128.見送り②
「あれ、か?」
1人呟き、滑走路上をゆっくりと動き出した飛行機をじっと見つめる。
あの中に、悠木が乗っている。
あの飛行機が、悠木を連れて行ってしまうんだ。
海を越えた、遠くの国へ。
そういやお前、眠いって、言ってたな。
もしかして、もう寝ちまってるとか?
いやいや、そりゃないだろ。
せめて。
俺の視界からお前の乗った飛行機が消えてから、眠ってくれないだろうか。
「しじょー」
よしよし、起きてるな。
大丈夫だ、ちゃんと聞こえたぞ。
まさかお前、飛行機の中で叫んだ訳じゃないよな?
そんなことしたら、捕まるからな?
大人しく、乗ってろよ?
安心しろ。
俺はちゃんと、ここで見てるから。
「しじょー」
え?マジ?
やばい、俺、ついに幻聴が聞こえるようになったか?!
つーか悠木、お前ほんとに、飛行機の中で叫んでる訳じゃ、ないだろうな?
頼むぞ、やめてくれよ。
捕まってるお前なんて、俺、見たくないからな?
「しじょー!」
声と共に腕を掴まれ、思わず隣を見る。
と。
居るはずの無い奴の姿が、そこに見えた。
やばい。
これ、本格的に、やばいヤツじゃねぇかっ?!
幻聴だけじゃなくて、幻覚まで見えるなんて・・・・別に俺、ヤバいクスリとか、やってる訳でもねぇのに。
「しじょー、私・・・・」
居るはずの無いそいつは、俺の腕を掴んだまま、俺を真っ直ぐに見つめていた。
少し強めの風に長めの前髪が煽られ、現れた綺麗なグレーの瞳は、今にも零れ落ちそうな透明な膜で覆われている。
「無理、だった」
「悠木?」
「私、行けなかった」
もしかしてこれは、幻覚じゃなくて、本物の悠木なのだろうか。
でも、悠木はあの飛行機で・・・・
「私、ここにいたい」
俺を見る悠木の目から、透明な滴が零れ落ちる。
いくつもの筋となって、悠木の頬を伝い落ちる。
「しじょーの側に、いたい」
俺、夢でも見てるんだろうか。
でも、夢でもいい。
もしここにいる悠木が、幻覚だったとしても。
俺の聞いた悠木の言葉が全て、幻聴だったとしても。
それでも、俺は。
掴まれた腕を強く引き、バランスを崩して倒れ込む悠木の体を、そっと抱きしめる。
力を入れたら、とたんに消えてしまいそうな、壊れてしまいそうな、そんな気がして。
でも。
腕から伝わる、体中で感じるこの温もりは絶対に。
夢なんかじゃない。
幻覚でもない。
これは、本物の悠木だ。
悠木が、ここに居るんだ!
嬉しさと、安堵感が込み上げてきて、俺は悠木を抱く腕に力を込めた。
「うん。俺も。お前に側にいて欲しい」
『きゃー・・・・うぐっ』
『ばかっ、聞こえるだろっ』
ん?なんか今、覚えのある声が、聞こえたような?
それは悠木の耳にも届いたらしく、俺の腕の中で顔を上げて、不安そうに俺を見る。
腕を解いて悠木を開放し、2人で周りを見回すと。
「よ・・・・よぅっ、偶然、だな」
「あっ、れー?ほんと、すごい、偶然、だね!」
白々しいセリフを口にしながら、植え込みの陰から見知った2人組が姿を現した。




