21.ウソだろ?!
「四条、ちょっと、いい?」
帰り際。
夏川が廊下で俺を待っていた。
そのこと自体は取り立てて驚く事でも無かったけど、いつもとなんだか違う様子が気になった。
しかも、「ちょっと、いい?」なんてセリフが、こいつの口から出て来るとは。
そんなこと、こいつに聞かれたことなんて、今まで一度も無いんじゃなかろうか。
いつだって、こっちの予定なんてお構いなしに、グイグイ誘ってくるクセに。
「ああ。なんだ?」
「うん、ちょっと・・・・」
どうやら、あまり他の人には聞かれたくない話らしい。
仕方なく、階段の影、あまり人が通らない場所に移動する。
「なんだよ」
「あの、さ」
いつでもズケズケとモノを言う夏川にしては、珍しく躊躇っていた。
俺の反応を確認しながら、といったところか。
「だから、なんだよ」
「四条は、さ」
彷徨っていた夏川の視線が、ピタリと俺の目で止まる。
と同時に、夏川は言った。
「悠木瑠偉が、好きなの?」
「はぁっ?」
思わず、呆けた声を上げてしまった。
何をバカな事を。
どうした、夏川。
お前らしくもない。
あぁでもコイツ、あの雑誌の『BL特集』とやらを、熱心に眺めていたっけ。
でもだからって、俺までお前の嗜好に巻き込むな。
俺は『BL』とやらに、興味は無い。
「お前、何考えてんだ?悠木も俺も、至ってノーマルだぞ?おかしな目で見てんじゃねえよ」
「・・・・あんたの女好きは知ってるけど」
「だったら、バカなこと聞くな」
アホらしくなって、その場を去ろうとした俺の腕が、夏川に掴まれる。
「なんだよ、まだ何かあるのか?」
「ねぇ、四条。さっきから何言ってんの?私の質問にちゃんと答えてよ」
「答えてるだろ。悠木も俺もノーマルだって」
「だから、聞いてんじゃん」
「は?」
「悠木瑠偉は、あんたの好きな【女】でしょ」
しばらくの間、俺と夏川は見つめ合っていた。
俺は夏川の言葉に思考が停止していたし、夏川は俺の答えを待っていたし。
まぁ、端から見れば、ラブラブな2人が見つめ合っているように見えたかもしれない。
実態は、全く違うけれども。
「お前、何言ってんだ?悠木は、男だろ?」
「はぁっ?悠木瑠偉は、女だよ。あんたこそ、何言ってんの?」
悠木が、女?
まさか。
やだな、夏川。
そこまでして、俺と悠木をくっつけたいのかよ。
だって、悠木がスカート履いてる所なんて、俺、見た事ないぞ?
それにあいつ、一人称【オレ】だし。
まったく、何の冗談だよ。
そう言おうとしたけど、夏川の顔は、とても冗談を言っているようには見えない。
ウソだろ?
まさかこいつ、俺を騙そうとしているのか?
俺を、ドッキリにでもハメようとしているのか?
「ねぇ、四条。あんたまさか、本気で悠木瑠偉が男だと思ってた訳じゃ、ないよね?」
真顔で詰め寄る夏川に、混乱のあまり恐怖までおぼえて。
俺は夏川の手を振りほどいて、その場から逃げた。
ウソ、だよな。
悠木が女なんて。
嘘だ。嘘に決まっている。
そう自分に言い聞かせながら、教室に戻って鞄を手に、再び教室を出たところで、今度は悠木と出くわした。
「しじょー」
いつものように無表情で、ダサメガネ越しに俺を見る悠木。
こいつが・・・・女っ?!
「どうした?」
確かに。
言われてみれば、男にしては高い声かもしれないけど。
でも、これくらいの声の男なんて、他にもいくらでもいる。
でも・・・・
何故だか唐突に、ルイとのキスがフラッシュバックして。
ルイと悠木が重なって見えて。
『ルイは至ってノーマルだから』
『ルイはノーマルだからできるのよ』
真菜さんの、ルイのマネージャーの言葉がふいに思い出されて。
真菜さん、もしかして、悠木が女だって、知ってたってことか?!
だったら、なんで悠木に男のカッコなんてさせて、モデルなんかやらせてんだよっ?!
「しじょー?」
「ごめんっ!」
もう、何がなんだか分からなくなり、俺は悠木のことも振り切って、校舎から走り出した。




