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元天才子役の男子高校生、女装をして、女優科高校に入学する。  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
花ノ宮香恋ルート 舞台の上の怪物、天才子役の復活

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花ノ宮香恋ルート 第10話 「孤独の夜空」



「さて。これから作戦会議をしたい……ところなんだけど……」


 オレは目の前の光景に思わず、ため息を溢してしまう。


 いくら大きめのキャンピングカーといえども、9人も居れば狭いというもの。


 彰吾に透に委員長に、陽菜に穂乃果に花子。そして香恋にルリカに……あれ?


 玲奈の姿がどこにもいないな? あいつ、どこに行ったんだ?


 オレが人数確認を行っていると、隣のソファーに座る香恋がティーカップを片手に口を開いた。


「玲奈なら、買い出しに行かせているわ。お客様のおもてなし用の茶菓子も無いのでは、失礼でしょう? あと……私の紅茶の買い替えパックも、買いに行かせたわ。一応、そう、一応ね」


「いや、茶菓子は建前で、絶対紅茶のパックが本命で買いに行かせたんだろ。この紅茶ガブ飲みモンスターが!」


「貴方、最近は私に対して遠慮なくものを言うようになったわね。何よ、紅茶ガブ飲みモンスターって。非常に腹立たしいのだけれど?」


「うるせぇ! てめぇが俺の家にインスタント紅茶の袋を大量に置き去りにしていったの、まだ恨んでるんだからな!! お前がうちに来ると、ゴミだらけになるんだよ!! 主に紅茶用品の!!」


「仕方ないでしょ。私、紅茶が大好きなんだもの」


「少しは自重しろ!! お前の膀胱はいったいどうなってやが―――」


「……家?」「どういう……ことなの、楓っち? いや、楓馬くん?」


 その言葉に視線を前に向けると、向かいの席に座っている委員長と陽菜が、絶望した表情をしていた。


 そんな彼女たちの様子に首を傾げていると……二人が座るソファーの背後に立っている彰吾が、何かに気付いたように大きな声を上げた。


「あー!! この子、何処かで見た覚えがあると思ったら……いつぞやか、駅前のデパートで楓馬と女ものの下着を物色していた子じゃねぇか!! って、え、もしかしてお前たちってやっぱり……そういう関係なわけ? え?」


 彰吾のその爆弾発言に、女性陣の空気が冷たくなったように感じられた。


 ……え、何、この空気? というか、何で彰吾が、オレと香恋が女装用の衣装を買いに行った時のこと知ってるの? 何処かで見てたの? この人?


「下着……?」「どういうことなんですか? お姉さま……?」


 後部座席に座っていた花子と穂乃果が、シートの背もたれ越しに、こちらにジト目を向けて来る。


 ……辛い。何が辛いかというと、穂乃果が泣きそうな目でこちらを見つめてるのが辛い。


 委員長、陽菜、穂乃果、花子、加えて何故か右隣に座るルリカにも睨まれながら……オレはいたたまれなくなり、顔を俯かせてしまう。


 何で、オレが気まずくならなければならないんだろう。オレ、別に浮気しているわけでも、誰か特定の女の子とお付き合いしているわけでもないのに……。


 そんな地獄のような状況の最中。


 優雅にティーカップの紅茶に口を付けている香恋が、静かに口を開いた。


「女の子にモテモテというのも、辛いわね。安心しなさい。貴方たちが想像するようなことは、私と彼の間には無いから。私と彼は、ただの……親戚よ」


「親戚……?」


 陽菜が首を傾げながらそう答える。その言葉に香恋はカップをテーブルの上に置くと、再び開口した。


「ええ。これから貴方たちに手伝ってもらうことと、私と彼の関係性はきっても切り離せないものなの。……柳沢くん。私たちの現状をみなさんにお伝えしても、構わないかしら?」


「あぁ。オレも、そう思ってみんなをここに連れてきたんだ。オレたちの現在の状況と、花ノ宮家のこと。全てを、ここにいるみんなに話そう。協力してもらうためにも」


 オレのその答えに香恋は優しく笑みを浮かべると、前を向き、オレの友人たちへと花ノ宮家のことを伝え始めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 オレと香恋が今年の春、何故、出会ったのか。


 オレが、何故、『如月楓』として花ノ宮女学院に通わなければならなくなったのか。


 花ノ宮家というバックにヤクザを付けた、悪辣な財閥家の一族のこと。


 その一族が今、親戚一同で当主の座を巡って相争っていること。


 花ノ宮家の令嬢が駆け落ちしてできた、オレという、異端の当主候補の存在のこと。


 香恋を支えていた白鷺組のトップが先日亡くなり、香恋陣営が大きなダメージを負ったこと。


 叔母の元から離れ、オレと香恋は自立すると、決めたこと――――――。


 ここに至るまでの全てを、オレは、友人たちへと話していった。


 その奇々怪々な花ノ宮家の御家騒動を、上手く呑み込めず、全員、困惑している様子だった。


 だが、二名だけ、その話を聞いても動じていない人間がいた。


 一人は、元々オレの背景を知っていてくれた佐藤花子。


 もう一人は――――香恋と古くから知り合いで、同じ財閥家の一族である、桜丘先輩だった。


「……大体のことは、分かりましたわ。花ノ宮香恋と、柳沢楓馬がどういった関係にあるのか。色々と驚いたこともありましたが……一先ずは、理解しました」


 そう口にして桜丘櫻子生徒会長は、大きくため息を吐くと、ジロリと、香恋を睨み付けてくる。


「わたくしは、貴方とは幼馴染の関係です。ですが……貴方とわたくしはけっして、仲が良い関係とはいえなかった、ですわよね?」


「ええ、そうね。この土地を元々支配していた、地元の名士である旧財閥家の桜丘家は、70年前に突如この地にやってきた花ノ宮法十郎によって土地の殆どを奪われ、権力を失墜させられた。今では、花ノ宮グループの傘下として、何とか生き繋いでいるのが現状。そんな御家の娘である貴方が、花ノ宮家の娘である私を毛嫌いするのは当然のことね」


「……言っておきますが、桜丘家は最早、花ノ宮家の子分同然の立ち位置の家でしかありませんわ。お爺様もお父様も、貴方方花ノ宮家に反旗を翻す意志は持っていない。貴方たち花ノ宮家に恨みを持っているのは、このわたくしだけ……そこのところを理解してもらえると助かりますわ」


「勿論、分かっているわ。桜丘家の中でも、貴方だけが、昔から私に対して突っかかってきていたものね。この私に手を貸すのは、貴方は絶対にしたくないことでしょう」


 香恋と桜丘生徒会長は静かに睨み合う。


 数秒程視線を交わすと、香恋はフッと笑みを浮かべ、オレに顔を向けて来た。


「柳沢くん。彼女をここに呼んだのは間違いよ。確かに、桜丘家の力は欲しいところだけれど……彼女が私に手を貸すなど、絶対にあり得ないこと。有栖と櫻子は、昔から私を嫌っていて――――」


「構わないですわよ」


「え?」


 香恋は素っ頓狂な表情を浮かべ、桜丘会長を見つめる。


 そんな彼女に対して、桜丘会長はやれやれと肩を竦めた。


「勘違いしないでほしいですわ。わたくしが手を貸すのは、貴方ではなくて、柳沢楓馬さんに、ですわ。彼には以前、落ち込んでいたところを励ましてもらいました。なので、仕方なく、不本意ですが、貴方に力を貸してあげます」


 そう言って桜丘会長はそっぽを向くと、ウェーブがかった髪に指を通して、クルクルとし始めた。


 その頬は赤く染まっており、何処か恥ずかし気な様子だった。


 そんな彼女に対して、香恋は目を瞬かせながら、口を開く。


「……良いの? 私に手を貸してしまって?」


「だから、良いと言っていますわよ!! 何度も言わせないでくださいまし!!」


 香恋と桜丘会長の間に何があったのか、オレには分からない。


 だけど、オレと茜のように、幼馴染というのは、他人には分からない深い関係性があるのだろう。


 二人の間に、目に見えない絆があるように、オレには見えていた。


「……これで、櫻子の問題は片付いたわね。それじゃあ、今後のことなんだけれど……柳沢くん、何か計画はあるのかしら?」


「あぁ、そうだな。まずは、相手方の陣営に探りを入れたい。一番付け入る隙がありそうなのは、花ノ宮有栖陣営だが、果たして―――――」


「か、香恋さま! 兄さん!」


 その時。キャンピングカーの扉を豪快に開き、外から玲奈が入ってきた。


 玲奈は右手に一枚の手紙と左手にビニール袋を持ちながら、香恋とオレの元へと駆け寄って来る。


「こ、これを!! これを見てください!!」


 血相を搔いた玲奈から手紙を受け取り、香恋は不思議そうに首を傾げてみせる。


「これは……手紙? 差出人は……花ノ宮法十郎……!?」


「先ほど、出先で花ノ宮家の使用人にこれを手渡されたんです!! 重要なものだから、確実に花ノ宮香恋と柳沢楓馬に渡して欲しい、と……!!」


 香恋はその言葉にゴクリと唾を飲み込むと、手紙の封を切り、中に入っている便箋に目を通していく。


 そして香恋は――――目を見開き、唖然とした。


「な、何です……って……?」


「香恋、何が書いてあったんだ? オレにも見せてみろ」


 オレは香恋から手紙を奪い取り、便箋に目を通す。


 そこには……こんなことが書かれていた。


『雪篠 暦(花ノ宮香恋)・著作『孤独の夜空』を、今年の12月24日に花ノ宮家が再舞台化させる運びとなった。此度の舞台に相応しい役者をキャスト一名ずつ、当主候補者から選出してもらいたい。この舞台は公演終了後に、観客にアンケート調査を行う。そこで最も印象に残った役者として票を集めた者の陣営のトップに、花ノ宮家当主の座を譲る。芸術を見定める観察眼、人を見定める観察眼。双方に優れた者を、私は当主に据える。―――――花ノ宮法十郎』


 

 雪篠 暦・著作『孤独の夜空』。


 その作品は、オレが子役時代の最後に演じた、舞台の脚本だった。


 オレにとってこの小説は、トラウマに等しい作品。


 何故ならば、この作品でオレはイップスを発症し……舞台の上でゲロをまき散らし、役者引退の決定打となったからだ。


「その、『孤独の夜空』の著者が―――香恋、だと……?」


 オレは思わず、隣に座る香恋に視線を向けてしまう。


 香恋は顔を俯かせ、ただ、身体を震わせていたのだった。

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