120.バレンタイン②
「ここ、2年連続で出題されてる。今年も可能性はあるかも」
「だな。頭に入れておいて損は無いな」
【傾向と対策】にも抜かりは無い。
悠木先生は、入念に過去の出題傾向を調べ上げてくれていた。
自分が受験する訳でもないのに。
俺自身ももちろん、自分なりに過去の出題傾向を調べてはいたが、受験に【やり過ぎ】なんて言葉は、存在しないのだ。
悠木先生の助言を有り難く頂戴しながら、俺はいつもと変わらず、過去問集に向き合っていた。
ただ、1つだけ、今日は朝からずっと気になっていた。
どうも、悠木の様子がおかしい。
勉強を教えながら普通に爆睡する悠木先生は【おかしい】のがいつものことだが、今日の悠木はその点が【普通】なのだ。
大抵、少なくとも小一時間くらいは居眠りをしておかしくないのが、今日は1分も寝ていない。
加えて、どこかソワソワと落ち着きが無いように見える。
俺の受験が近づいてきて、緊張しているとか?
・・・・まさか、な。
俺に遠慮して、眠いの我慢してるとか?
・・・・それなら、有りうる、かも?
「悠木」
「えっ」
「眠いなら、寝ていいからな」
「・・・・うん」
「聞きたい事あったら起こすから」
「・・・・うん」
何とも歯切れの悪い、悠木の返事。
結局、帰る時間になるまで、悠木は一睡もしなかった。
「気を付けて帰れよ」
「うん」
バイクで寮まで送って行く、という俺の申し出は、いつも悠木に断られる。
こんなに勉強見て貰っているのに、せめて帰りくらいは送らせてほしいと、そう言っても、断られるのだ。
事故にでもあって受験ができなくなったら大変だからと。
結局今日も、いつも通り、帰る悠木を見送るべく玄関先に立っていると。
「・・・・これ」
手にした鞄の中から小さな包みを取り出し、悠木はそれを俺に押し付けてきた。
「えっ?なに?」
「頭使うと、糖分、消費するから」
「・・・・はっ?」
「じゃ」
あっけに取られている俺を放置して、悠木はさっさと玄関から出て行った。
「なんだよ、変な奴。・・・・変なのは前からだけど」
1人呟きながら部屋に戻り、何気なくカレンダーを見た俺は。
「マジか・・・・」
今日の日付は、2月14日。
包みの中身を見れば、そこには手作りと思われる、可愛らしいチョコレート菓子。
口に入れると、ほろ苦さの後に、じんわりとした甘さが口いっぱいに広がって。
「あ~・・・・幸せ」
思わず俺は、そう口にしていた。
別に、なんだっていいんだ。
これが、義理チョコだろうが、友チョコだろうが。
受験応援チョコだろうが。
そんなこと、どうだって、よかったんだ。
悠木からバレンタインにチョコを貰えたという事実だけで、俺は充分に幸せだった。




