89.ホワイトデー①
さて。
どうしたもんか。
近づいてくる、3月14日。
俺は去年の数倍、頭を悩ませていた。
だって。
夏川はともかくとして(『義理』って自分で言ってたしな)、バレンタインに、悠木からも、貰ってしまったから。
・・・・確かに、な?
『友』チョコだって、言ってたぞ?
でも、普通に考えて、ヤローに友チョコなんぞ、渡すか?!
いや、いいんだ。『友』だろうが『義理』だろうが。
悠木が、俺にチョコをくれたってことが、しかも、作ってくれたってことが、俺にとっては大袈裟でもなんでもなく、夢みたいなものなんだから!
勿体なさすぎてなかなか食えなかったけど、食ったら食ったで、またこれが旨かったし!
・・・・夏川直伝なんだろうが、夏川から貰ったのよりも旨く感じたのは、俺の気持ちの問題だろうか。
「マジでどうしよ・・・・」
学校帰り。
とりあえず、夏川へのお返しを買うべく、駅前に向かう。
この時期は、どこもかしこも
【ホワイトデー】
の昇りやらポスターやらが貼ってあるせいで、店に入りづらいったらありゃしない。
恥ずかしさを堪えて夏川用の菓子を選んでいる時。
ふと、向かい側の店が目に入った。
それは、いつだったか夏川が言っていた、クレープ屋。
『個人的にも、また来たいって書いてあるし』
確か、夏川がルイが載ってる雑誌の切り抜きを見ながら、そんなことを言っていたような気がする。
ということは。
悠木が行きたい、ってことだよな?
もしかしたら、店へのリップサービスかもしれない、とは思ったけど。
俺の心は、決まった。
「なぁ、悠木」
「・・・・なに」
3月13日。昼休み。
図書館の、いつもの定位置。
俺の隣で、今正に寝に入ろうとしているところに声をかけてしまったからか、ダサメガネを外したグレーの瞳が、不機嫌そうに細められた。
・・・・こえーよ、悠木・・・・
若干ビビりながらも、俺は悠木から目を逸らさずに聞いてみる。
「明日、仕事だろ?」
「うん」
「今日は?」
「勉強」
「え?」
「しじょーの」
「そ、そーだよな・・・・」
それがなんだ、とでも言わんばかりの、悠木のキツい目。
これは、相当に機嫌が悪いぞ、眠たくて。
それでも、俺には言わなければならないことがあった。
「勉強の前にちょっとだけ、付き合ってくれないか?」
「どこに」
「・・・・ちょっと」
ふぅ、と。
ため息とも欠伸ともつかない声を漏らし、悠木はそのまま目を閉じた。
「ちょっとなら」
「お、おぅ。ちょっとだ」
目を閉じたまま、悠木は小さく笑い、やがて寝息を立てはじめる。
その寝顔に。
俺は小さくガッツポーズを繰り出した。




