31.噂③
「ごめんな、悠木」
「・・・・え?」
怪訝そうに首を傾げる悠木に、俺は言った。
「お前のせいじゃないんだ。変に気を使わせちまったな。一言、最初に言っておくべきだった」
「何を?」
「噂だ、噂。最近、俺達の噂が流れてるのは、知ってるだろ?」
「・・・・噂?」
・・・・もしかして、コイツ・・・・
冷や汗が出る思いで、悠木を見る。
悠木は、全く心当たりが無いとでも言わんばかりに、不思議そうに俺を見ている。
「お前・・・・知らないの?」
「うん」
「全然?」
「うん」
「全く?」
「うん」
・・・・鈍感、というか何というか・・・・
一気に力が抜けて、俺はその場にしゃがみこんだ。
「しじょー?大丈夫か?」
「大丈夫じゃねぇよ・・・・まったく・・・・」
「えっ?」
「お前のせいだぞ?ほんとに、も~・・・・」
恨みがましい目で悠木を見上げると。
「ごめん」
困り切った顔で、悠木は俺に謝った。
「・・・・て訳だ。だから俺は、その噂が落ち着くまで、しばらくお前と一緒にいるのはやめようと・・・・って、おいっ、悠木!聞いてるのかっ?!」
「・・・・うん。」
久々に、俺の部屋で、俺のあげた枕に頭を乗せて微睡む悠木の頭を、俺は思わずペシッとはたく。
「いて」
「せめてこの話が終わるまでは、寝るなっ!」
「聞いてる」
「嘘つけっ、お前今、寝てただろっ?!」
「・・・・。・・・・聞いてる」
「おまっ、またっ!」
もう一度、頭をはたいてやろうと手を上げたが。
既に寝に入っている悠木の顔に、俺は上げた手を下ろした。
悠木がこの家に来るのは、久し振りだ。
昼休みの昼寝だって、ずっとしていなかった。
藤沢曰く、悠木が熟睡できるのは、【本当に安心していられる場所だけ】らしいし、悠木は事務所の寮ではよく眠れないと言っていたし。
ということは。
きっと今、こいつはかなりの、睡眠不足に陥っているだろう。
眠たくて、当然かもしれない。
時計を見れば、悠木の寮の門限までは、まだかなりの時間がある。
それまでは、こいつを寝かせておいてやろう。
悠木の寝顔を見ながら、俺はいつのまにか、悠木と離れていた間の欝々とした気分が晴れている事に気付いた。
そして、思った。
噂は、噂だ。
悠木が気にしていないなら、俺も気にする必要、無いか。




