転校生は、友達以上恋人未満で初恋の人。
高校1年の二学期の初日。夏休み明けにより、クラスメイトのみんながダラーんとしたムード。担任の先生による夏休みの話。小、中学の時もこんなことは何度もあったが、あまり慣れないものだ。
「そんな訳で夏休みの間、東京に行っていたわけなんだが…おい、須崎。別に聞かなくていいけど寝ないでくれ」
しまった…知らない間に寝てしまったようだ。
「す、すみません」
クラス内で笑いが生じる。
「ま、次から気おつけろよ。…あ、そうだ。今日このクラスに転校生が来るんだが…ちょうど来たようだ」
ドアをノックする音がした。クラスメイト全員の視線が集まる。
「失礼します。ー 今日から1年B組に転校することになりました、長谷川さずなです。よろしくお願いします。」
周りのクラスメイトは、
「だれあれ、めっちゃかわいいじゃん」
「俺一目惚れしたかも…」
などと言っている。
みんな突然の転校生に驚きを隠せていない様子だった。もちろんそれは、僕も例外ではなかった。
ただ、突然来た転校生が超絶美少女とかいう非日常感に驚いているのではない。
「あれ、久しぶりショー君。小学校以来…だね?」
超絶美少女こと長谷川さずなは僕の目の前で再会を喜んでいた。
「そう…だね」
校庭にある金木犀の香り。蘇るあの頃の痛みと悲しみ。そして、
そして、僕の初恋の相手であった長谷川さずなとの記憶が3年ぶりに思い出される。これが彼女との再会であった。
「久しぶりだね、ショー君」
俺はその言葉を聞いて胸が熱くなるのを感じた。いつぶりだろうか。さずなと過ごした小学校生活を思い出す。そして、心の何処かでは分かっていた事実をに気づく。俺は、長谷川さずなのことが好きだったのだと。
「…あ、うん」
うまく舌が回らない。小学生の時は普通に話していたのに、すっかりコミュニケーションのとり方を忘れてしまった。もともと、人見知りな性格が故に、情けなく思う。
「よかったら放課後、学校案内してよ?」
さずなに顔を覗かれ、思わず目を逸らしてしまった。
「まぁ、別にいいけど…」
「じゃあ決まりだね。よろしく、ガ・イ・ド・さん」
今となってはどうツッコんでいいのか分からない。3年見なかっただけで、さずなの雰囲気がだいぶ変わっている。もちろん、容姿も以前より大人びている。
放課後になり、俺は約束した通りさずなと校舎を見回っていた。
「あっ、ここもしかして校長室?めっちゃくちゃ綺麗じゃん!」
「そうか?どこの高校もこんなんだろ」
「えー、前いた高校はちょっとボロかったよ」
「そうなのか。でも、小学校の方がひどいだろ」
「懐かしいね〜、でも比較対象に入れたらダメよ」
「それもそっか」
だんだん、さずなともよく話せるようになった。小学生の時のことを思い出しながらはしているうちに、細かな記憶が蘇る。
「そういえばさ〜。一回2人で校長室に呼ばれて、説教されたことあったよね。あの時ショー君めっちゃ泣いてたの覚えてる?」
「何言ってんだよ!?さずなが泣いてたから俺が慰めたじゃん」
「え〜、絶対嘘だよ〜」
「いやいや。あの時たしか………。そういえばなんで校長室に呼ばれたんだっけ?」
「そりゃ、ショー君が友達とケンカしてその付き添いで私も行ったからだよ」
そういえばそうだったような。
「あの時なんでケンカしたの?結局、ケンカの理由聞かせてくれなかったよね」
「いや、別にたいしたことじゃないよ」
「嘘。相手の子私のことで何か言ってた」
あのケンカの時。相手の子が、さずなの悪口を言っていた。
「さずなって、ブサイクだよなぁ。みんなもそう思うだろ」
「いや、そんなこと言うなよ」
「お前、いっつもさずなと一緒にいるよな。お前も一緒にいたらブサイクになっちまうぞ」
「おい、ふざけるな!!」
俺はその時、相手の子を思いっきり殴り、吹き飛ばしてしまった。小学生の力でばあるものの、やっぱり痛いのには変わりたないのだろう。その子は大泣きし、挙句に親が呼ばれ、校長室で説教された。この時さずなが一緒にいたのだが、
「ショー君は悪くないの。悪いのは全部さずなのせいなの」
と言ってなぜか俺より大泣きし、結局2人で泣いたのが事の真相である。なんとなく、ケンカの理由を察してはいるだろうが、俺は未だにこの事をさずなに話してはいない。さずなをこれ以上悲しませたくなかったし、なんてったって恥ずかしい。
「向こうが殴ってきたらから抵抗しただけって言ってんじゃん」
「本当に?」
「本当本当」
「本当の本当の本当に?」
「本当の本当の本当に」
「…なんか、カップルみたいだね」
「傍から見たらそうかもな」
そして俺達は、日が沈む前に帰ることにした。
「さずな。ちょっと寄ってかね?」
「ん?どこ?」
「着いてからのお楽しみ」
「いじわる」
もう昔と同じように話せている。やっぱり俺はさずなのことがずっと好きだったのだと、改めて実感した。そして、気づけば街を全体が見える高台に着いていた。
「ここ?」
「うん。俺のお気に入りの場所なんだ」
見た目の割に頑丈な階段を上がる。そして、いつ見ても新鮮な景色に2人とも見とれてしまった。
「綺麗…だね」
「だから言ったじゃん、お気に入りの場所って」
「また、来たいね」
何度でも来よう。その一言がのどに詰まって言えない。いつもなら諦めてた。自分の気持ちを押し殺して「また次でいいや」を繰り返したら、さずなは転校してしまった。もう昔と同じことを繰り返したくない。
「なぁ…さずな。もしさ、さずなが転校するって言った時。その時、俺がさずなに好きだって言ってたら……さずなはなんて答えた?」
沈黙が停滞する夕方。
その中で1人、この地球で最も光を放つ笑顔が輝き、
「そんなの…いいに決まってるじゃない……」
俺のからだを震わせた。
「だったらまた、俺はお前のこと…さずなのことを好きになってもいいですか?」
俺達の物語は再び始まる。友達以上恋人未満ではなく、初恋の続きとして。