49.バイク
二年初日の帰り。
「しじょー」
悠木が早速俺を誘いにきた。
・・・・わかってる。
俺を誘っている訳ではないことくらい。
悠木の目当ては、俺の【家】だ。
こんなのいつもの事なのに、胸がチクリと痛んでしまう。
この痛みに俺は、いつまで無視を続けられるだろうか。
バレンタインのあの日に、ぼんやりと自覚してしまった、悠木への想い。
俺はいつまで、自分と悠木に、嘘をつき続けられるだろうか。
・・・・いつまで、騙し続けられるだろうか。
「なんだ、今日も寝不足か?」
見れば、ダサメガネの奥の悠木の目はトロンとしていて、今にも眠ってしまいそうだ。
「うん。眠い」
「俺んちまでは、耐えろよ?いいか?歩きながら、寝るなよ?」
「・・・・うん」
急いで帰り支度をし、2人で学校から家までの道を歩く。
ともすれば立ち止まってしまいそうになる悠木の頭を軽くペシペシ叩きながら、俺達はやっと家に着いた。
「悠木、腹減ってないか?」
鍵を開けながらそう聞いたが、返事が無い。
見れば、さっきまで居たはずの隣に、悠木の姿が無かった。
あれ?
あいつ、どこ行った?
玄関から離れ、辺りを見回すと。
悠木は、駐車スペースの前に、ぼんやりとした顔で立っていた。
「なんだよ、どうしたんだよ?」
「これ」
悠木が指し示したのは、つい最近俺が購入した、中古のバイク。
・・・・バイトで貯めた金だけじゃどうしても足りなくて、コッソリかーちゃんに援助してもらって。
「あぁ、やっとバイクの免許取れたんだ。ずっと欲しくてな。で、中古だけど買ったんだよ」
二年への進級確定後、俺は教習所に通ってバイクの免許を取得していた。
普通二輪の免許。
うちの学校は、結構自由だ。
制服も無ければ、校則も緩い。
バイク通学も、特に禁止はされていない。
まぁ、今のところ、通学に使う予定は無いけど。
「乗りたい」
バイクを見ながら、悠木がボソリと呟く。
「え?お前、免許持ってるの?」
俺の問いに、悠木は首を横に振る。
だよなぁ。
モデルの仕事以外は真面目に学校に来ていて、時間があればうちで寝ている悠木に、教習所に通っている時間なんて、無いはずだ。
「じゃ、乗れねえじゃん」
「後ろ」
ポンポンと、バイクの後部座席を軽く叩きながら、悠木はダサメガネ越しに俺を見た。
風のいたずらか、一瞬強く吹いた風が、悠木のボサボサな前髪を吹き上げ、ダサメガネ越しでも綺麗なグレーの瞳が露わになった。
胸の奥が、キュッと掴まれるような感覚。
後ろ、って!
それ、女が軽々しく男に言っちゃダメなやつっ!
まぁ、悠木は『男友達』として俺に言っているんだろうけど。
一瞬詰まった俺に、悠木は小首を傾げる。
俺は、慌てて言った。
「あー、免許取ってから一年経たないと乗せられないんだ、後ろには。だから、来年な」
「うん」
悠木は小さく笑って頷く。
何やらすごく嬉しそうな顔に、俺には見えた。




