!! そ、そこは‥‥っ!!」


「フフッ、お姉さま~? 逃げちゃダメですよぉう~?」


「まっ、待って、本当、待ってくださ――――――」


「えいっ!」


「ああああああああああっ!!!!!!」


 チュドーンという効果音と共に、テレビ画面の中にいるゲームキャラクターが爆散する。


 そしてその後、画面が暗転し、2P穂乃果 WINの文字が出力された。


 その光景を見て、隣に座っていた穂乃果が嬉しそうにガッツポーズを取る。


「やりました~!! お姉さまに勝てましたですよぉ~!!!!」


 ゲームのコントローラーを片手に持って、キャッキャッと嬉しそうに笑い声を上げる穂乃果。


 オレはそんな彼女に、眉を八の字にして声を掛けた。


「穂乃果さんはゲーム、お上手なんですね。私はあまりゲームをやったことがなかったので、操作方法を覚えるだけで苦労しそうです」


「えへへ、私、ゲームが大好きなんですよぉ~」


 そう言って、彼女は棚の中から色んな種類のゲームソフトを取り出し、オレの前に並べてくる。


「今やったスマグラの他にも、色んなジャンルを取り揃えていますよぉ~? これは、擬人化したイカのシューティングゲームで、これが王道RPG、ドラゴンファンタジー17。あ、次はこれやりましょう、お姉さま!! 先月出たばかりでまだ私もやっていない、ホラーゲーム最新作! バイオファーザー4リメイクです!!!!」


 そう言って彼女は、ゾンビの絵が描かれたおどろおどろしいホラーゲームのパッケージをオレに見せてきた。


 オレは引き攣った笑みを浮かべ、そのゲームを受け取り、パッケージイラストを見つめながら口を開く。


「わ、私、その、ホラー系はあまり得意じゃないというか‥‥穂乃果さんは、そういうの得意なんですか?」


「大好物ですぅ~!! ホラー映画とかも大好きなのですよぉ~!!!!」


「そ、そうなんですか。い、意外、ですね‥‥」


 ゾンビの絵が描かれたゲームパッケージ、その裏面に書かれているゲーム紹介文を読んでいると、穂乃果がクスリと笑い声を溢して、声を掛けて来た。


「お姉さまは普段、どのようなことをして遊んでおられるのですか? ご趣味は?」


「趣味‥‥と呼べるものはあまりないかもしれません。幼少期から私には、自由な時間がありませんでしたから。強いて言えば‥‥料理や読書、といったところでしょうか」


「幼少期から自由な時間がない‥‥ですか?」


「ええ。私の父親は厳しくて‥‥幼少の頃に、私に様々な習い事を学ばせてきました。ピアノ、ヴァイオリン、乗馬、華道、格闘技、絵画‥‥それはもう、頭がおかしくなるような数の習い事をさせられましたよ。一日中、寝食以外の時間、習い事で縛り付けられていました。今思えばあれは、虐待に近いものだったのかもしれません」


「お姉さま‥‥」


「でも、そんな苦行を強いていた父は‥‥突如、私に興味を無くしたんです。そして彼は、私と妹を置いて家を出て行った。その時、自分は今まで何をやっていたのだろうと、脱力感‥‥虚無感がすごかったです。これから自分が何をして良いのかも、何も分からなくなりました。ただ、呆然とその場に立ち尽くしてしまいました」


 オレは、病気の母を笑顔にしたくて、役者になった。


 父は、才能のあったオレを一流の役者にすべく、様々な習い事をさせた。


 だが、母は亡くなり、オレはそのショックで演技の仕方を忘れ、父はオレを見放し、家を出て行った。


 後に残ったのは、全てを失い、凡人となった元天才子役のオレと、家族の愛に飢えた幼い妹だけ。 

 

 その時、オレは妹以外の人間を愛することを諦めたんだ。


 妹以外の人間を心から信用することを諦めた。


 ルリカ以外の人間は全て敵なのだと、そう思った。


 それなのに――――――。


「それなのに、何故、私は今‥‥穂乃果さんの家にいるのでしょうね‥‥。もう、人を頼ることはしないと、この先ひとりで生きてやろうと、あの時、そう決めたのに‥‥」


 これはきっとオレの甘さ、弱さが原因なのだろう。


 心が弱った時に丁度良く穂乃果という優しい女の子が近くにいたから、彼女に寄り掛かってしまった。


 彼女はオレが男だということを知らないのに‥‥その善意に付け込んで、家に上がり込んでしまった。


 オレは‥‥最低な男だ。


「‥‥はぁ。ここまできたら、もう、全てがどうでも良くなったな。香恋のことも、花ノ宮家も、親父のことも、もう全てがどうでも良い。後は‥‥ルリカを連れて遠くに逃げるとするか。もう、奴らに付き合ってやる理由は、オレには何もない」


 オレはふぅと息を吐き、穂乃果に視線を合わせる。


 そして、静かに、口を開いた。


「―――――――穂乃果さん。申し訳ございません、実は、私は‥‥」


「お姉さま、大丈夫です」


「え‥‥?」


 穂乃果に自分の正体を打ち明けようとた、その時。


 彼女は突如、ギュッと、オレを優しく抱きしめてきた。


 そして優しくオレの頭を撫でると、穂乃果はそのまま子供をあやすように、優しい声音で開口する。


「お姉さまが、私に何かを打ち明けようとしてくれたのは分かります。でも、それを言おうとしているお姉さまのお顔は‥‥今にも泣きそうで、辛くて辛くて仕方がない、という表情をしていらっしゃいました。私、勘は良い方なんです。その秘密を言ったら、お姉さまは‥‥私の前から姿を消そうとしていますよね?」


「‥‥それ、は‥‥」


「だったら、何も言わなくて良いです。穂乃果は、お姉さまの秘密は知りたくありません。‥‥だから‥‥これから先も私と一緒に、学校生活を送ってください、お姉さま」


「うぅ、うぅぅぅぅぅぅ‥‥っ!!!!!」


「私、馬鹿ですから。お姉さまに何があったかは分かりません。でも‥‥今日、とても辛いことがあったんですよね? 私には分かりますよ」


「ぐすっ、つ、つらいことなんて、何も、ない‥‥です‥‥。大丈夫です、私、は‥‥」


「良いから、我慢せずに吐き出しちゃってください。この部屋には今、私とお姉さましかいないんですよ? ですから‥‥今まで背負っていた肩の荷、下ろしましょう? ね‥‥?」


 そう微笑んでこちらを見つめている彼女のその顔に、オレは思わず、母の面影を重ねてしまっていた。


 その瞬間、堰を切ったかのように、涙が止まらなくなってしまった。


 オレは穂乃果を抱きしめ、大きな声で泣き叫んでしまう。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!! うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」


 そんなオレの背中をポンポンと優しく撫で、穂乃果は「大丈夫ですよ、私がいますよ」と、何度も声を掛けて来る。


 彼女の温もりの中、オレは‥‥今まで耐え続けていた行き場の無い想いを、涙と共に、全て吐き出してしまっていた。

 

 優しい少女の腕の中で、情けなく、オレは、ただの泣きじゃくるガキになってしまっていた。

 

第29話を読んでくださってありがとうございました。

この作品を現在、どれくらいの方が読んでくださっているのかは分かりませんが‥‥もしかしたら一人もいないかもしれませんが笑 区切りの良いところまで書いて、完結させようと思っています!



読んでくださっている方、本当にありがとうございました!

また次回も読んでくださると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] トイレ以外にも問題有るけど主にプールと修学旅行時の温泉とかね
[良い点] 主人公の弱さが描かれててとても面白かったです。 主人公が可愛いしカッコいいけど心に弱さを持ってるってのはとても好みです。 普段頼られてる側がいつも頼ってきてる子に頼る瞬間が良き。 [一言]…
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