62.勉強会
「なぁ。なんで夏川呼ばなかったんだ?」
分かりやすいくらいに残念そうな顔をして、藤沢が言う。
1学期の期末テスト対策の、勉強会 at 俺の家。
今回の先生ももちろん、スパルタ悠木先生だ。
「あぁ・・・・うん。まぁ、色々、な。」
夏川とは、あの告白の日以来、まともに顔を合わせていなかった。
廊下などですれ違いそうになると、お互いに進行方向を変え、すれ違う事さえ避けている。
俺は俺で、これからどうやって夏川と接すればいいか分からなかったし、多分それは夏川も同じなんだろう。
そんな状態で、勉強会に誘える訳なんて、無いじゃないか。
なんて。
藤沢に説明できる訳もなく。
「次の勉強会にはちゃんと誘えよ」
「・・・・あぁ」
適当に誤魔化すしかなかった。
一方、悠木は失踪事件以来、昼寝にはやはり誘いに来ないものの、俺の家には来るようになった。
最初俺は約束通り、悠木が家にいる間、なるべく家を空けるようにしていた。
そして、悠木が起きたら連絡を貰い、その後家に帰るようにしていたのだけど。
正直、面倒だった。
だって、悠木には俺が帰るまで家に居て貰わなくちゃいけないし、俺は何かの途中でも、すぐに帰らなくちゃいけないし。
だから、悠木には俺の家のスペアキーを渡すことにしたんだ。
寝て起きて、帰りたくなったら好きな時に帰れるように。
来たい時には一応事前に連絡は貰うけど、でも、俺がいなくたって、いつでも寝に来られるように。
スペアキーを渡したとき。
悠木は最初、ダサメガネ越しでも分かるくらいに、ビックリ目をして俺を見た。
そう。
気付けば悠木はまた、俺の前でダサメガネを外さなくなっていた。
ホッとする部分もありつつ・・・・どこか、拒絶されたような気にもなったけど。
仕方無い事なのかもしれない。
きっとそれは、悠木が俺の前で眠れなくなったのと、同じ理由なんだろう。
もしかしたら、無意識なのかもしれない。
で、スペアキーの話に戻るけど。
まぁ、そうなるよな。驚くのも、無理はない。
鍵を預けるなんて、これじゃまるで、恋人同志みたいだし。
でも、俺の説明に納得して、悠木はスペアキーを受け取ってくれた。
すごく安心したのと同時に、心の奥の方では、ものすごく喜んでいる自分が、確実にいた。
『みたい』でも、構わなかったんだ。
悠木が俺を信じてくれた事が、俺の提案を受け入れてくれた事が、俺には嬉しかった。
「しじょー」
「ん?」
「そこ。全然違う」
「えっ、マジ?!」
「さっきも、言った」
「・・・・すいません」
相変わらず、悠木先生は、学校の先生よりも遥かに厳しい。
「なぁ、瑠偉。これは・・・・」
「教科書。ここ、ちゃんと読め」
「・・・・はい」
「あーもうっ!わかんねーっ!」
「やる気無いなら、やめる」
「いやいや、違うって悠木!ちょっと叫びたくなっただけだっ。あるだろ?そんな時」
「ない」
「えっ」
「真面目にやれ」
「・・・・はい。すいません」
期末テストが終われば、夏休みはもう、すぐそこ。
・・・・今年の夏休みは、いったいどうなるんだろうな・・・・
きっと、夏川からの誘いは、無いだろう。
悠木は家に来るかもしれないけど、おそらく顔を合わせる事は、殆ど無いような気がする。
とすると。
バイト一色か?
ああ、せっかくだから、バイクで遠出してみるのも、悪くないな。
なんて、ほんの少し、夏休みへと思いを馳せたとたん。
「しじょー」
いつになく低い、スパルタ悠木先生の声。
「ん?」
「やめて、いいんだな」
ダサメガネの奥で、グレーの瞳が暗く燃えている。
・・・・相当に機嫌が悪い時の、悠木の瞳だ。
「すいませんっ、ごめんなさいっ、真面目にやりますっ!」
俺は慌てて、教科書とノートに向き合ったのだった。




