達成と処遇
疲弊を回復したクェードはアムと、捕縛された状態のアサシンちゃんを引き連れて地下墓地の入り口に戻る。
冒険者組合組員によるゾンビ討伐依頼の現場確認を終え、別れる。報酬の受け取りは後日、組合支部にて。それよりもボディラインが目立つ女暗殺者を縛って引き連れていることに対し何か白い目で見られたことに頭を痛ませる。
そして、帰路にて。自分が帯剣している魔剣…剣の姿をした魔族を睨む。この魔剣不貞不貞しくも正体に気づかれても沈黙を保ったままである。墓場に放置するわけにもいかず、仕方なく持ち帰る。この魔族の意図はわからないが、敵対も機嫌を損なうのも死に直結する。もっとも、その行動からはむしろ味方をしてくれたとも思えるが。
「一応、礼は言うべきか」
魔族と言っても一枚岩ではないとも伝え聞く。自らの師匠も魔族の友を持っていたとか。かの"世界最強"の国家、帝国の権力者に魔族がいるとも。ただ、それは稀なことで、やはり最後の戦争として人界と敵対し、人を、亜人を皆殺しにし、世界を滅ぼそうとした歴史がある。
破刃王の眷属である魔族は、武器の姿を取ったとされ、他の魔族の得物として扱われていたと伝わる。その一振りがこの魔剣であろう。自分の魔術が破刃王の力を借り、代償として魔力を捧げるものだからか、魔王の協力者として感じ入ったのかもしれない。
(…だったら俺はどんな魔族とも敵対せずに済むはずだがな)
その予想を即座に、否定する。魔族の力を借り、その代償を支払う魔導魔術を扱えるクェードは魔族にとっては格好の生け贄ではあるが、実際は何度も命を狙われてきた。この魔剣の目的はわからないが、やはり魔族は基本的に敵対者。その処遇を悩ませる。
成果としては、冒険者組合の依頼を終え、報酬は約束され、先日から敵対してきた魔族を倒せたが、結局のところその目的はわからず仕舞い。解決したとも思えない。クェードに固執し、命を狙う理由。他人との相違。今のこの国で、自分だけが持つ、取り柄。
(…それこそ、古代魔術や魔導魔術ぐらいだが)
師によって継承された、代償、周囲への被害、大規模破壊を含む、超威力の魔術。迷惑でろくに使いどころのない、それら。魔族としてはむしろそれらを使って災害じみた被害をまき散らす方が望むところであろうが。
俺を、殺す。俺が持つ魔術を使わせたくない? 何故だ。5秒ほど問答無用で切断できる魔術が使えたところで姿を見せなければ殺せない。
(あとは…)
だが、クェードの思考は女暗殺者の頭突きで中断させられる。
「なん…てめえ」
拘束されたままの暗殺者の太股を足で小突く。
「いい加減解放しなさいよムキー!」「口で実際にムキーって言う人初めて見た」
アムが思わずそんな感想を投げたりもするが。
拘束され諦めたか、大人しくついてきたと思った女暗殺者の攻撃に晒され痛む背中を労りながら、反論する。
「解放するわけねえだろが。アンタは俺の命狙ってんだよな?」
「いえす」
そこを胸張って答えられてもどうしろってんだ。
「でもこのまま貴方たちに連れられていったら」
自警団なり、兵の詰め所なりに突き出すのも考えたが。この暗殺者は他国…隣国の貴族令嬢アシリアの実家お抱えの暗殺者でさらには貴族の地位まで持っている。持て余すどころか即解放されてまた命を狙って来ることも考えられる。だが、かといってここまで無力化に成功している相手を始末するのもばつが悪い。半ば自滅したようなものだが。
「まぁ、雇い主の娘にお伺い立てるかね」
「それがダメなんですううううう辞めて辞めて困る困るうううああああ」
そりゃそうだ。父親の命令で娘につく悪い虫を殺しに来たのに逆に捕縛されて娘に暗殺計画がバレるのだ。娘の機嫌は十中八九最悪になるだろうし、父親は娘に嫌われ、暗殺貴族は責を問われる。
「お師匠様ももはやスルー気味ですけど、アリシアさんのお父さんの依頼ってめっちゃんこ認めてますねこの人」
めっちゃんこ。アムの放ったフレーズを胸中で繰り返す。
「めっちゃんこ困るうううううううううううううああああはあああああ」
やかましい。夜中だぞ。
「触雷」「あばばばばばば」
手加減した電流の魔術でめっちゃんこやかましく抵抗する暗殺者を気絶させ、引きずって行くクェードとアムであった。
術補足
触雷
呪文魔術。手の平に電流を生み出し這わせ触れた対象に流し込む。握手と同時に不意打ちできるぞ。




