130.そして・・・・
唇にフワリと触れる、柔らかい唇の感触。
知ってる。この感触。
初めての、悠木とのキスの感触。
忘れもしない、あれは、俺がルイの相手役のモデルをした時だ。
というか。
何回目だ、これ。
寝てる間にキスされるの。
目を開くと。
目の前にあったのは、どれだけ見たって飽きないくらいに、綺麗なグレーの瞳。
ゴロリと絨毯の上に寝転がった俺の体の横に両腕をつき、悠木が俺を見下ろしていた。
「おはよ、しじょー」
「お前なぁ・・・・」
犯罪級に綺麗な瞳で見つめられて悪い気なんてする訳ないし。
好きな奴にキスされて嬉しくない訳なんて無いんだけど。
でも。
「逆だろっ!これ、俺がしたいヤツっ!」
「へぇ。奇遇だね。私もだよ」
「マジか・・・・」
トンッ、と下から悠木の体を押し上げ、その勢いを利用する形で、形勢逆転。
今度は俺が、悠木を見下ろす形になる。
あれから。
悠木が海外行きをドタキャンしたあの日から。
悠木は真菜さんが手配していたアパートで独り暮らしを始めていた。
どうやら、悠木のかーちゃんは、もしかしたら娘は日本に残るかもしれない、と感じていたらしい。
そして、もしもの時のための手配を、真菜さんに頼んでいたとのこと。
悠木は言っていた。
「ママには、帰る度に、しじょーの話を聞いてもらってたから」
一体悠木は悠木のかーちゃんに、俺の何を話していたのだろうか。
そして、悠木の親父さんは、娘の願いをちゃんと理解してくれたのだろうか。
・・・・もしかして俺、可愛い娘をかどわかした、サイテーな男、とか思われてたりしてねーよな?!
それはまだ、あまりに恐ろしすぎて、とても聞けるような状態ではないのだけど。
ともかく。
悠木は今、アパートで独り暮らしをしていて、アルバイトをしながら、大学受験に向けて勉強をしている。
まぁ、悠木なら、勉強なんてそんなに頑張らなくても、あっさり合格するんだろうけど。
そして俺はその悠木のアパートで、アルバイトに行っていた悠木を待つ間に寝てしまい、キスで起こされた、と言う状況。
そうそう。
俺達はめでたく、付き合う事になったんだ。
そりゃ、そうだろ。
俺は、悠木とは離れたくないって思ったし。だいたい、既に告ってたし。
悠木だって、俺の側にいたいからって、海外行きをドタキャンしたんだ。
これで付き合わないって言うなら、一体なんなんだよ、俺達の関係って。
まぁ。
付き合う、って言っても、これまでの関係とそれほど変わらない気もしているんだが。
・・・・ほんの少し、甘い要素が追加された程度で。
「なぁ、悠木。眠り姫ってのは、王子様のキスで起こされるもんじゃねぇの?」
「眠り姫?」
「いつでもどこでも寝ちまうお前は、まんま眠り姫だろ」
「・・・・姫、って」
照れくさそうに、悠木が吹き出す。
「王子様は?」
「そりゃ・・・・俺、だろ?」
「自分で、言うか」
「・・・・うるせー」
照れくさくなって気を抜いたとたん。
不意を突かれてゴロリと横回転し、またも俺は悠木に見下ろされる体勢になる。
「今時、待ってるだけの姫なんて、古いよ?」
「そうなのか?」
「それに」
綺麗なグレーの瞳が、俺を見つめたまま、優しく細められる。
「眠り姫はもう、起きてるから」




