77.年越しカウントダウン
大晦日の夜。
藤沢、夏川、俺の3人はリビングでくつろいでいた。
年越しまで、残すところあと僅か。
夕方ごろに俺の家に集合した俺たちは、晩飯に年越しそばを食ったあと、4人でボードゲームやカードゲームをしたりもしていたが、まず最初に悠木が眠気に負けて脱落し、3人でのゲームではたいして盛り上がらず。
のんびりと、デリバリーのピザ等をつまみながら、年末恒例の某テレビを観て笑いつつ、まったりとした時間を過ごしていた。
当初、藤沢は俺と2人で年越しカウントダウンを決行する予定だったらしい。
そこに待ったを掛けたのが、夏川だ。
「彼女差し置いて友達とカウントダウンとか、あり得ないから!」
藤沢は、バカが付くほど真面目な男だ。
男2人で過ごす夜に女子1人だけ呼ぶ訳にはいかないと断ったところ、夏川が言ったらしい。
「なに言ってるの。悠木も一緒だよ」
そんな訳で、年越しメンバーはいつもの4人になったのだが・・・・悠木は今、爆睡中だ。いつもの和室で。
「そろそろ悠木起こさないとね。もうすぐカウントダウン始まっちゃう」
「そうだな」
当然、言い出しっぺ且つ女子であるところの夏川が、もしくは、幼馴染みの藤沢が、悠木を起こしに行ってくれるのだろうと、俺は思っていた。
だが、いつまでたっても2人が動く気配は無い。
年越しまで、あと数分。
俺はハタと気づいた。
そっか!
夏川じゃ、マズいんだ!悠木の瞳の色がバレる!
藤沢じゃ、ダメなんだ!あいつ、爆睡してる悠木、起こした事無いんだった!
「あっ、じゃ俺、起こしてくるわ!」
俺は慌てて和室へ向かった。
「おい・・・・おい、悠木」
声を掛けてはみたものの、悠木はすっかり爆睡モード。
『あと1分だよー!』
リビングから、夏川の声が聞こえてくる。
「おい、悠木っ!お前、今日なにしに来たんだっ!年越しカウントダウン、するんだろっ!」
布団越しに体を強めに揺さぶっても、一向に起きない。
きっと、大地震が来ても、悠木は爆睡しているタイプだろう。
『あと30秒!』
あーもうっ!
仕方なく、悠木の右横に回り、肩を抱くようにして上半身を起き上がらせた。
すぐ横に、悠木の顔。
閉じたままの瞼。
睫毛の一本一本までが見える距離。
『あと15秒!』
「悠木、起きろ、悠木っ!」
ペチペチと軽く頬を叩くと、悠木はやっと、うっすらと目を開けた。
「・・・・しじょー?」
「もうすぐ年越しだ。早く向こうに・・・・って、おいっ!」
「・・・・。・・・・起きてる・・・・」
「寝るなって!」
『あと10秒!』
夏川の声とほぼ同時に、悠木の頭が俺の肩にコトンと乗った。
どうしよう・・・・どうする、俺っ?!
心臓が、自分のものとは思えないほどの強さと速さで、ドクドクと動いていた。
目と鼻の先にある、悠木の寝顔。
今なら何をしたって、悠木はきっと気付かないだろう。
たとえ、キスしてしまったって。
誘うように小さく開かれている唇に、俺の理性は崩壊寸前だった。
「悠木・・・・」
緊張のためか、そのほかの何かのせいか。
震える右手を、悠木の顔へ伸ばし-
モサモサの前髪をそっとかき分け、現れた可愛らしい額に、軽くデコピンをくれてやった。
「てっ」
「起きろって」
「・・・・しじょー?」
犯罪級に綺麗なグレーの瞳が、ぼんやりとした光を宿しながら俺を見る。
『3、2、1、はっぴ・・・・』
なぜだか、夏川の言葉が途中で途切れたが、それには気付かないでおくのが優しさってものだろう。
「あけましておめでとう、悠木」
「おめでと、しじょー」
寝ぼけつつも、俺に向けられる悠木の邪気の無い笑顔。
その笑顔を正面から受け止めることができる現状に、俺は心の底から『良かった』と思った。




