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68.悠木の誕生日①

【仕事終わったら、家来いよ】


 悠木にそう、メッセージを送っておいた。

 悠木からは、


【うん】


 の返信だけ。

 でも、それだけで、俺には十分。


 悠木が来るのは、早くても8時は過ぎるだろう。

 腹減ってるかもしれない、と思って、かーちゃんに教えて貰った、ばあちゃん直伝の稲荷ずしも作ったし。

 今年はちゃんと事前予約して、二人分の小さいホールケーキも準備したし。

 プレゼントも準備した。

 ・・・・まだ、使えないものだけど。


 そうして、準備万端整えて悠木を待っていた俺のスマホにメッセージが入ったのは、8時過ぎだった。


【ごめん。行けなくなった】


「えええええっ?!」


 思わず、スマホに向かって声が漏れてしまっていた。

 とたんに、体中から力が抜ける。


 なんだろう、この脱力感。

 仕方ないじゃないか、悠木は仕事なんだから。

 頭では、分かってる。ちゃんと、分かってるんだ。

 でも、心が追い付かない。

 だって、今日は悠木の誕生日なのに。


 悠木の誕生日を、祝う事ができないなんて。


 しばらくぼんやりとした後で、思い出して悠木にメッセージの返信をする。


【そっか。わかった】


 ピロン、と。

 俺のスマホじゃない音が聞こえたような気がしたけど、多分、テレビの中の音だろう。

 ノロノロと立ち上がると窓際に立ち、俺はそこにあるサボテンの棘にそっと触れた。

 悠木がくれた、トゲトゲだらけの、まん丸サボテン。


 触れるだけなら、気を付けてさえいれば、サボテンの棘って意外に痛くないもんなんだな。

 棘があるって分かって触るなら、全然危なくねぇじゃんなぁ。

 サボテン本体には、触れねぇけど、さ。

 ・・・・どうやったら、触れるんだろ。

 俺、いつかは触れるのかな。

 悠木に。

 悠木の、心に。


 そんなことを思った時だった。

 部屋の電気が突然消えたのは。


「なんだ?停電か?」


 そう呟いて、窓から外を見てみたが、そこから見える風景はいつも通り。

 近くの家の電気も街灯も、ちゃんと点いている。


「俺んちだけ・・・・?」


 特に大量の電化製品を一度に使用した訳でもないから、ブレーカーが落ちた訳でもないだろうし。

 なんだ?一体。


 とりあえず、家の中を確認しようと振り返ると。

 部屋の扉が、少しだけ開いていて。

 廊下の明かりが細く差し込んでいた。


「・・・・この部屋だけ?電気、切れたのか?」


 ひとり呟いて、部屋を出ようとした俺の手が、いつもの癖で電気のスイッチに触れる。

 と。

 再び部屋が明るくなった。


「・・・・なんだ?」


 そして、首を傾げながらクルリと振り返った先では。


「わっ!なっ、なんだお前っ!」


 悠木がいつもの場所に座って、俺を見ていた。

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