131.愛しの眠り・・・・姫?!
そうなのだ。
実は悠木は、俺が告白をしたあの夏から、何故か寮でも夜にしっかり眠れるようになったらしい。
だから本当は、学校での昼寝も、俺の家での昼寝も、必要は無くなっていたというのだ。
それでも学校で、俺の家で、昼寝を続けていたのは、どうやら俺と一緒にいたかったから、とのこと。
そしてこっそり。
たまに一緒に寝てしまっていた俺の寝顔を眺めていた、というのだから、なんていう奴なんだろうか、まったく。
もっとも、悠木が言うには、夜にちゃんと寝ても、俺と一緒にいると何故か眠たくなるとのことだが。
・・・・パブロフの条件反射じゃあるまいし。
俺は別に、お前の睡眠薬じゃねぇぞ?
「だから今度は、眠り王子を、姫が起こす番」
「なんだそりゃ。聞いた事無いぞ、そんな話」
「うん」
「いや、『うん』、じゃなくてっ!」
悠木は意外と頑固で、言い出したら聞かない所がある。
そしてまた、もうひとつ意外な事に。
・・・・実は結構、積極的、なのかもしれない。
これはとても、嬉しい誤算だ。
俺にとっては。
「ずいぶん積極的なお姫様だな」
「まぁ、ね」
思い切って下から腕を伸ばして腰を引き寄せても、さほど抵抗は無く。
俺の胸に体を預けた状態で、悠木は囁くように呟いた。
「『襲い受け』なら、撮影で経験済みだから」
「・・・・なるほど」
知ってるよ、そんなこと。
ああ、知ってるさ。
その相手が、俺だ、ってことも、な。
「もしかしたら、私」
「ん?」
「あの時から、好きだったのかも」
「なにが?」
「しじょーが」
「・・・・かもな?」
「少しは、否定しろ」
「ごめん、無理」
隙あり!とばかりに、悠木を抱いたままもう一度横回転し、俺は初めて自分から悠木にキスをした。
悠木からばかりじゃ、俺の気持ちがおさまらない。
キスしたいと思っているのは、俺だって同じだから。
「好きだ、悠木」
「うん」
なんとなく、いい雰囲気。
よし、今日こそは!
と。
ソロソロと悠木のパーカーの裾から手を差し込もうとした時。
「なんか、眠い・・・・」
「・・・・えぇっ!」」
「今日バイト、忙しくて・・・・」
見れば、悠木の目は今にも寝てしまいそうなくらいに、トロンとしていて。
嘘だろっ!
ついさっきまで、あんなに元気に起きてたのにっ!
くうっ・・・・しかたねぇっ!
気を取りなおすと、俺はそのまま悠木の体を抱き上げ、ベッドへと運んだ。
運んでいる途中で既に、悠木は寝入ってしまっている。
そう。
悠木は、実は積極的、なのかもしれないのだが。
いかんせん、いつもいい感じの時に、眠くなって寝てしまうのだ。
まさか、眠っている悠木をどうこうする訳にもいかず。
だから未だに俺達は、清い関係のまま。
どーすりゃいいんだよ、これ。
まさか、眠り姫の魔女の呪い、とか言わねぇよな?
もしかしたら。
眠り姫の親父さんの呪い、なのかもっ?!
なんて、な。
「なぁ、ゆうき~。眠り姫は、王子様のキスで目を覚ますんじゃねぇのかよ。逆に寝るって、どういう事?」
俺の文句など、眠っている悠木に届いているはずもないのだが、ふいに、悠木の手が俺の手を握った。
「えっ」
「なつき・・・・」
「悠木?」
「すき・・・・」
どう見ても、目の前の悠木は眠っている。
規則正しい、小さな寝息を立てて。
と、いうことは。
これ、寝言?!
まったく、なんつー可愛い寝言を・・・・
俺の手を握る悠木の手を握り返し、穏やかな寝顔を眺めながら、俺は思った。
ほんと、こいつはとんだ眠り姫だけど。
それでも。
俺にとっては、大切な、愛しい、眠り姫だと。
・・・・随分変わったお姫様だけど、な。
【終】




