71.進路
「藤沢は、進路決めた?」
「ああ。俺は大学受験する」
「そっか」
「お前は?」
「ん~・・・・」
久々の、藤沢との帰り道。
最近藤沢は、部活が無い時は夏川にベッタリで、あまり俺には構ってくれない。
まぁ、いいんだけど。
今日はたまたま夏川が友達と話していて・・・・
油断していた。
直後に、久々の衝撃が、俺の背中に走った。
「ってぇぇぇぇっ!」
「よっ、四条」
藤沢と俺の間に割って入った夏川が、ニッと白い歯を見せる。
「相変わらず元気だなぁ、夏川は」
はははっ、と爽やかな笑顔を浮かべている藤沢だが。
元気?!
そんな簡単な一言で済ませていいのかっ?!
この女の暴力をっ!
「まぁね~、元気だけが取柄だから」
「そんなことないだろ」
「え~?そう?」
やだ~も~!
なんて、まるで可愛い女子みたいに恥じらった素振りで、夏川はペシペシ藤沢の肩を叩いているが。
なんだそれ。
お前、さっき俺に振り下ろした拳は、どこ行った?
なんで藤沢じゃなくて、俺なんだよ!
「そういや、夏川は進路決めたのか?」
「ん~、あたしは専門学校かな。ちょっと、やってみたいこと、あるんだよね」
「そっか」
「藤沢は、受験するんだよね。やっぱ、ラグビー強いとこ狙い?」
「まぁ、な」
俺の存在を忘れたかのように、藤沢と夏川は、2人寄り添って俺の前を歩いていく。
「で、四条は?・・・・あれっ?四条?」
「おい、四条。何やってんだ?」
2人そろって振り返った時。
俺のスマホがメッセージを受信した。
【行ってもいいか?】
「悪い、俺、先帰るわ」
驚く2人を追い越し、俺は家まで走った。
【ああ】
短いメッセージを、悠木に返信して。
「なぁ、悠木はもう、進路決めたのか?」
「・・・・ん~?」
俺の部屋で、悠木はウトウトと微睡み始めていた。
悠木専用の枕に頭を乗せて。
俺をまた昼寝に誘いに来るようになって暫くしてから、悠木は和室だけじゃなく、俺の部屋でも寝るようになった。
以前のように。
それが、いいことなのか。悪いことなのか。
俺には全く、わからないけれど。
嬉しいか嬉しくないかと言ったら、嬉しいに決まってる。
寝入りばなに悪いな、とは思いつつも、俺はそのまま会話を続ける。
「やっぱ、大学行くのか?まぁ、悠木なら楽勝だよな、大学受験なんて」
「・・・・しじょーは?」
閉じかけていた目を薄く開き、悠木が俺を見る。
「う~ん・・・・」
夏休み。
親父とかーちゃんの所へ戻った時に、進路の話も少しだけした。
2人とも、俺がしたいようにしろ、と。
そう言ってくれた。
でも俺、何がしたいんだろう?
正直、まだよく分からない。
そう言ったら、親父が言ったんだ。
分からないなら、したいことを見つけるために、大学に行ってみたらどうだ?と。
どうやら親父も、同じような理由で大学に行ったらしい。
「大学・・・・行ってみようかなぁ」
薄く開かれていた悠木の目が、大きく見開かれる。
「大丈夫か?」
「なにが?」
「勉強」
「うっ・・・・」
そこだよ。
問題は、そこなんだよ。
今でこそ、悠木のお陰で、学校の勉強はかろうじて及第点には達しているけど。
大学受験となると、また別次元の話になる。
だけど、予備校に通うとなると、それはそれでまた、時間も金もかかる訳で・・・・
「オレ、教える」
「えっ?」
「勉強」
「・・・・マジ?!」
小さく頷くと、悠木はそのまま目を閉じた。
ほどなく、規則正しい寝息が聞こえてくる。
マジか・・・・
思ってもいなかった悠木の申し出に、俺はただただ驚くばかりで。
すぐ側で眠る悠木の寝顔を、ぼんやりと眺めていた。




