38.思わぬ訪問者③
いただきます、と手を合わせ、悠木は目の前に出された煮物を口にいれた。
一体なにがどうなってこうなったのか、もはや俺には分からないが、今俺は、かーちゃんと悠木と3人で、俺の家(正確には、俺のかーちゃんの実家)のリビングで、一緒に昼飯を食っている。
煮物を口に入れた悠木は、ダサメガネの奥の瞳を目いっぱい開いて、かーちゃんを見た。
そして、驚いたことに。
悠木の目にはみるみる内に涙が溜まり始め、すぐに溢れて流れ落ちた。
「おばあちゃんの味・・・・おいしい」
「瑠偉ちゃん・・・・」
かーちゃんが悠木に近寄り、ハンカチでそっと涙を拭いてやっている。
「おいしい、です。とても」
「そう。よかった」
涙を流し、黙々と食べ続ける悠木の顔からダサメガネを外すと、かーちゃんはまた、流れる落ちる涙を拭いてやっていた。
見ると、かーちゃんも鼻の頭を赤くしている。
なんだか二人の間に入り込む余地は無いように思えて。
俺も黙って、かーちゃんの煮物を口に入れた。
うん。
確かに、ばあちゃんの味と一緒だ。
当たり前か。
かーちゃんは、ばあちゃんの娘なんだから。
悠木はきっと、何度もここで、ばあちゃんの作るメシを食ってたんだな。
だからこれは、悠木にとっても、思い出の味なんだ。
悠木は本当に、俺のばあちゃんの事が、大好きだったんだな。
そう思うと、なんだか本当に、隣で黙々と食っている悠木が、愛おしく思えてくる。
・・・・ん?
愛おしい?
いや。違う。そーゆーんじゃない。
そーゆーんじゃないけど・・・・なんだろう、コレ。
そうそう。
なんか、かーちゃんと悠木が本当に親子みたいに見えてきて・・・・
・・・・んっ?
ってことは?!
『瑠偉ちゃんみたいないい子が、夏希の嫁になってくれればいいねぇって、話してたのよ』
「いやっ!無い無いっ!」
ブンブンと、大きく頭を振り、つい、口から言葉が漏れ出てしまった俺は。
「突然、何?どうかしたの、夏希?」
気付くと、悠木からもかーちゃんからも、不審極まりない目で見られていたのだった。
「瑠偉ちゃん、今日はありがとう。不肖の息子が邪魔かもしれないけど、またいつでも来てね。父と母も、瑠偉ちゃんのこと待ってると思うから」
「はい。ありがとうございます」
いつになく礼儀正しく頭をさげ、悠木は玄関へと向かう。
今日、悠木はここに来てから、まだ1秒も寝ていない。
本当はこいつ、今日、仕事の時間まで寝て行くつもりだったんじゃないだろうか。
「なぁ、悠木」
玄関先で靴を履く悠木に、俺はかーちゃんには聞こえないくらいの声の声を掛ける。
「お前、大丈夫か?眠たくないか?」
返って来た答えは、予想外のもの。
「もう、寝た」
「えぇっ?!」
思わず声が大きくなり、慌てて口を押さえて、俺は悠木に聞いた。
「いつ?」
「しじょーのおじいちゃんとおばあちゃんにお参りした後」
「・・・・なるほど」
確かに。
今日はまた随分長くお参りしているな、とは思ってた。
命日だからかと思ったけど・・・・まさかあの場で、寝ていたとは。
さすが悠木。侮れん。
「もう、行く」
「あ、あぁ。じゃまたな」
「うん」
玄関から出て歩き出した悠木に、俺は言った。
「あっち帰る時は連絡する。それ以外なら俺、ここに居るから。いつでも来いよ」
チラリと振り返ると、悠木は小さく頷き、そのまま出て行く。
でも、頷いた時の悠木の顔は、なんだか嬉しそうな顔をしていたように、俺には思えた。




