123.合格発表②
「受かったよ」
芝生の上に寝ころびながら、悠木にそう伝える。
「おめでと」
同じく芝生の上に寝ころんだ悠木が、そう呟く。
「色々と、ありがとな」
抱き合って合格の喜びを分かち合うとか。
ワーキャー言いながらはしゃぎ合うとか。
悠木と俺は、そんな関係ではないから。
多分、これが一番、しっくりしているんだと思う。
きっと、悠木には伝わっていると思うんだ。
俺の喜びも、感謝も。
だって、俺にはちゃんと分かるから。
悠木が、ものすごく喜んでくれている事が。
だから、そのうち寝息が聞こえてくるんだろうと思いきや、悠木は突然ムクリと起き上がり、俺の顔を覗き込んできた。
「しじょー。話がある」
突然、何の前触れも無く、心構えをする間もなく、犯罪級に綺麗なグレーの瞳に目の奥まで覗き込まれたようで、俺の心臓は久々に爆音を上げ始めた。
「ななななんだよ」
慌てて飛び起きてみれば、悠木は芝生の上でかしこまり、正座などして俺の方を見ている。
「何だよいったい」
「卒業式が終わったら、両親の所に行く」
淡々とした口調で、悠木は俺にそう告げた。
爆音の心臓が急速に冷やされ、温度差に耐え切れずに痛みを訴え始める。
いや、温度差の痛みなんかじゃない。
これは、悠木自身の口から現実を突きつけられたことによる痛みだ。
悠木が遠くへ行ってしまうという、現実を。
「そっか」
胸の痛みを無視し、俺は敢えて、何でも無い風を装って言った。
「黙って行くつもりなんだと思ってた」
「え?」
「聞いてたんだ、真菜さんから」
「・・・・そう」
「何でなにも言ってくれないんだろうって、思ってた」
「受験に響くと、悪いと思ったから」
「えっ」
「しじょーは、動揺しやすいから」
「なんだそれ」
「合格が決まったら、話そうと思ってた」
「そっか。つーか、落ちたらどうするつもりだったんだよ?」
「合格すると思ってたから」
当たり前のように言って、悠木は笑う。
俺より俺の事を考えて、俺の事を信じてくれていたんだ。
全く、悠木には敵わない。
「しじょー」
笑いを消して、悠木は続けた。
「離れても、それでも気になるなら、好き、なんだと思う」
「え?」
「だから、もう少し、時間が欲しい」
これが悠木からの告白の返事だと気づくまでに、少し時間がかかってしまったけれど。
気付いた瞬間、俺はなんだか気持ちが軽くなった気がした。
返事というか、おそらく、考え抜いた末の、中間報告。
それでも悠木は、ものすごく一生懸命に、そして前向きに、俺の想いと向き合ってくれていたんだ、ということが伝わってきたから。
少し緊張気味の悠木に、俺は小さく頷いた。
「もちろんだ」
それから昼休みが終わるまで、俺達は芝生の上に並んで寝ころび、温かい日差しを浴びながらのうたた寝を楽しんだ。
これが俺たちの、学校での最後の昼寝になった。




