40.クリスマス・イブ②
夜の9時過ぎ。
悠木が俺の家に来た。
モデル姿のままのカッコで。手に大きな袋を持って。
「ちょっ・・・・どうした悠木?なんかあったのか?」
「なかなか、終わらなくて。パーティ」
「パーティ?」
「うん。事務所の、クリスマスパーティ」
走って来たのか、セットされた髪が乱れて一筋額にかかり、モデル・ルイのイケメン具合をさらに増幅させている。
久し振りに見るグレーの瞳は、どう考えてみても綺麗でしかなく、思わず惹きこまれそうになる自分を押しとどめるのに、苦労してしまう。
とりあえず、と、まず和室の仏壇に手を合わせる悠木の為に、俺は玄米茶を入れて部屋へと運ぶ。
玄米茶に含まれるカフェインは、コーヒーや紅茶、緑茶よりもずっと少ない。
そう聞いたから。
悠木が少しでも眠りやすくなるように。
玄米茶は、今やこの家では悠木専用のお茶だ。
「これ」
和室から俺の部屋に来ると、悠木は頭をクシャクシャと崩しながら、手にしていた大きな袋を俺に押し付けてきた。
「なんだよ」
「ビンゴの景品」
「えっ?」
「寮、狭いから。置けない」
ダサメガネをかけていつもの姿に戻り、悠木はいつもの場所に座って、おいしそうに玄米茶を啜っている。
「開けるぞ?」
「うん」
袋を開けると、中から出てきたのは・・・・
「え?」
「みんなが、彼女にでもあげろ、って」
「彼女、ねぇ・・・・」
俺、お前の彼女じゃねぇけど。
可愛らしいクマのヌイグルミに、俺は苦笑を漏らしてしまう。
そのとぼけた顔のクマが、なんだか悠木に見えてしまって。
「あと、これ」
「え?」
「事務所からの、プレゼント」
そう言って悠木が俺に渡したのは。
「って、えーっ!お前これっ、メッチャ高いやつっ!いいのかよ、こんなのっ!」
「うん。オレ、着ないから」
高級ブランドとしてその名を全世界に轟かせている、某ブランドのニット。
俺なんか、何年かかったって、おそらく社会人になったって、そう易々と手を出せるようなもんじゃないそのニットを、悠木は何の興味も無い様子で、俺にくれると言う。
「クリスマスプレゼントで、好きな服くれるって、言われてたんだ。だから、しじょーに似合いそうなの、選んだ。・・・・迷惑だったか?」
「悠木・・・・」
ダサメガネを玄米茶の湯気で真っ白に曇らせて、悠木は困ったような顔を浮かべて、俺を見ている。
そんな顔するなよ、悠木。
困ってるのは、俺の方だぞ。
こんなことされたら、俺・・・・
俺、お前の事・・・・
「いや。サンキュ」
「うん」
ホッとしたように笑い、悠木はまた玄米茶を啜る。
「じゃ、せっかくだから、着てみるか」
なんだかまともに悠木を見る事ができず、俺はその場でニットを広げ、袖を通してみた。
さすがに高級ブランドのニット。
いつも俺が着ているニットとは、着心地が雲泥の差だ。
「どうだ、似合うか?」
振り返ると。
悠木は既に、マイ枕に頭を乗せ、眠っていた。
「お前なぁ・・・・」
俺は眠る悠木に近づいた。
悠木が目を覚ます気配は、無い。
「ごめん・・・・俺、お前になんのプレゼントも用意してねぇわ」
ふいに沸き起こった、クシャクシャにされた悠木の髪に触れたい衝動をグッと堪え、小さな声で呟く。
「来年、な。来年は絶対、用意しとくから」
時計を見れば、あと15分くらいは寮の門限までに余裕がある時間。
俺は悠木の体にそっと毛布を掛け、ぐっすりと寝入っている悠木の寝顔を眺めていた。




