90.ホワイトデー②
「どこ?」
「さぁな」
「・・・・しじょー?」
「そんな目で見んな」
「・・・・」
「変なとこじゃねえから!」
「・・・・うん」
悠木と並んで、駅前までの道を歩く。
そーいや、こうやって悠木と二人でどっか行くなんて、初めてじゃないか?
思ったとたん、心音が、倍速じゃないかと思う早さになる。
だが。
なにやら警戒顔で、少し距離を取って歩く悠木の姿に、少しだけ、クールダウン。
にしても、そんなに信用無いのかよ、俺・・・・
「ここだ」
「え」
「来たことあるだろ、仕事で」
「・・・・うん」
クレープ屋の前で、悠木は戸惑ったような表情で俺を見た。
「1日早いけど、ホワイトデーだ」
ダサメガネの奥の瞳が、大きく見開かれる。
「好きなの、食えよ」
小さく頷き、悠木は瞳を見開いたまま、その視線を俺から移し、ガラスの向こうにあるサンプルをガン見し始めた。
やっぱあれは、リップサービスなんかじゃなかったんだな。
本当にまた来たかったんだな、ここに。
近いけど、なかなか来る機会、無さそうだしなぁ。
そんなことを思いながら、そのまま過ごすこと、数分。
悠木が振り返って、俺を見る。
「決まったか?」
悠木は小さく首を振り、助けを求める子供のような目を向けてきた。
ゆうき~・・・・なんだよ、その目!
反則だぞ、もうっ!
さっきの警戒心は、どこいったんだ?!
再び早まりそうな心臓をなんとか宥めながら、俺は少し距離をとって悠木の隣に立つ。
「迷ってるのか?」
「うん」
「どれ?」
悠木が指し示したのは、イチゴに生クリームのクレープと、クリームチーズにブルーベリーのクレープ。
「よし」
俺は店員に、クレープを2つ、注文した。
「しじょー?」
「一緒に食おうぜ。そうすりゃ、両方食えるだろ?」
感心したように大きく頷く悠木の目の前に、出来立てのクレープを2つ差し出す。
「まずはどっち、いく?」
ここでも少し迷い、悠木はイチゴのクレープを手にした。
ボサボサ頭にダサメガネをかけ、ダボッとしたシルエットの服を着て、どこか所在なさげにイチゴのクレープを持って立っている悠木は、なんだか迷子の子供みたいで可愛く見える。
・・・・はっ。
ついに、こんなモッサリした悠木を『可愛い』とまで思うようになっちまったか、俺っ!
ふと気づくと、駅前通りにはいつの間にか人が増えていて、見知った顔もチラホラと見える。
「食いながら、行くか」
「うん」
悠木を促し、俺たちはクレープを食いながら、俺の家へと歩き始めた。




