58.悠木の失踪⑤
「ねえ、四条くん。今だから言うけど」
眠り続けている悠木の側で悠木を見守りながら、真菜さんが言った。
「なんですか?」
「四条くんが、臨時モデルやってくれた時、ね。相手役のモデルが急病だ、って言ったと思うんだけど。あれ、実はウソなのよ」
「・・・・はぁ?」
なにそれ。
つーか、何で今そんな話?!
訳が分からず、呆けた声を漏らしながら真菜さんを見る-真菜さんは、本当に愛おしそうな目で、悠木を見つめていた。
「あれ、BL特集だったでしょう。しかも、ルイをメインに組まれた特集だったの。でもルイは、男と絡むのなんて絶対にイヤだって、頑として受け入れなかったの。困ったわ。断る訳にもいかなかったから。でもね、ルイが突然、自分で相手を選んでいいならやる、って言い出したの。で、連れてきたのが、キミだったって訳」
その時の事でも思い出したのだろうか。
真菜さんは、可笑しそうに笑った。
「私ね、てっきりルイが彼氏でも連れてきたと思ったのよ。だって、絶対イヤだってあれ程ゴネてたルイが、急にやる気になってくれたんだもの。そう思うのが普通でしょ?でも、なんだか様子がおかしいなと思って。キミはルイのこと男だと思ってるみたいだったし。ルイも、キミには自分を男だと思っていて欲しそうだったし。もう、訳がわからなかったわ。とりあえず、『ルイとして、仕事しなさいね』としか、あの時の私には言えなかった。今ならなんとなく分かるんだけどね、ルイの気持ち」
最初は笑っていた真菜さんの顔が、次第に切なさを増していく。
「ほんと、複雑よねぇ。もっと素直に、なれればいいのに」
ルイの-悠木の気持ちが分かると。
真菜さんは言った。
聞いてみようか、悠木の気持ち。
そうも思ったが。
俺はそのまま、黙っていた。
これは、真菜さんから聞くような事じゃない。
聞くなら、悠木本人からだろう。
そして今の俺には・・・・まだ、悠木の気持ちを聞く覚悟が、できていない。
「色々ありがとね、四条くん」
「いえ」
「これからも、ルイをよろしくね」
俺は黙ったまま、頷いた。




