129.見送り③
「何してんだよ、こんなとこで。藤沢も、夏川も」
一番いいとこ邪魔しやがって。
とは、さすがに口には出さなかったけども。
驚きと気恥ずかしさからか、後ろに下がる悠木を背中で隠してやりながら、俺は藤沢と夏川をジト目で見てやった。
俺の言いたいことが嫌というほど分かっているらしい2人は、気まずそうな表情など浮かべている。
「亜由実があんなとこで声出すから」
「だって!あんなの見ちゃったら声出ちゃうでしょ、普通!」
・・・・全部見てた、って訳か、まったく・・・・
文句の1つも言ってやろうとしたところへ、現れた人がもう1人。
「ねぇ、夏希くん見つかった?・・・・あれっ?・・・・・あれっ?!瑠偉っ!」
悠木の姿を見つけるなり、真菜さんがすごい勢いで駆け寄って来た。
そして、悠木の肩に両手を掛け、信じられないものでも見るかのように問いかける。
「あなたどうしてここに居るのっ?!もう、飛行機の時間はとっくに」
「行けなかったの、私」
「えっ?」
「どうしても、行けなかった」
言いながら、悠木がキュッと、俺のコートの袖を掴む。
それで、全てを察したのだろう。
悠木の肩から手を外し、真菜さんは小さく息を吐いて、笑った。
「なるほど、ね」
そして、後ろを振り返り、何とも言えない顔をしたままの2人に声を掛ける。
「良かったわね、夏希くんが落ち込まなくて済んで」
「えっ?」
「あの2人、あなたの事心配してここまで来たのよ?瑠偉が居なくなったら、夏希くんは絶対に落ち込むからって。落ち込んだ夏希くんを励ましたいから、瑠偉の乗る飛行機の時間を教えてくれって、しつこくてねぇ。おまけに、空港まで車出してくれ、って。もう、参ったわ」
待て。
待て待て。
なんだよ、それ。
真菜さんの言葉に、文句の言葉が一瞬にして消え去った。
なんだよ、お前ら。
なんなんだよ、一体。
なんて・・・・いい奴らなんだよっ、2人してっ!
これじゃ俺、文句なんて、何にも言えないじゃないかっ!
胸に熱いものが込み上げてきて、俺は思わず2人から顔を背け、空を仰ぐ。
「しじょー?」
心配そうに声を掛けて来る悠木に、俺は言った。
「大丈夫だ。猛烈に感動してるだけだから」
「そっか」
コートの袖を掴んでいた悠木の手が一瞬離れ、そっと俺の手を握る。
空を仰いだまま、俺はその手を強く握りしめた。
空港からの帰り道。
真菜さんの運転する車の中は、賑やかな事この上無かった。
「良かったぁ、悠木が行かないでくれて。あたし、ホントに寂しかったんだよ、悠木が外国行っちゃうって聞いた時」
「ありがと、夏川さん」
「良かったな、夏希。いや~、ほんと良かった。俺、暫くは夏希の励まし役に徹するしかないって覚悟してたんだぞ?お前、瑠偉の事になったら、ほんと、とんでもなく感情豊かな反応するからな。相当落ち込むんじゃないかって、本気で心配してたんだからな?」
「・・・・お前、俺をなんだと思ってるんだよ?」
「何って、瑠偉大好き人間、だろ?」
「藤沢っ!」
「あははははっ!」
行きの電車とは、大違いに楽しくて。
悠木はもちろん。
藤沢も、夏川も、真菜さんも。
そして、俺も。
みんなの笑顔が弾けていた。
そんな中。
藤沢が、ふと顔を曇らせて、言った。
「でもお前、頑張れよ?」
「ん?なにを?」
「瑠偉の親父さん、瑠偉のこと楽しみに待ってたみたいだからな」
「・・・・えっ」
「ちゃんと、理解してもらえればいいけどなぁ。日本語、あんまり通じないみたいだし」
「・・・・はぁっ?」
「あれ?知らなかったか?瑠偉の親父さん、日本人じゃないぞ?瑠偉のあの瞳は、父親似だからな」
藤沢よ。
何でそれ、もっと早くに教えてくれなかったんだ・・・・
得体のしれない恐怖に、俺は思わず、ゴクリと生唾を飲み込んだ。




