74.クリスマス・イブ①
”今日クリパやるんだけど、来ない?”
12月24日の朝。
洗濯中に掛かって来た、夏川からの電話。
「今日、バイト」
”えーっ!イブにまでバイト入れてんの?!なんか・・・・哀れだねぇ”
「うるさい、ほっとけ」
って。
これ、デジャヴか?!
去年と全く同じ気が・・・・
”マユもミナミも来るのに。もちろん、藤沢も”
「へ~」
だよな。
去年と全く同じ訳がない。
つーか、藤沢、ハーレム状態か?!
羨ましい奴。
と思った矢先。
”ねぇ、四条お願い。ちょっとでいいから来て”
「は?なんで?」
”藤沢がね、四条が来ないなら行かないって”
「はぁっ?!」
切羽詰まったような夏川の頼みにも関わらず、俺は極めて間抜けな応答をしてしまった。
だって。
なんだよ、それ。
小学生のガキじゃあるまいし。
何やってんだ、藤沢は。
「藤沢、そこにいんのか?」
”え?あ、うん”
「ちょっと代わってくれ」
空いた時間で洗濯機の中に洗剤と柔軟剤を入れ、蓋を閉めて、スタートボタンを押す。
今日は風が強くて寒いが、乾燥もしているから、洗濯物がよく乾くだろう。
あいつの枕も、ついでに干しておいてやろうか。
今日も多分、事務所でパーティーだろうし。
もしうちに来るとしても、夜になるだろうしな。
”なんだよ、四条”
聞こえてきた藤沢の声。
なんだかやたらと『つっけんどん』な声だ。
拗ねてんのか?
拗ねてんだな?俺がクリパ行かないって言ったから。
藤沢って、こんな奴だったっけ?
「お前なぁ、別に俺がいなくてもいいだろ」
”だって、お前がいなきゃ、男は俺ひとり”
「その状況を楽しめ」
”俺はお前とは違うんだっ”
おいこら。
どーゆー意味だ、藤沢?
藤沢は、俺が思っている以上に真面目で、おまけに奥手らしい。
顔も悪くないし(真菜さんにスカウトされたくらいだからな)、ガタイもいいし。
おまけにすげーいい奴なのに今まで彼女ができなかったのは、そのせいだろう。
でもなぁ。
もうちょいはっちゃけても、いいんじゃないか?
俺達せっかく、青春真っただ中にいるんだからさ。
「とにかく」
洗濯機から離れて、部屋にある悠木の枕を取りに向かいながら、俺は藤沢に言った。
「俺がいなくても、美女二人と彼女がいれば十分だろ?」
”・・・・おいこら、四条”
「ん?」
”そこは、『美女三人』で良くないか?”
「・・・・ごちそうさん」
”お前、ほんとに来ないのか?”
「ああ」
”バイト終わってからでも”
「悠木が来るかもしれないから」
”・・・・そっか”
じゃ、しょうがねぇな、と呟く藤沢に、「お前は絶対クリパに行けよ」と念押しして、俺は電話を切った。
藤沢は、分かってくれているから。俺の気持ちを。
やっぱり藤沢は、いい奴だ。
悠木の枕を手に庭へ出ようとした時、今度は悠木からの電話を着信した。
もう、なんだよほんとに。
この、微妙なデジャヴ。
”しじょー、今日、バイト?”
「あ、あぁ。お前は?」
”仕事”
「そっか」
暫し沈黙。
あれ?
去年は確か、この後悠木の方から『夜行っていいか?』って言われたはずなんだけど・・・・
なんだ?この沈黙は。
ん?
もしかしてこれって・・・・
まさか、俺が誘うの、待ってるのか?!
”じゃ”
「夜、来いよ」
俺はとっさに、そう言っていた。
そうしないと、悠木はほんとにこのまま電話を切ってしまうから。
俺、困るんだ。
今日、悠木に会えないと。
”うん。たぶん、9時過ぎ”
そう言って、悠木は電話を切った。
気のせいかもしれないけど。
俺には悠木の声が、嬉しそうな声に聞こえた。




