86.痴話喧嘩④
俺的には、あまり思い出したくはないものではあったが。
仕方ない。
藤沢と夏川のためだ。
ここは、ひと肌脱ごうではないか。
「お前さ。元日に藤沢が俺のこと抱きしめて寝てたの見て、どう思った?」
「えっ?」
「お前、怒ってなかったか?」
「・・・・うん」
「嫉妬したんだろ?俺に」
「・・・・うん」
「似たようなもんだぞ、お前がやってること」
「なんでよ?」
「藤沢と俺がどーこーなるなんて、アリエナイ事だ。そのアリエナイ事に嫉妬したんだ、お前は。今の藤沢は、あの時のお前と同じなんだよ」
グスッと鼻をすすりながら、夏川が俺を見る。
「でもあたし、ルイに抱きしめられてないし。・・・・藤沢にも、だけど」
「それは知らんけど。ルイの話する時の浮かれっぷり、お前、自分でどんな感じが知らないだろ」
「え?」
「見てるこっちが恥ずかしいくらいだ。もし、俺の彼女がそんなだったら、俺も正直、嫉妬くらいはすると思うぞ?」
悠木は、やはり【ルイ】という単語が出る度に、体をビクリと震わせている。
すまん、悠木。でも、こればっかりは、仕方ない。
夏川は、それでもまだ不満顔だ。泣きはらした目で俺を見ている。
そんなに泣くくらいなら、藤沢(本人)にちゃんと言えばいいだろうに。
素直じゃねぇなぁ、まったく。
「で?どうすんだ?お前、藤沢と別れんの?」
「なんでよっ!」
俺の言葉に被る勢いで、夏川は即答した。
だったら、話は、早い。
「じゃ、今ここで、藤沢に電話しろ」
「・・・・えっ」
「こーゆーのはな、時間が経てば経つほど、拗れんだよ」
「・・・・うん・・・・」
「夏川」
「わかったわよっ」
多分、藤沢は俺の部屋から出て、すぐそこまで来てると思う。
こんな状況で、あいつが俺の部屋でのんびりしているとは、思えないから。
俺の目の前で、夏川が藤沢へ電話をかける。
と。
すぐ側で、スマホの着信音が鳴り響いた。
俺のスマホじゃない。
悠木のスマホでもない。
鳴っているのは、もちろん・・・・
「・・・・藤沢っ?!」
スマホを耳に当てたまま、夏川は目を見開いて俺の背後を見つめている。
振り返ると。
鳴り響くスマホを手にした藤沢が、バツの悪そうな顔をして、そこに立っていた。
「じゃ、そーゆー訳で」
悠木を促し、俺は立ち上がる。
「あとは2人でちゃんと話せ。俺達、部屋にいるから」
立ったままの藤沢を俺が座っていた椅子に座らせ、俺は悠木と一緒に部屋に向かった。
「大変だったな」
「うん」
部屋に入るなり、悠木は大きな深呼吸を数回繰り返していた。
泣いた夏川なんて、俺だって見た事が無い。
悠木だってきっと、初めてだっただろう。
しかも、おそらく恋愛関係に疎い悠木は、突然の夏川の相談に、相当困ったに違いない。
「疲れただろ。少し寝てけよ」
と言って悠木を見れば、悠木は既にダサメガネを外し、マイ枕を手にして俺を見ていた。
「・・・・だよな、うん」
「うん」
「じゃ、俺も・・・・」
精神的に疲れて、俺もベッドに横になろうとしたのだが。
「しじょーは、勉強」
「ええっ?!」
「英語、全然できてない」
「・・・・あ~・・・・」
仕方なく、英語の教科書と参考書を手に、悠木の隣で勉強を始める。
ほどなくして、悠木の小さな寝息が聞こえてきた。
俺も、寝たいんだけど、なぁ・・・・
でも、確かにおみくじに書いてあったな。
【継続を怠るなかれ】って。
「はぁ・・・・」
藤沢と夏川の事が気になりながらも、俺はあくびを噛み殺しながら、悠木先生の指示通りに英語の勉強を続けたのであった。




