95.スカウト
「しじょー、鳴ってる」
「えっ?ああ・・・・真菜さん?」
珍しく居眠りもしていないカテキョ:悠木の隣で勉強に集中していた俺は、マナーモードにしていたスマホの着信に気付かず、気付いた悠木にスマホを手渡された。
発信者名は、真菜さん。
悠木は今、俺の隣にいる。
すなわちそれは、悠木絡みの事件が起こった訳ではない、ということだけれども。
俺は慌てて、応答マークをタップした。
「もしもし」
”夏希くん、お久しぶりね。今、大丈夫?”
「あ・・・・はい」
チラリと悠木を見るが、悠木は俺が解き終わった問題を見てくれている。
少しくらいなら、問題無いだろう。
”夏希くん、またモデル、やってみない?”
「なんですか、またピンチヒッターですか?」
”やだ、違うわよ。スカウトしてるの、本気で”
「えっ?」
”どう?”
冗談かと思ったが、真菜さんの話し方からは、冗談のような雰囲気は感じられない。
「すいません。やりません。俺、モデルなんて無理だし。つーか真菜さん、よく俺の下の名前、覚えてましたね」
実は真菜さんの第一声から、俺は驚いていた。
下の名前で俺を呼ぶ人なんて、それこそガキの頃ならたくさんいたけど、今じゃ親くらいのもんだ。
だが、真菜さんはもっと驚くような事を、スマホの向こうでサラリと言った。
”だってルイがいつも話してるもの、あなたのこと。『夏希が』って”
「へっ?!」
スマホを耳に押し当てたまま、俺はコッソリと悠木の顔を盗み見る。
悠木が?
俺の事?!
『夏希』ってっ?!
”あら、知らなかったの?ついでに教えてあげるとね。モデルの仲間内では、ルイの彼女は同じ年の『夏希』って子、ってことになってるのよ”
「はぁっ?!」
スマホの向こうで、真菜さんはケラケラと楽しそうに笑っている。
なんだそれっ!
知る訳ないだろっ!
ルイの【彼女】が『夏希』だとっ?!
『みんなが、彼女にでもあげろ、って』
ふいに、クリスマスに悠木が言っていた言葉を思い出す。
だから、か?
だから、俺にくれた、ってことか?
”それにしても。そっかぁ、ダメかぁ、残念。夏希くんなら、いいモデルになると思ったんだけど。でも、気が向いたらいつでも連絡頂戴ね”
そう言って、真菜さんは電話を切った。
真菜さんにモデルにスカウトされたことも。
下の名前で呼ばれたことも。
俺には驚きだったけど。
・・・・悠木、お前一体、何考えてんだよ・・・・
それ以上の驚きの情報に、俺は真剣に俺の回答をチェックしている悠木の姿を、ただぼんやりと眺めていた。




