93.練習②
「そういや、夏川は?」
「マユちゃんとミナミちゃんと、女子限定のスイーツバイキングだそうだ」
「なるほど」
そんなんばっか食ってたら、太るぞ?
なんて。
藤沢なら、絶対言わないんだろうな。
そういや夏川の奴、最近あまり暴力的じゃないし。
藤沢が優しいから、あいつも穏やかになったのかな。どっちにしろ、いいことだ。
・・・・あれ?ということは?
あいつの暴力って、もしかして、俺のせい?!
「どうした?なんか、悩みでもあるのか?瑠偉のことか?」
黙ってしまった俺を心配した藤沢が、そう言って俺を見る。
夏川の事考えてた、なんて。
言えないよな、うん。
俺は小さく頭を振って、言った。
「悠木の事っちゃ悠木の事なんだけど・・・・なぁ、藤沢。お前、俺のバイクの2人乗りの練習に付き合ってくれるような奴に、心当たり無いか?」
藤沢はその場で立ち止まり、黙ったまま俺を見る。
藤沢に見つめられたまま過ぎる、沈黙の時間。
なんだ?どうした、藤沢?
俺、なんか変なこと言ったか?
もしかして、夏川の事考えてたの、バレたとかっ?!
でも別に、変な事考えてた訳じゃねぇしっ!
疑われるようなこと、何もねぇしっ!
沈黙に耐え切れなくなり、俺は恐る恐る口を開いた。
「・・・・藤沢?」
「それ、俺じゃ、ダメなのか?」
「へっ?」
「その聞き方、俺以外で、ってことだろ?」
藤沢は、何やら突然不機嫌そうに口を尖らす。
その仕草は、まるで嫉妬丸出しの子供そのもの。
藤沢~、お前、いつからそんなキャラになった?
ピュア通り越して、子供返りか?
「別に、お前じゃヤダ、って言ってる訳じゃねぇよ。ただ、危ないから、バイクの後ろに乗り馴れてる奴の方がいいなって、思ったんだ。んで、できれば、お前みたいに体が頑丈な奴」
「じゃ、俺でいいだろ」
「え?」
「俺、兄貴のバイクに、よく乗っけてもらってるし」
「・・・・初耳ですけど」
聞けば、藤沢には他県で独り暮らしをしている年の離れた兄貴がいて、遊びに行った時などは、今でもたまにバイクの後ろに乗せて貰っているとのこと。
そうか、藤沢は次男坊か。
兄貴からも両親からも可愛がられて育ったから、こんなにスクスクと、ピュアでいい奴に育ったんだな。
ちょっとピュアが過ぎるけど。
「じゃ、俺でいいな」
「ああ、もちろん」
やっと、藤沢が機嫌を直し、笑顔を浮かべる。
「そうか、四条の初めてのバックは、俺か」
「・・・・誤解を招くような発言はやめろ」
「心配するな。優しくするから」
「いい加減、殴るぞ」
ハハハ、と笑い、藤沢は再び歩き始める。
「なぁ、いつするんだ?」
「あー、藤沢が空いてる時でいい。なるべく早めがいいけど」
「分かった。・・・・ちゃんと連絡するから、浮気するなよ?」
「だーかーらっ!いい加減にしろって!」
「・・・・しじょー?ケンカか?」
「別にケンカなんて・・・・げっ、悠木っ!」
いつのまにか、『ずっとここにいましたけど、なにか?』とでもいうような顔で、悠木が藤沢のすぐ後ろを歩いていた。
「おまっ、いつから・・・・」
「あれっ?四条気付いてなかったのか?瑠偉ならちょっと前から、俺達のすぐ後ろ歩いてたぞ?なあ?」
「うん」
マジでっ?!
ってことは・・・・
藤沢のアレ、聞いてた・・・・?!
焦る俺を見て、藤沢はニヤニヤと笑っている。
・・・・こいつ、気付いてて・・・・
「藤沢、一発殴らせろ」
「しじょー、暴力はダメだ」
「ぐっ」
「そうだそうだー!暴力反対!」
「藤沢っ、てめっ!」
「助けてー、瑠偉っ!」
「しじょー」
「・・・・わかったよっ」
ダサメガネ越しに悠木にギロリと睨まれ、仕方なく、握りしめた拳を開いて下ろす。
「うち、来るか?」
「うん。少しだけ」
家の前で藤沢と別れ、悠木と一緒に玄関に向かうと。
悠木は、駐車スペースに止めてあるバイクを見ながら、小さな声で言った。
「圭人なら、いいや」
やっぱ、聞かれてたか・・・・
つーかそれ、《《どっちの意味》》で言ってるんだ?
さっさと和室に向かう悠木の後ろ姿を、俺は複雑な思いで眺めていた。




