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69.悠木の誕生日②

「おおおおお前、なんでここにっ」

「鍵」


 既にダサメガネを外している悠木が、長めの前髪の隙間から、目を細めて俺を見ている。


 あ、そうか。

 悠木には鍵を渡してあるんだった。


 じゃ、なくてっ!!


 行けなくなったって!

 連絡寄越したじゃないかっ!

 しかも、ついさっき!!


「だってお前さっき」

「サプライズ」


 ニコッと。

 悠木が笑った。

 俺が今まで一度も見た事が無いような、子供みたいに無邪気な笑顔。


 ああこいつ、こんな顔もするんだ。


 なんて。

 その笑顔に、見入ってしまう。

 なんだよ、お前は。

 完全防御してるクセに、攻撃力高過ぎだろ。

 俺もう、完全にノックアウト状態だぞ?

 どうしてくれんだよ。


「しじょー?」


 無反応状態の俺に、心配になったのだろう。

 気付くと悠木は、顔を曇らせていた。


「怒ったか?」

「怒ってねえけど」

「けど?」

「サプライズする側じゃないだろ、今日のお前は」

「え?」

「される側だぞ、まったく」

「なんで?」

「誕生日なんだから」


 そっか、と。

 悠木は何やら小さく呟いて、ひとり頷く。


「だから、か」

「どうした?」

「今日オレ、サプライズされた。事務所の人に。びっくりしたけど、嬉しかった。だから、しじょーにも、した」


 この時の俺の気持ちなんて。

 絶対、誰にも、理解できないと思う。

 昇天しそうな気持ちを無理やり押さえつけて、抱きしめそうになる腕を全力で押しとどめて。

 めちゃくちゃ嬉しいのに、その何倍も、苦しいんだ。

 幸せ過ぎて顔が緩みそうなのに、同じくらい辛くて、大声で泣きたいくらいなんだ。


 悠木のバカ。

 悠木のアホ。

 お前。

 自分が何言ってるか、分かってないだろ。

 それってほぼほぼ、告白だぞ?

 そう、勘違いされるようなこと、お前、俺に言ってんだぞ?


「迷惑、だったか?」


 困ったような、哀しそうな、曖昧な表情の悠木の顔。

 そういえば、前にもこんな顔させたな、悠木に。

『鈍感、って言われる』、って。


 そうだ。

 悠木は、鈍感だ。

 そして。

 悠木にまたこんな顔をさせてしまう俺も、相当鈍感だ。


「迷惑なもんか」

「え?」

「めちゃくちゃ、嬉しい」

「ほんとか?」

「ああ。すげーびっくりしたけどな」

「そっか」


 悠木はまた、笑顔を見せた。

 子供のような、無邪気な笑顔。

 うん。

 お前はそうやって笑っている方が、絶対に、いい。


「じゃ、そろそろ始めるか」

「なにを?」

「お前の、誕生日祝いだよ」


 悠木が嬉しそうに、小さく頷いた。

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