97.サプライズ②
「お茶、いれる」
「えっ?!」
いつも通り、じいちゃんとばあちゃんに挨拶を済ませた悠木は、俺の部屋に来るなりそう言った。
確かに、もう何度も来ているのだから、茶くらい入れられるとは、思う。
思うけど。
今まで一度だって、悠木がそんなことを言ったことは無かったのに。
やっぱ、怖いぞ、今日の悠木。
なんか、企んでるのか?!
「しじょーは、課題」
「・・・・ああ、うん」
悠木先生の指示通り、残りの課題に着手したものの。
座ったとたんに、睡魔が襲ってくる。
仕方ないんだけど、さ。
今日のバイト、メチャクチャ忙しかったから。
でも。
悠木先生は、怒ると怖い。
居眠りなんかしてたら、どんだけ怒るか・・・・自分は寝ているクセに。
別に暴力振るわれる訳じゃないけど、なんなら暴力の方がマシなんじゃないかと思えるほどの、あの、怒りを秘めた冷たい眼差し。
『やる気ないなら辞める』
とか。
本気で言い出しかねないし。
辞められたら困るし。
困る以前に、辞められたくないし。
俺は必死に睡魔と戦いながら、課題とも格闘するしかなかった。
・・・・なんか、いい匂い・・・・あ~、腹減ったぁ。
匂いにつられて目を覚ます。
目を、覚ます。
・・・・ん?
なんか、しっくりこない。
なんでだ?
ああ、部屋が暗いからか。
・・・・なんで、暗いんだ?
テーブルから頭をあげた、寝覚めのボヤけた視線の先。
ダサメガネを外した悠木が、じっと俺を見ていた。
えーと?
なんだっけ、この状況。
悠木から視線を戻して、手元を確認する。
そこにあったのは、解きかけの問題集。
・・・・て、ことは?
一瞬にして、眠気が吹き飛ぶ。
俺、やっちまったかっ?!
「ごめんっ、悠木っ!俺っ」
「おめでと、しじょー」
悠木の目が、細められる。
それは怒っている顔でもなく、呆れている顔でもなく。
柔らかな微笑み。
「・・・・へっ?」
「ろうそく、溶ける」
「えっ、えっ?!」
「早く」
急かされるままに、前にある小さなホールケーキに立てられているろうそくを吹き消す。
すぐに立ち上がった悠木が部屋の電気をつけると。
「・・・・すげ・・・・」
テーブルの上には、湯気の立ったハンバーグとサラダ、スープが並べられていた。
そして、その隣には、小さなサボテン。
そのサボテンに、俺はハッと気づいた。
あれっ?
もしかして、今日って・・・・
慌ててスマホを取り出し、日付を確認すると。
そっか、今日俺、誕生日か・・・・
悠木、よく覚えてたな。
朝からバタバタと忙しくて、スマホも全然見てなかったけど。
気づけばいくつか、おめでとうメッセージが入っている。
改めて見てみれば、さっき俺が吹き消したろうそくの数は、3本。
「3回目だから、3本か」
「うん」
「来年は、4本か?」
俺の問いに答える事無く、悠木は笑顔を浮かべたまま、3本のろうそくを見つめている。
「なぁ、これ、悠木が作ったのか?」
「うん」
照れくさそうに、悠木が笑う。
「夏川さんに、教えて貰った」
「え?」
「しじょーの味覚は子供だから、ハンバーグなら喜ぶって」
「・・・・なるほど」
悔しいけど、夏川の読みは当たりだ。
俺はハンバーグが、大好きだ、ちくしょうっ!
「サプライズ」
「え?」
「できた」
見れば、悠木はものすごく嬉しそうな顔をして俺を見ている。
「俺、2回もサプライズされたな」
「うん」
「じゃ、食うぞ?」
「うん」
悠木が作ってくれたハンバーグは、少しだけ焦げていたけれども。
スープは少しだけ、味が薄かったけれども。
それでも、俺にとっては、最高のご馳走だった。
最高の、サプライズだった。




