61.夏川の告白
「なによ、話したい事って」
悠木を病院に行かせた後、俺はすぐ夏川にメッセージを送り、昼休みに屋上へ呼び出した。
やってきた夏川は、なんだか怒ったような顔をしている。
いや。
怒ったフリをしている、と言ったところか。
訳がわからない。
でも、本当に怒っているのは、俺の方だ。
「お前さ」
言いかけて一度深呼吸して、自分を落ち着かせる。
少しでも、怒りを鎮めるために。
「なに、余計な事してくれてんだよ」
「は?余計な事?なにそれ」
俺の怒りには気付いていない様子で、夏川はキョトンとして俺を見た。
「あたし、あんたになんかした?」
「俺に、じゃねえよ。悠木にだよ」
「悠木に?」
「お前あいつに、俺のことどう思ってるかって、聞いただろ」
「えっ・・・・」
瞬間。
夏川は明らかに顔色を変えた。
「悠木から聞いたの?」
「違うよ。あの時俺、近くにいたんだ、昼寝でもしようと思って。別に盗み聞きしてた訳じゃないぞ。聞いたのは、偶然だ」
「そっか」
視線を落とし、夏川は俯く。
「なぁ、なんであいつにあんなこと聞いたんだよ?」
俯いたまま、夏川は黙ったままだ。
このまま、だんまりを通すつもりだろうか。
「なあっ、夏川っ」
顔を上げた夏川が、まっすぐに俺を見る。
怒ったような、泣き出しそうな顔で。
「だって、四条は絶対、悠木が好きだもん。見てればわかるもん。あたし・・・・あんたのことずっと、見て来たんだから。あんたが好きだからっ!」
へっ・・・・?
夏川?
思いもよらない夏川の告白に、俺は呆然として夏川を見ていた。
嘘だろ?こんな時に何の冗談だよ。
夏川が、俺を好きなんて。
「ねぇ、四条。あんたずっと、このままでいるつもりなの?」
「・・・・え?」
「あたし、前に聞いたよね。『悠木瑠偉が、好きなの?』って。あんたはあの時、あたしにこう答えたんだよ。『悠木と俺は、そんな関係ではない』って。好きじゃない、とは言わなかった。四条はさ、ほんとはあの時にはもう、悠木の事が好きだったんじゃない?あんた自身が気付いてたかどうかは分からないけど。あたしはあの時からもう、あんたは悠木の事が好きなんだって、思ってたよ」
そう。
あれは、大袈裟でもなんでもなく、俺が人生最大の衝撃を受けた日だ。
男だと思っていた悠木が、実は女だったと知った日。
俺はあの時までずっと、悠木が男だと思ってたんだぞ?
好きとか、そんな訳ねぇじゃん。
と。
何故か俺には言えなかった。
もしかしたら、そうなのかもしれない。
男とか女とか考える前に、俺は悠木の事が好きだったのかもしれない。
そうだとすると、それは。
悠木と初めて会って、あの、犯罪級に綺麗なグレーの瞳に出会った日から、ずっと。
でもじゃあ、俺にどうしろって言うんだよ?
悠木は俺に、自分を男だと思って欲しがっているんだぞ。
悠木がそんな事を望む理由なんて、たった一つだけじゃないか。
男としての俺を、女として拒絶するためだ。
そんな俺に、何ができる?
ただ、同性のダチとして、側にいることくらいしか、できないじゃないかっ!
「ねぇ、四条」
「なんだよ」
いつの間にか表情を和らげた夏川が、俺を見ていた。
でもその柔らかい表情は、どこか寂しそうにも見えた。
「悠木と付き合う気無いんだったら、あたしと付き合ってよ」
多分夏川は、断られることを分かっていて、そう言ったんだろう。
考える余地もなく、俺は夏川に頭を下げた。
「ごめん。お前とは付き合えない」
「・・・・うん。わかってる。言ってみただけ」
じゃあね、と言って、夏川は校舎へと戻って行く。
俺は。
夏川ってこんな小さかったっけと、そんなことを思いながら、ぼんやりと、去ってく夏川の背中を見送っていた。




