83.痴話喧嘩①
「これがこうなるから・・・・そっか!わかった!なぁ、悠木、ここの数式、こうだろ?・・・・悠木?」
悠木は外したダサメガネをいじくりながら、ボンヤリと宙を見つめている。
ここ最近、よく見る光景だ。
俺の勉強を見ながら居眠りするのはしょっちゅうだったが、今の悠木は、『心ここにあらず』状態。
なにか、あったのだろうか。
仕事で?
それとも。
人間関係の悩み?
もしかして。
・・・・恋の悩みとか?!
・・・・恋の悩みなら、対象が俺以外であることは間違いないだろうな。
いくらなんでも、恋する相手の目の前で、ボケッとしてるなんて、アリエナイ。
「どこが分からないんだ?」
思わず頭を振ってしまった俺に気付いたのか、悠木が俺を見ていた。
ようやく、長い前髪の影に半分以上隠された状態であれば、あの、反則的なグレーの瞳にノックアウトされることも無くなってきた今日この頃。
それでも。
長時間の直視にはまだ耐えられそうもなく。
「あ・・・・これで、合ってるか?」
先ほど解いたばかりの問題を悠木の前に押しやり、俺は悠木の視線から逃れた。
「うん」
さっと目を通しただけで、悠木は小さくうなずき、参考書を俺に戻す。
そしてまた、ぼんやりと宙に視線を向けた。
「なぁ、悠木」
呼び掛けに、悠木はぼんやりとしたままの目を俺に向ける。
こんな悠木は、見てられない。
第一、集中できないっちゅーの。
俺の想いなんて、どうせハナから叶わぬ恋だ。
だったら。
この際、恋の悩みだろうがなんだろうが、ドンと来い!
俺は腹をくくって、悠木に言った。
「悩みがあるなら、聞くぞ」
ぼんやりとした目に光が戻り、大きく見開かれる。
そして、その目を伏せながらため息を吐くと、悠木は言った。
「圭人に、避けられてる」
「え?なんで?」
「わからない」
助けを求めるような悠木の目に、俺の心臓が跳ね上がる。
「オレ、何かしたのかな」
今にも泣き出しそうな、悠木の顔。
胸の奥が、チクりと傷んだ。
これは、嫉妬だ。
悠木にこんな顔をさせた、藤沢への。
あいつ、何やってんだよ。
夏川のことも俺のことも、悠木のことだって、大事なんだって、言ってたじゃないか。
なのになんで、大事な奴に、こんな顔、させてんだよ!
恋の悩みじゃなかったことにはホッとしつつも、藤沢には腹が立っていた。
「俺が聞いてやる」
「え?」
「大丈夫だ、まかせとけ」
「・・・・うん」
不安げな悠木を安心させるために大きく頷き、俺は再び参考書へと向き直る。
「しじょー」
「なんだ?」
「そこちがう」
「えっ?!まじでっ?!」
つーか、さっきの今でソッコーダメ出しって。
いったい悠木の頭はどんな作りになってんだよ・・・・




