59.悠木の失踪⑥
翌朝。
悠木はやっと目を覚ました。
「よう。良く眠れたか?」
寝ぼけ眼で布団の上に体を起こしていた悠木にそう声を掛けると、悠木はキョトンとした顔で、俺と真菜さんの顔を交互に見て、目をパチクリさせていた。
おい・・・・反則だぞ、それ。
思わず、苦笑してしまう。
ルイの姿のままでのその行動は、あまりにも可愛らしすぎた。
ルイのファンの女子が見たらきっと、悶絶ものだろう。
「ここ・・・・しじょーんち・・・・?」
「ああ」
「・・・・なんで?」
「俺が聞きたいわ」
小首を傾げ、悠木は困惑顔で俺を見る。
もうっ、それも反則だっ、悠木!
お前っ、いい加減にしろよ?
「ルイ、とりあえず、顔でも洗ってらっしゃい」
「うん」
悠木と俺のやりとりを、笑いを堪えて見ていた真菜さんが、ようやく助け舟を出してくれた。
悠木は真菜さんの言葉に素直に頷き、俺からタオルを受け取って、洗面所へ。
「もう、大丈夫そうね」
「みたいですね」
「じゃあ、私はそろそろ帰っても大丈夫かしら?」
「えっ・・・・」
「ごめんなさい、まだ仕事が残ってて。昨日穴空けちゃった分も、フォローしないと」
「・・・・ですよね」
一応、悠木の布団の隣にもう一組布団を敷いておいたのだが、真菜さんはどうやら一睡もせず悠木を見守っていたらしい。
俺も何度か起きては、悠木の様子を見に来てはいたのだが、真菜さんはずっと、悠木の側に座ったままだった。
そんな状態でも、仕事をしなければいけないんだろうか。
真菜さんにも、少しは休んでいって欲しいのに。
「ルイの仕事は、当分の間はセーブすることにするわ。念のために、病院に行くように言っておいてもらえる?」
そう言って、真菜さんは帰って行った。
入れ替わりのように、洗面所から、いつもの姿の悠木が和室へ戻ってきた。
「真菜さんは?」
「今、帰った」
「・・・・じゃ、オレも」
無表情のまま、悠木は俺の顔を見ようともせず、玄関へ向かおうとする。
なんだか、いつもと違う。
そう感じた俺は、とっさに悠木の腕を掴んだ。
「・・・・なに?」
振り返った悠木の不機嫌そうな顔の中、僅かに怯えが見えたような気がして、俺は慌てて掴んだ腕を離す。
「悪いっ」
初めてだった。
悠木の怯えた表情なんて。
やっぱりいつもと、何かが違う。
何かが、おかしい。
「なに?」
再度口にした悠木に、俺は言った。
「朝飯でも、食っていかないか?」
グゥ。
ドンピシャのタイミングで、悠木の腹が鳴る。
思わず吹き出した俺の前で、悠木は顔を赤くしながら、小さく頷いた。




