87.痴話喧嘩⑤
控えめなノックの音に、俺は目を覚ました。
・・・・目を、覚ました?
やべっ。
寝てた。
慌てて悠木を見れば、悠木はまだ眠ったまま。
・・・・良かった、バレてない。
悠木先生は、自分は居眠り(どころか、爆睡)するクセに、俺が居眠りでもしていようものなら、かなり機嫌が悪くなる。
すげー理不尽だ。
だが、仕方無い。
何故なら俺には、悠木先生が必要だから。
そっと部屋のドアに近づき開けると、なにやら照れくさそうに笑う藤沢と夏川が、2人仲良く並んで立っていた。
「話、ついたんだな」
「ああ」
部屋から出て後ろ手にドアを閉め、リビングに戻る。
付いてきた夏川が、不思議そうに言った。
「悠木は?」
「寝てる」
「えっ?」
「お前の相手して、疲れたんだろうよ」
「・・・・そか」
戻ったリビングで、藤沢と夏川は、二人並んで頭を下げた。
「悪かったな・・・・その、色々」
「ほんと、ごめん、四条」
「ほんとだよ・・・・」
ま、仲直りしたなら、いいんだけどさ。
「じゃあ、俺たち、帰るわ」
「ああ」
玄関まで見送る俺に、藤沢がふと、足を止める。
「あれ?そーいや四条、俺に話あるんじゃなかったか?」
「あー・・・・もう、いい」
「なんだそれ・・・・あれっ?俺の靴」
「わりぃ、下駄箱突っ込んだ」
じゃ、またねー!と。
先に夏川が玄関から出たのを確認して、俺は藤沢に言った。
「後でいいから、悠木に謝っとけよ」
「え?瑠偉に?」
「そう。あいつ、お前に避けられてるって、すげー気にしてたんだからな」
「もしかして、話って、それか?」
「ああ」
「そっか・・・・やっぱ、気づかれてたか」
靴を履き終え、藤沢が立ち上がる。
「わかった。瑠偉には謝っとく。ありがとな、四条」
「ああ・・・・わっ!」
突然、藤沢の腕が伸び、気づけば俺は、藤沢にガッツリ抱き締められていた。
一段下がった玄関にいた藤沢の顔は、俺の顔のすぐ目の前。
ご丁寧に、ゴツっと、額まで合わせてくれちゃって。
「ほんっと、感謝してるぞ、四条!」
と同時に。
玄関の扉が開き、夏川が顔を覗かせた。
「藤沢、まだ~?・・・・え゛っ?!」
そして背後からは、リビングの椅子とテーブルがぶつかるような音。
「ふふふじさわっ!いいからもう、帰れっ!」
俺は慌てて藤沢を引き剥がす。
「おうっ!じゃ、またな!」
爽やかな笑顔を見せ、藤沢は振り返り・・・・
「あれ?夏川、なに怒ってんだ?・・・・え、ちょっと、夏川っ?!」
怒りに任せて走り出したのであろう夏川を、あわてて追って行った。
あ~あ、またケンカか?あいつら・・・・
藤沢のピュアさ、嫌いじゃないけど。たまについていけねぇとこ、あるんだよな・・・・
ため息を吐きながら、玄関の鍵を閉めて振り返った先のリビングでは。
呆然とした顔の悠木が、黙ったまま俺を見ていた。




