94.練習③
「車体安定させてから、乗せるんだぞ」
「ああ」
次の日曜。
藤沢は早速、ヘルメット持参で俺の練習に付き合ってくれた。
「ご希望は?」
「は?」
後ろに乗った藤沢に聞かれたが、何の事やら俺には分からない。
「相変わらず鈍いな、四条」
「何がだよ」
「瑠偉を乗せる練習だろ?」
「ああ」
「肩につかまらせるのか、腰につかまらせるのか。はたまた、抱きつかせるのか」
「だっ、抱きっ・・・・」
「落ち着け、四条」
「お前っ、絶対わざとだろっ!」
「まぁな」
・・・・藤沢、なんだか最近、キャラ崩壊してきてないか?
ただの『いい奴』じゃ、無くなってきているような・・・・
これもしかして、夏川の影響か?
なんかだんだん、藤沢が夏川に寄ってきてる気がする。
俺にそんな事を思われているとは露知らず、藤沢はそのままレクチャーを始める。
「俺が兄貴の後ろに乗る時は、片手で後ろのバー持って、片手で兄貴の腰に捕まってるかな。何か、一番安定する気がするんだよ。兄貴が嫌がるのが面白くて、たまに抱きついたりもするけど」
「・・・・そりゃ、こんだけ図体のでかい弟に抱きつかれるのは、嫌だろうな」
「まぁ、それもあるだろうけど。運転しづらいって、言ってたな」
「なるほど」
「だから、瑠偉に抱きつかせるのは、諦めろ。初心者には、危険だ」
「ハナから考えてねぇよっ!」
「安全運転なら、両肩に捕まらせるのが無難だろうな」
「そっか」
「四条的には、不満だろうけど」
「何でそうなる・・・・」
「ま、今日は色々試してみようぜ」
そう言って、藤沢は左手を俺の腰に回した。
右手はおそらく、後ろのバーだ。
「最初は、俺のいつもの乗り方な」
「ああ」
「基本、後ろの奴は荷物と同じだから。1人で乗ってる時と同じように運転すれば大丈夫だ」
藤沢の言葉に、俺はゆっくりとバイクを発進させた。
「やっぱいいなー、俺も大学受かったら、バイクの免許取ろうかな」
「・・・・そうだな」
爽やかな笑顔を浮かべる藤沢の隣で、俺はグッタリと椅子の背もたれに体を預けていた。
俺の家のリビング。
藤沢は旨そうに、冷えた玄米茶をゴクゴクと飲み干している。
初めて後ろに人を乗せて運転した緊張感からの疲れも、確かにあった。
でも、それ以上に。
藤沢に弄り倒された疲れの方が、遥かに大きい。
両肩をつかめば、そのままもたれ掛ってくる。
両腰をつかめば、信号待ちの度に擽ってくる。
交通量の少ない安全な道路に差し掛かるたびに、嬉々として抱きついてくる。
ほんとこいつ、次男坊な・・・・
こんなんじゃ、いつか本当に誤解されるぞ、俺達。
いやいや、藤沢には悪いけど、俺、全力で否定するけどなっ?!
「で、どうだ?もう瑠偉、乗せられそうか?」
「そうだな。藤沢よりは大人しく乗っててくれそうだからな」
「えっ?もう、練習はいいのか?」
「なんでそんなに残念そうなんだよ」
露骨に残念そうな藤沢の顔に、思わず吹き出してしまう。
「藤沢がバイクの免許取ったら、俺が練習台になってやる」
「四条お前、俺に仕返しするつもりだな?」
「当たり前だろ」
「はぁ・・・・俺の初めてのバックは、四条か」
「・・・・だからそれ、やめろ」
「優しくしてね」
「殴るぞ」
藤沢が笑い、俺もつられて笑う。
「瑠偉のこと、いつでも相談に乗るからな」
帰り際にそう言い残し、藤沢は帰って行った。
サンキュ、藤沢。
色々言いたいことはあるけど。
やっぱ藤沢は、いい奴だ。




