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彼女の策案

 アリシア・グランフォード。

 辺境伯の一人娘。領主令嬢。彼女は焦っていた。

 その、自分の父のことである。国境を守護する家系である故か。場合によっては武力も振るう。その権力で、クェードの排除という強硬手段を取ってきた。

 自分のした、身分違いの恋。そう、自覚はある。自分は貴族の娘。今は父は現実逃避しているのかもしれない。だが、自分が嫁ぎ遅れる前に政略結婚も考えるであろう。それが母の言葉による可能性は高い。家系を守るためだ。

 一番よい手段は、クェードが爵位を得ること。男爵からになるだろうが。それでも伯爵とは位に差がありすぎる。さらに国に貢献をし王から位を授からなければならない。一代でできることではないだろう。そして、クェードはその気が無い。おそらく。

 彼のことは正直、よくわかっていない。愛している相手だが、自分のことはあまり語らない。それに自分が迫ると無碍に返される。


 クェード・フレアス。

 若白髪の、鋭い目つきの男性。歳は23歳。好物は特にないが、嫌いなものもない。自分の料理を美味く食べてくれるが褒めすぎないよう目を背けるところが愛おしい。

 術士協会所属の伝書士で、優れた魔術士。法術は不得手と語っている。

 優れた術士であるということは、術士学校を卒業した身からもわかる。魔術に集中しながら近接戦闘を行うというのはかなりの熟練が必要で、その集中を軽く済まされる術を選び、使う。そして未だ底知れない。

 爆炎球(ボム・スレイヤー)。クェードが竜牙兵(スパルトイ)達を葬るために放った術。手の平から生み出される小さな火球が敵を追い、炸裂して爆破していく術。

 通常、一般的な術士が使ったとしてもそれはせいぜい3発ほどの火球を生み出すに過ぎない。アリシアが過去に見た最大数は5発だった。それを、彼は一瞬では"数え切れない"程…恐らく20発弱の火球を生み出し、それを全て御して5体の敵を全て、粉々に粉砕した。元々、人に向かって撃てば殺傷能力のもつ術ではあるが。あの規模になったそれはまさに"必殺"の威力になるだろう。

 そんな術者が一介の伝書士に収まっていることに違和感はある。平和な世界とはいえ望めば国家に仕えることもできるだろうし、冒険者としても確実に大成できる。恐らくドラゴンに相対したとしても十二分に戦える実力を持っているはずだ。…それも、単独で。

 そんな彼への評価に、自分の恋心が影響しているかもと冷静にもなったりするが。アリシアが見たのは自分を全力疾走のついでのように唱えた術で助けたところ、アムの試験で自分の知らない術で宙を舞ったこと、襲撃を蹴散らしたところしか見ていない。

 アムによる伝聞は彼の知識の無さが災いし、アテにならなかった。曰く、剣に何かを付与し、恐震を起こすままにゴーレムを細切れにしたというが、そのトドメはアムが行ったし、その術を唱えた後クェードは動けなくなったという。何か、リスクのある強力な術なことは確かだろうが自分の知識にはないものだった。トドメを刺したことを誇らしげに語るアムを即座に忘れ、思案するも答えは出ない。クェードに聞いても教えてくれないだろうし、実際に目の前にいるなら自分はそんなことより彼の今食べたいものの方が知りたくなってそっちの質問をしてしまうだろう。

 そして、父への悩みがいつの間にか恋い焦がれる相手のことを考えることに気づき、内心笑みを浮かべてしまうのであった。


 領主である父、メイル・グランフォードの企み。クェードを排除しようとするそれをどう咎めようかと思案した結果。直接会って話をすることを希望するも、クェードに断られてしまった。旅の目的地は決まっていない、伝書依頼次第とはいえわざわざ戻るいわれもなく、クェードからすれば実家の領地は全てが敵のようなものだ。なにせ、その領主が家臣の下位貴族を動かして監視や暗殺を目論んでいたのだから。

 と、そこで思いつく。伝書依頼。術士協会間や、術士への運送。時に書類、時に魔道具。そして…"人の護衛"。研究結果を持った術士そのものを運ぶこともある。なら。

(私を、領地へ運んで貰えばよろしいのでは?)

 そんな依頼を術士協会に願えば。当然、自分は術の研究をしているわけでもないが、術士協会所属ではある。インフラの一部を利用する権利はある。なくても身分や財で押し通せるだろう。権力の悪用甚だしいが、誰に迷惑をかけるわけでもない。たぶん。クェード本人はものすごく嫌な顔をしそうではあるが。

 そんな目論見を思いつき、実行に移しに外出する。時間は昼。クェードの寝込みを襲うことを我慢してアムを叩き起こし、護衛にする。夜に立ち回った疲れを癒やしきれないまま言いつけられ、不満そうな彼も小遣い欲しさに渋々付き合うのであった。

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