32.勉強会①
「しじょー」
「ん?」
昼休み。
教室へ戻る途中の廊下。
もうだいぶ寒くなって来てはいたけれど、俺は絶好の昼寝場所を見つけていた。
それは、図書室。
うちの学校の図書室は結構デカくて、奥の方の席まで行くと、書棚には先生たちが使うような専門書ばかりが並んでいるためか、生徒は滅多にやってこない。
図書室で怒られるのは、でかい声で喋っている奴か、騒いでいる奴のどちらかだ。
大人しく寝ている俺らが怒られる可能性は、断然低い。
一応、読むつもりもない本を手に席に着いているし、もし見つかったとしても、そこは多めに見て貰えるだろう。
「今日、暇?」
悠木はダサメガネ越しに俺を見ている。
最近、悠木のあの綺麗なグレーの瞳、見てないな。
そんな事を思いながら、俺は答えた。
「ああ、今日はバイトも無いからな。悠木は仕事無いのか?」
「うん」
悠木の仕事、モデルのルイは、【ザ・夏!】の類の仕事は控えているらしい。
まぁ、当然と言えば当然だろう。
夏は薄着になるし、モデルによっちゃ、半裸もある。
ルイは半裸になる訳にはいかないし、薄着も結構キツイだろうし。
だってルイは、悠木なのだから。
それでも、藤沢によると、悠木は結構体を鍛えているらしい。特に、腕。
半袖なんかを着た場合に見える、うっすらと筋肉の線の浮き出た腕が、結構女子受けするとのことで。
言われてみれば、このあいだルイが出ている雑誌を見ていた夏川も、うっとりした目で言っていたっけ。
『この腕の線がいいのよねぇ・・・・マッチョな訳じゃないけど、男!って感じがしてっ!』
まぁ、俺もそれくらいの筋肉はついてるけどな、一応。
とは、言わないでおいたけど。
まぁ、そんな訳で。
夏に控えていた仕事を取り戻すように、最近の悠木はモデルの仕事に明け暮れていた。
学校を早退することも度々あるようで、学校帰りにうちに寄る事も、少なくなっていた。
「じゃ、帰りにうち寄るか?」
だから、てっきりうちに寝に来るのかと思いきや。
「勉強」
「へっ?!」
「試験、一週間後から。成績によっては、補講もあるらしい」
「げっ・・・・マジっ?!」
補講の話なんて、うちの担任してなかったぞっ!
でも、あってもおかしくは無いか。夏もあったんだから・・・・
冷や汗が出る思いの俺とは対照的に、悠木は涼しい顔で言う。
「オレ、教える」
「えっ?」
「圭人も呼んでいいか?」
「あ、あぁ。もちろん」
じゃ、と言って、悠木はそのまま自分のクラスに戻っていった。
俺は、悠木の意外な申し出に、ただただ驚いていた。
あまり、人の成績には感心が無い奴だと思っていたけど、さすがに見ていられないと思ったのだろうか。
1学期の成績が見事に真っ赤だった俺は、当然のように、2学期の成績も同じ末路を辿ろうとしていた。
このままでは、補講は確実だ。
確かに、悠木が寝ている時に、冗談で
『どうせなんもしないなら、勉強くらい教えてくれよ』
と言った事があるような気もするけど、まさか本当に教えてくれるとは。
でも、藤沢も、って言ってたな。
ってことは、アイツも成績、ヤバイのか?
まぁ、アイツの場合、勉強より部活バカって感じだしな。
あれ?なんだっけ?
野球じゃなくて、サッカーじゃなくて・・・・
ま、なんでもいいけど。
でも、せっかく悠木が勉強教えてくれる気になったんだ。
この際だから、しっかり勉強して、2学期の成績こそは・・・・!
と意気込んでいる俺の背中に、久し振りの衝撃が打ち下ろされた。
「っっってええぇぇぇっ!」
「よっ、四条!今日、暇?暇だよね?バイト無いし!」
振り返るまでもなく。
俺の後ろには、俺とほとんど成績の変わらない、夏川が立っていた。




