25.悠木の過去③
「でも、四条のじーさんとばーさんが亡くなってからは、もう瑠偉が安心して眠れる場所が無くなっちまったみたいでな。万年、寝不足みたいだった。あいつ、眠くなったらどこでもすぐ寝るだろ?驚かなかったか?」
藤沢が、苦笑いを浮かべて俺を見る。
ああ、悠木は藤沢といても、眠くなったらどこでも寝ていたのかと。
そう思うと、何故だか少しだけ、胸がチクリと痛んだが。
「驚くに決まってるだろ。下手したらあいつ、そこら辺の公園ででも寝てるぞ」
「うん。人目があるとこの方が、安心できるんだってさ。とは言え、うたた寝程度ですぐ起きるけどな」
「えっ」
「ん?」
悠木が?
すぐ、起きるだと?
ウソだろ?
「あいつ、一度寝たら全然起きないぞ?」
「えぇっ?」
しばし、藤沢と俺は黙ったまま見つめ合った。
藤沢の知っている悠木と、俺の知っている悠木は、違うのだろうか?
どういうことだ?
と一言呟き、藤沢は視線を落として腕組みをしている。
また何やら考え込んでいるようだ。
仕方なく俺は、いつの間にか空になっていた藤沢と俺のコップに、ペットボトルのお茶を注ぎ入れた。
「悠木がすぐ寝る理由は分かったけど、あいつがあんなカッコしている理由は、なんだ?」
何をそんなに考え込んでいるのだか。
いつまでたっても顔を上げない藤沢に、俺は我慢が出来なくなって先を促した。
「あ、あぁ。きっかけは、お前のばーさんだ」
「はっ?」
俺の、ばあちゃん?
「瑠偉がここでなんか食ってた時にな、食ってたもんをこぼして服を汚しちまったんだよ。で、ちょうど同じ年頃の孫がいるからって、四条のばーさんがここに置いてあった孫の服を瑠偉に着せてくれたんだ。孫って、お前だろ?当然、男の子の服だよな?少し大きかったみたいだけど、それがなんだかメチャクチャ似合っててなぁ、瑠偉に。ちょうど瑠偉を迎えに来た俺も、見たんだよ、そのカッコ。あいつ、変質者に連れて行かれそうになったすぐ後に、長かった髪の毛も短く切っていたから、どこから見ても、小学生男子にしか見えなくてな。瑠偉もきっと、そう思ったんだろうな。それからだよ、あいつが男のカッコばっかりするようになったの。きっと、男のカッコしてれば、もうおかしな奴に狙われる事も無いって、思ったんだろうな」
ああ、だから、俺のばあちゃん、か。
納得はしつつも、そんな方向にしか考えられなかった小さい悠木の事を思うと、どうしても胸が痛む。
女の子が可愛くて、何が悪い。
女の子が、可愛くいるだけで怖い目に合うような世の中なんて、おかしすぎるじゃないか!




