36.思わぬ訪問者①
悠木のスパルタ課外授業のお陰か。
藤沢、夏川、俺の3人は、ギリギリながら、全教科で見事赤点を逃れ、補講対象から外れることとなったのだった。
すげーよ、悠木。
モデルより、教師になった方がいいんじゃないか?
・・・・ちょっと、スパルタ過ぎるけど。
そして、迎えた2学期の終業式の日。
「しじょー」
HRを終えた悠木が、俺のクラスへやって来た。
「なんだ?」
「今日、ちょっとだけ、行っていいか?」
「あぁ、いいけど」
じゃ、あとで。
そう言って、悠木はまた戻っていく。
家に来るなら、一緒に帰ればいいのに。いつもみたいに。
そう思ったが、まぁいっかと、俺はそのまま一人で家に帰った。
「・・・・んっ?」
帰ると玄関に、俺のではない靴があった。
女ものの、パンプス。
でもこれって、確か・・・・
玄関で立ち尽くしていると。
奥から顔を覗かせたのは。
「あら、お帰り、夏希。」
かーちゃんだった。
「えっ!なんだよ、かーちゃん。来るなら連絡しろよ!」
「いいじゃない別に。ここ、私の実家よ?いつ帰って来たって、私の勝手でしょ。」
「そりゃそうだけど・・・・」
「それに」
和室の方に顔を向け、かーちゃんは少し、寂しそうな顔をした。
「今日は、お父さんとお母さん、夏希のおじいちゃんとおばあちゃんの命日だから」
「あ・・・・そっか。今日、だっけ」
今俺が住んでいるこの家は、元々俺のじいちゃんとばあちゃんの家で。
かーちゃんの両親の家、つまり、かーちゃんの実家だ。
俺も小学校低学年の頃まではこの近所に住んでいて、夏休みとか冬休みなんかには、1人でよくこの家に泊まりに来ていた。
俺は本当に、じいちゃんとばあちゃんが大好きだった。
引っ越してからは、ここに遊びに来ることは少なくなっていたけど、でもいつまでも元気でいてくれると思ったのに。
俺が中学の時。
じいちゃんとばあちゃんは、同じ日にこの家で亡くなった。
少し前まで元気だったのに。
2人とも、少しずつ心臓が弱くなっていたらしい。
医者の見立てでは、まずじいちゃんが先に亡くなって、あとを追うように、ばあちゃんも亡くなったんだとか。
仲がいい2人だったから、きっと仲良く一緒に逝ったんだね、なんて周りの人達は言ってたけど。
せめて俺が高校に上がるまでは元気でいて欲しかった。
そうしたら、最期は、俺が看取れたかもしれないのに。
「ねぇ、夏希。年末年始くらいは、帰って来るんでしょ?」
「あ~・・・・俺、バイト入ってるからなぁ」
「えぇ?!あんた、帰ってこないつもりなの?」
「ん~・・・・まぁ、考えとくよ」
「考えるって、もうすぐじゃない」
「うん・・・・」
リビングで話していると、キッチンから何やらいい匂いが漂ってきた。
「かーちゃん、何か作ってる?」
「うん。どうせあんた、ロクなもの食べてないと思って。偶には食べたいでしょ、かーちゃんの手料理」
「・・・・まぁ、な」
なんだろうな、この匂いは。
煮物か?
煮魚か?
どっちにしろ、俺には絶対に作れないヤツだ。
いい具合に、腹も減って来た。
早く食いたいと昼飯に思いを馳せていると、玄関のチャイムが鳴った。
「俺、出るよ」
急いで玄関まで走り、ドアを開ける。
と。
仏花を手にした悠木が、そこに立っていた。




