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63.夏休み

「ふじさわ~」

「あ~?」

「やっぱさ~」

「え~?」

「海なんてさ~」

「ん~?」

「ヤロー2人で来るもんじゃねぇな~」

「・・・・言うな、四条」


 砂浜に座り、藤沢と俺は、ボーッと海を眺めていた。


 この夏休み。

 初日に、悠木は海外の両親の元へ行ってしまった。夏休みいっぱい、戻って来る予定は無いらしい。

 夏川とは、やはりまだ、顔を合わせられる状態ではなく。

 基本的に、俺はバイト(と、夏休みの課題)に明け暮れる毎日だった。

 親父とかーちゃんのところに帰る予定はあったけど。それだって、たかだか一週間程度だ。

 たまに、クラスの友達と遊びには出かけるものの、それ以外の気晴らしと言えば、バイクを気ままに走らせる程度。

 そんなある日。

 藤沢に誘われて、やってきた海。

 久し振りの海に、最初こそ、ヤロー2人ではしゃいでいたものの。

 周りを見てみれば、家族連れやらカップルばかり。

 たまに、可愛い女子グループもいる事はいるが、藤沢も俺も、ナンパできるような度胸も自信も無い。


 ・・・・藤沢なら、声さえ掛ければ、全然イケると思うんだけど。

 まぁでも、藤沢は、意外に一途そうだし。なんせ真面目だし。

 ナンパするような性格では、無いかもな。


 何やら空しくなった俺達は、太陽が高度を下げ始めた砂浜で、いつしか2人でたそがれていたのだった。


 そんな雰囲気だったからなのか。

 相手が、藤沢だったからなのか。

 次々と人が帰り始め、まばらとなった砂浜で、俺は気付くと、悠木の話を口にしていた。


「俺さぁ」

「ん?」

「好き、みたいなんだ」

「何が?」

「悠木」


 真顔のまま、藤沢が俺を見る。

 目が、『今さらなんだ』と言っていた。

 俺自身よりも先に、藤沢はとっくに気付いていたようだった。

 俺の、悠木への気持ちに。


「辛いな」

「うん」

「どうすんだ?」

「わからない」

「そっか」


 そのまま、藤沢はまた、視線を海へと戻した。


 藤沢は、いい奴だ。

 変な気遣いも慰めもしない。だけど、話はちゃんと聞いてくれる。

 だから、やっぱりこのまま黙っている訳にはいかない、と思った。

 夏川の事も。


「藤沢」

「なんだ?」

「俺、夏川に告られた」

「・・・・そっか」


 あまり驚いた様子もなく、藤沢は海を眺め続けている。


「驚かないんだな」

「そりゃそうだろ」

「え?」

「見てりゃ分かるよ。夏川がお前の事好きだ、ってことくらい」

「えぇっ?」

「俺、お前ほど鈍感じゃないからな」


 藤沢は、いい奴だ。

 夏川の気持ちに気づいてたクセに、俺のピンチにはいつも助けてくれた。

 きっと、今日だって。

 俺のこと心配して、誘ってくれたんだろう。

 俺、お前の恋敵だったのに。

 ・・・・俺にその気はなかったけど。


「でも俺、断った」

「うん」

「だから、気まずいんだ、今」

「だろうな」

「藤沢は、どうすんだ?」

「何が?」

「夏川のこと」


 ふぅーっ、と大きく息を吐き出し、藤沢は言った。


「今がチャンス、なのかもなぁ」

「えっ?」

「弱ってる所に、つけこむ、ってやつ」


 意外だった。藤沢がそんな事を言うなんて。

 驚いて見つめる俺の視線の先で、藤沢はやっぱり顔を少し赤くして。


「なんだよ?」

「いや・・・・らしくないなって」

「俺だって、男だぞ?それくらいは、考えるさ。・・・・本気だからな、夏川のこと」

「そっか」


 やっぱり藤沢は、いい奴だ。

 つけこもうなんて、きっと、これっぽちも思っていないに違いない。

 たとえ告るとしたって、正攻法で行くだろう。

 藤沢は、そういう奴だ。


 ックシュンッ!


 少しずつ冷えてきた風に当たり過ぎたのか、藤沢が隣で盛大なくしゃみをひとつ。


「そろそろ、帰るか」

「だな」

「・・・・ありがとな、藤沢」


 ニッと白い歯を見せ、藤沢は何も言わず、ただ笑っただけだった。

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