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60.悠木の失踪⑦

「なぁ、お前ずっと、寝てなかったんだろ」


 リクエストしたオムライスを食いながら、悠木は小さく頷く。

 朝からオムライスかよ。

 とは思ったものの。

 よっぽど腹が減っていたらしい。

 悠木はものすごい速さで、俺が作ったオムライスを平らげていく。


「昨日のこと、どこまで憶えてる?」

「・・・・仕事に向かったとこ、くらい」

「現場に着いたのは、憶えてないのか?」

「うん」

「じゃ、どうやって現場からここに来たかも、憶えてないか」

「うん」


 詳細は全く分からないながらも、おそらく悠木は相当な寝不足だったに違いない。

 意識も朦朧としていたんだろう。

 そんな状態で、事故に遭わなかっただけでも、奇跡だと思う。

 だって、一歩間違っていたら、悠木はもう、この世にはいなかったかもしれないんだ。


 改めて、俺はボサボサ頭でオムライスを食っている悠木の姿を見る事ができているこの状況に、感謝した。


 じいちゃんとばあちゃんが、守ってくれたのかな、悠木のこと。

 ちゃんと、ここまで無事に辿り着けるように。

 無意識で俺の家まで辿り着いていたってことは、やっぱりここは、悠木にとって唯一、安心して眠れる場所だってことなんだろう。

 ・・・・じゃあなんで、悠木はそんな状態になるまで、ここに来なかったんだ?


 オムライスはすっかり、悠木の腹におさまっている。

 俺は皿を片付けながら、悠木の顔を見ないようにして、さりげなく聞いてみた。


「なぁ、なんで昼寝行かなくなったんだ?なんで俺んちに寝に来なくなったんだ?」


 しばらく、悠木と俺の間には、沈黙の時間が流れた。

 耳に入る音は、食器がぶつかる音と、流れ出る水の音のみ。

 そうして、食器を片付け終わった頃。

 悠木が、言った。


「眠れないんだ」

「え?」

「しじょーが側にいると」


 俯いた悠木の顔からは、表情を読み取る事はできない。

 でも、俺には思い当たる理由があった。

 今まで俺の隣で爆睡していた悠木が、何故眠れなくなってしまったのか。


「そっか」


 だが、そうはいっても、このままじゃまた、同じ事が起こりかねない。

 悠木が安心して眠れる場所は、今はまだここだけなんだ。


「じゃ、さ。和室、使えよ。俺、お前が寝てる間は入らないようにするから。それなら、大丈夫だろ?」


 俺の言葉に、悠木が顔を上げた。

 いつの間にか掛けられていたダサメガネの奥で、綺麗なグレーの瞳が見開かれる。


「なんなら、お前がいる間、家から出てるし。ほら、バイトとか、買い物とか、さ」


 なぁ、頼むよ、悠木。

 俺、悠木にあんな危ない事、もうさせたくないんだよ。


 俺の必死の祈りが通じたのか。

 暫く揺れていた瞳をそっと伏せ、悠木は小さく頷いた。


 ひとまず胸をなで下ろし、俺は思い当たる理由の元凶へと思いを馳せる。


 さて、悠木の心配はこれで無くなったとして。

 ・・・・ったく、余計な事しやがって、あいつ。

 文句のひとつも、言わせて貰わなきゃな・・・・

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