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130/131

130.そして・・・・

 唇にフワリと触れる、柔らかい唇の感触。

 知ってる。この感触。

 初めての、悠木とのキスの感触。

 忘れもしない、あれは、俺がルイの相手役のモデルをした時だ。

 というか。

 何回目だ、これ。

 寝てる間にキスされるの。


 目を開くと。

 目の前にあったのは、どれだけ見たって飽きないくらいに、綺麗なグレーの瞳。

 ゴロリと絨毯の上に寝転がった俺の体の横に両腕をつき、悠木が俺を見下ろしていた。


「おはよ、しじょー」

「お前なぁ・・・・」


 犯罪級に綺麗な瞳で見つめられて悪い気なんてする訳ないし。

 好きな奴にキスされて嬉しくない訳なんて無いんだけど。

 でも。


「逆だろっ!これ、俺がしたいヤツっ!」

「へぇ。奇遇だね。私もだよ」

「マジか・・・・」


 トンッ、と下から悠木の体を押し上げ、その勢いを利用する形で、形勢逆転。

 今度は俺が、悠木を見下ろす形になる。


 あれから。

 悠木が海外行きをドタキャンしたあの日から。

 悠木は真菜さんが手配していたアパートで独り暮らしを始めていた。

 どうやら、悠木のかーちゃんは、もしかしたら娘は日本に残るかもしれない、と感じていたらしい。

 そして、もしもの時のための手配を、真菜さんに頼んでいたとのこと。

 悠木は言っていた。


「ママには、帰る度に、しじょーの話を聞いてもらってたから」


 一体悠木は悠木のかーちゃんに、俺の何を話していたのだろうか。

 そして、悠木の親父さんは、娘の願いをちゃんと理解してくれたのだろうか。

 ・・・・もしかして俺、可愛い娘をかどわかした、サイテーな男、とか思われてたりしてねーよな?!

 それはまだ、あまりに恐ろしすぎて、とても聞けるような状態ではないのだけど。

 ともかく。

 悠木は今、アパートで独り暮らしをしていて、アルバイトをしながら、大学受験に向けて勉強をしている。

 まぁ、悠木なら、勉強なんてそんなに頑張らなくても、あっさり合格するんだろうけど。

 そして俺はその悠木のアパートで、アルバイトに行っていた悠木を待つ間に寝てしまい、キスで起こされた、と言う状況。

 そうそう。

 俺達はめでたく、付き合う事になったんだ。

 そりゃ、そうだろ。

 俺は、悠木とは離れたくないって思ったし。だいたい、既に告ってたし。

 悠木だって、俺の側にいたいからって、海外行きをドタキャンしたんだ。

 これで付き合わないって言うなら、一体なんなんだよ、俺達の関係って。

 まぁ。

 付き合う、って言っても、これまでの関係とそれほど変わらない気もしているんだが。

 ・・・・ほんの少し、甘い要素が追加された程度で。


「なぁ、悠木。眠り姫ってのは、王子様のキスで起こされるもんじゃねぇの?」

「眠り姫?」

「いつでもどこでも寝ちまうお前は、まんま眠り姫だろ」

「・・・・姫、って」


 照れくさそうに、悠木が吹き出す。


「王子様は?」

「そりゃ・・・・俺、だろ?」

「自分で、言うか」

「・・・・うるせー」


 照れくさくなって気を抜いたとたん。

 不意を突かれてゴロリと横回転し、またも俺は悠木に見下ろされる体勢になる。


「今時、待ってるだけの姫なんて、古いよ?」

「そうなのか?」

「それに」


 綺麗なグレーの瞳が、俺を見つめたまま、優しく細められる。


「眠り姫はもう、起きてるから」

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