15.ビジネスキス
逆?
逆とは?
疲れもあったし、言われている意味もよく分からないし。
ポカンとしている俺の腕が悠木の強い力に引っ張られ、気付けば俺は、悠木にのしかかられているような体勢になっていた。
「ちょっ・・・・」
「動くな」
仰向けになった俺の体の横に両腕をつき、微動だにせずに、悠木は囁く。
元々色白の肌はほんのりと色づいていて、何やら妙に色っぽい。
そのうえ。
あの、犯罪級に綺麗なグレーの瞳は、これで落ちない女がいたら教えて欲しいと思うほどの色気を秘めて、至近距離で俺を真っ直ぐ見つめている。
『そうそう、いいよ。そのまま近づいて』
離れた場所から、誰かの声がする。
悠木の瞳に魅入られてしまったかのように、俺の頭は思考を停止してしまったらしい。
気付けば。
僅かに伏せられた悠木の瞳は俺のすぐ目の前にあって。
俺の口は悠木の口で、完全に塞がれていた。
「しじょー」
「・・・・」
「怒ってるのか?」
「・・・・別に」
帰りは、真菜さんに俺の家まで車で送ってもらった。
予想外の臨時収入も手に入れた。
そしてなぜか、悠木まで俺の家の前で車を降りた。
そして、そのまま今、俺の部屋の中にいる。
今の悠木はあのイケメンモデルのルイではなく、いつもの悠木だ。
その悠木が、ダサメガネ越しに、俺の様子を窺うように、叱られた子供のように、上目遣いで俺を見ている。
「ほんとか?」
「あぁ」
本当に、別に俺は怒っている訳ではなかった。
ただ。
あんな事のあとに、どんな顔をして悠木を見ればいいのか、分からなかっただけだ。
「良かった」
硬い表情をしていた悠木が、やっと微かな笑みを浮かべる。
ここにいるのは、いつもの悠木だ。
ルイではない。
そう割り切ると、不思議と落ち着いた。
きっと俺は夢を見ていたんだ。
そう思えばいい。
「大変な仕事だな」
「まぁ」
悠木の前にインスタントコーヒーの入ったカップを置き、テーブルを挟んで悠木の前に座る。
両手でカップを持つ悠木のダサメガネが湯気で真っ白になるのを見て、俺はなんだかおかしくなって笑った。
こいつは、悠木だ。
間違いなく、いつもの悠木だ。
「しじょー?」
「あぁ、ごめん」
誰も知らないだろうな、ルイのこんな姿なんて。
でも俺は、ルイよりも悠木の方がいい。
・・・・藤沢が言っていた事も、あながち間違いじゃないのかもしれない。
なんだか癪に障るけど。
「頑張れよ」
ダサメガネを真っ白にしたまま、悠木が小首を傾げる。
その姿がやっぱりなんとも滑稽で。
俺はしばらくの間、腹を抱えて笑っていた。




